爽やかな草原を草木一本生えてない荒野に変えたあと、またしばらく西に進むと森が見え始めた。この森を抜けた先に新発見のダンジョンがある。今晩は森の入り口付近で野営することにした。
さて、勇者の魔法について四人で話し合いをし、今後の方針を考えてみた。
「まず、勇者は言葉が武器になるし、不穏分子を寄せ付ける危険なものです。不用意な言葉で災厄を招かないようにしましょう」
「いやまさか魔物召喚してしまったのか? あの一言で」
「ごめんなさい、そういえば勇者にはキチンと説明してなかったっけ。あなたの口から発せられる音には単なる魔法のような効果ではなく、とんでもないチートスキルが付与されていた事が、私の鑑定スキルで判明していたの」
《ゴッドパワースペル「言葉による世界改変/思念具現化」》
「つまり?」
「魔法では、精霊の力で物質の『状態』を操作しているのだけれど、あなたのスキルでは、物質そのものの『性質』『状態』『存在』を作り変える力があるようなの。分子レベルの状態変化が魔法だとすると、勇者のスキルでは、素粒子レベルで原子を作り変えている」
「なんてデタラメなスキル……。あ、スキルガチャ……」
「いえ、勇者は転生ではなく転移してきたので、ガチャは引いてないのだけれど……、まさかね、あのすっとぼけ神様、また何か隠しているんじゃ……」
「私の時も、最初は理由が分からなかったんですよねえ。『ホーリーライトニング』でしたっけ? ただの明かり魔法かと思ったら、ぬいぐるみに宿りし魂を人間レベルの魂にまで引き上げるスキルだったんですよねえ」
「なにをトリガーにして勇者の……、便宜上『魔法』と呼びましょうか。どのようにして魔法が発動するのかが、不明だけれど、どうやら普通に会話しているだけでは何も起こらないが、勇者の『意思や感情』が加わることにより発動している節があるように思える」
「昼間の《超新星爆炎(フレアノヴァ)》なんかは、あきらかに勇者の強い意思を感じたかも」
「最初に見た『ファイヤーボール』なんかも、『感情』を感じたわね」
「しかし、『あー、つまらん。魔物でも襲撃して来ないかなぁ』、これはどういう事なのかしら……。勇者が求めたから? それとも、たまたま魔物が我々を察知して襲ってきたのか……」
「なんにせよ、勇者には不用意な言動は控えてもらいましょう」
「そうですね」
「なんだよ、俺が悪いのかよう。なんだか魔物……モガガ!」
「駄目! またなんか起きたら大変!」
「ふぅ……分かったよ。気をつけるよ」
「で、それはそれとして、勇者の魔法、加減を間違えなければこれは無敵じゃないかしら?」
ベルンハルトが、勇者の魔法を肯定的に捉えている。
「そ! そうなのよ! キチンとコントロール出来れば、魔王なんて敵じゃないと思うのよ」
アリサちゃんも、なんだか目をキラッキラさせてまあ。
「というか、勇者が魔王クラスの化け物な気もしますが……」
私としては、前に見た予知夢を思い出していた。
「言えてる」
さて、どうやって勇者の魔法をコントロールしようか。監視役として動向している聖女としての役割がヒントになりそうね。
―― つづく ――