果てしない草原を、ただひたすらに黙々と歩き続ける、勇者パーティ。そよ風がやさしく草原の草をゆらしながら流れていく。青い空に白い雲がゆっくりと漂っていた。
そこを無言で黙々と歩く四人……。退屈だ。なんの刺激もない旅ほど、退屈なものはない。
そんな時、勇者としあきは、ポロリと呟く……。
「あー、つまらん。魔物でも襲撃して来ないかなぁ」
「ちょっ! あんたが言うとシャレにならないって。フラグはよしなさい」
私は、勇者の言葉がヤバい事を知っているので、制止しようとしたがもう遅い。
「あら? あれは何かしら?」
アリサちゃんが、大きな帽子をたくし上げ、遠くを眺めた。何かが近づいてくるのが見える。黒く小さな点が、徐々に増えていくのが分かる。
「……!」
いやいやいや、まてまてまて! あっという間に草原の緑色が、黒く染まっていく。前からも、後ろからも、左も右も、少しずつ距離を詰めてくる。
「大量のゴブリンが襲ってきた!!」
「いや、まてまて! ただのゴブリンじゃねえ! ウルフライダーまでいやがる」
ベルンハルトとアリサちゃんが、身構える。
そして街道横の草むらからは、大量のヒスイスライムの群れ!
――ゴロゴロゴロゴロ
さっきまで晴れ渡っていた空に暗雲が立ち込めたかと思ったら、あちこちで雷が光っていた。
――ぴしゃああああん
これはまずい。
「我が呼びに応えよ、大いなる炎の精霊(イグニス)よ! 遍く大地を焼き尽くす劫火となりて、敵を塵と化せ! 《メテオストライク》!!」
アリサが突破口を開くべく、高火力魔法をぶっ放した。するとそれを見ていた勇者としあきが何かブツブツ言っていた。
「おお、アリサかっけえええええ! よおし、俺も……こんな感じかな?」
えっ、まずいまずい、勇者が本気だしたら世界が、宇宙が崩壊する……。
「数多の魔素よ、我が手に集え。事象を書き換え、天地を繋ぐ螺旋を描け。物理法則すら超越し、真紅の業火を紡ぎ出せ! 対象、一点収束――《超新星爆炎(フレアノヴァ)》!!」
――チュン!
一瞬の間をおいて衝撃波、そして熱風が吹き荒れ、暗雲たちこめる空に穴を開けた。
眼の前に広がっていた草原は、あっという間に岩や砂が転がっている荒野と化した。ゴブリンや、ウルフ、スライム……跡形もなく消滅したようだ。
「ちょっとアリシアさん……勇者やばくないです? こんなのダンジョンの中で使われたら……、ダンジョンそのものが無くなってしまいそう」
「うーん、勇者にはちょうどよい塩梅というものを覚えてもらう必要がありそうね」
私とアリサちゃんで、ヒソヒソ話をしていると、ベルンハルトも一言。
「えっ、めっちゃ頼もしいじゃないですか。この調子なら魔王討伐なんて余裕じゃないですか?」
「いやいやいやいや」
私とアリサちゃん、顔と手をブンブン振って、強く否定の意思を示した。
これはダンジョンに入る前に、一旦訓練が必要かもしれないですね。
―― つづく ――