つい最近のことだ。王国の西の端、王都から歩いて3日程かかる場所で、新たに古代遺跡が発見された。その奥に、ダンジョンの入口があるのが確認されたらしい。未踏ダンジョンである。
未踏ゆえに何が起こるか、またレベルはどの程度のものか、まったく不明。その為、王都のセンターギルドでクエスト依頼をしても、どこの冒険者パーティも手を出しかねていた。
そこで新進気鋭で絶賛売り出し中のAランカーアークウイザードと剣聖が参加している、我々の勇者(候補?)パーティに白羽の矢が立った。パーティ名はまだない。
早速買い占めた配信魔道具の一部をギルドホールに設置し、またギルド関係者とも蜜に連絡が取れるように通話用も設置した。
王都を出て、何もない草原を歩いて半日。目指すダンジョンはとても遠い。ここから更に二日程は歩かねばならない。
あまり歩き慣れていない私と勇者は、かなり疲れていた。
「なぁ、まだダンジョンに着かないのか? もう疲れたよ……」
「勇者さん、何言ってるんですか! まだ半分も歩いてないですよ。もう少し歩いたら適当な場所で野宿しましょう」
旅慣れしたアリサちゃんがそう答えると勇者としあきは、さらに不満を吐いた。
「えー、宿は無いのかよう。宿で、ほかほかのマンガ肉を、冷えたエールで、ぐいっとやりたい」
「冷えた? エールはぬるいのがこの世界の常識ですよ」
「はっはっは! 俺は冷却魔法も火炎魔法も使えるんだぜ? 飲み物を冷やすくらい簡単だ」
「そ、そうでしたね。私だって魔法でそのくらいのことは出来るけど、その発想はなかった。さすが異世界転移者、考えてることが違う」
ああ、そういえばそうだった。この勇者は適当に詠唱、というか口にだす音や言葉だけで、状態を変化させられるんだった。アリサちゃんは転生で長いことこの世界で生活をしていたので、ここでの常識にすっかり馴染んでいるみたい。
さらに何もない草原をひたすら歩いた。
遠く西に見える山々に太陽が沈みかけている。もうすぐ夜になる。風よけに丁度よい二三本の木立があったので、ここを今夜の野営地とする。
「明日も、日が昇ったらすぐに出発しますので、今夜は食事が済んだらすぐに休みましょう」
保存食のジャーキーに、カチカチのチーズをかじりながら、水筒の水でぐいぐいと流し込む。夕食を楽しむという雰囲気ではないが、クエスト中なのでしょうがない。味気ない食事に勇者としあきも何かいいたげではあったが、何か言ったところでどうしようもないと分かっているのか、大人しい。
―― つづく ――