――勇者としあきのスキル名が判明
というのも私の聖女としての基本スキルに「鑑定スキル」があったのだ。どうやら天界でのスキルガチャとは関係なく、聖女になった時点で使えるようになっていたらしい。
勇者が私の膝枕で寝ている時に、何気なく顔を眺めていたら、頭の中で文字や数字が見えてきた。誰が名付けたかは知らないが「ステータス表示」というものらしい。
そこに表示されていたものは――
《ゴッドパワースペル「言葉による世界改変/思念具現化」》
今までのパターンでは、文字通りの意味の他に、また何かあるに違いない。
昨日の様子では、どうやら言葉に限らず、勇者としあきのクチから出る音ならどんなものでも、それが意味する「モノ」「コト」を現実にしてしまうらしい。
今のところはオノマトペだけで言葉(それも日本語)での具現化例は見られなかったが、昨晩見た夢は、聖女としての私の潜在意識が「有り得るかもしれない将来の危険性」を警告しているのだろう。
――王都内西の商店街
「ねえ、アリシアさま、これ知ってます? 最近王都で流行っている魔道具なのだけれど……」
「えっ? どれどれ?」
アリサが露天に並んでいた魔道具の1つを手に取り、アリシアに見せながら説明をした。
「じゃーん! なんとこの魔道具、この裏の蓋を開けて中にアダマンタイトの欠片を入れると、見えている風景と聞こえる音を記録する事が出来るんですよー。すごいと思いません? これ……ビデオカメラですよね」
ダチョウの卵のような形をした丸みを帯びたその魔道具には、前面に目のような装飾が、そして裏には蓋がついていた。
「へ、へぇ……異世界でビデオカメラ……、これって記録したものはどうやって見るの?」
「これ! これにですね、投影されるんですよ」
と、言いながら大きな水晶玉を指さした。
「こう使うんですよ」
目の装飾がある魔道具を構えて勇者としあきの方に向けると、水晶玉の中に勇者としあきの姿が映し出された。
「この魔道具のすごいところは、このペアとして設定された目と水晶は、どんなに遠く離れていても、たとえ大陸の端から端まで、海を超えても使えるんですよ」
こういうものにあまり興味のなかった私だけれど、勇者としあきの目が輝きをましていた。
「おいおいおい、それって、ダンジョン内でも映せるのか?」
「えぇ、ある冒険者パーティが、この魔道具を持ってダンジョン探索に行って、内部の様子をセンターギルドのホールで公開上映していましたよ。なんかおひねりのような投げ銭? ももらえてたみたいで……」
「……!」
勇者としあき、これだ! という顔で――
「異世界ダンジョン配信 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
「勇者……。ダンジョン配信……するかどうかは置いといて、これ、勇者のスキルを記録しておくのにいいわね、何個か買っていきましょう。おじさん4つ欲しいのだけれど、ナンボ?」
「オプションでアダマンタイトの欠片もつけて1つ、金貨10枚でいいよ」
こりゃあ売れるぞ、とニヤニヤしながら露天の親父が愛想よく答えた。
「えっ、今そんなに安いんですか? それじゃ、さらにアダマンタイトの欠片をマシマシで、セットを10個もらおうかしら」
「えぇ……アリサさん、高いじゃないですか。金貨100枚も……私持ってないですよ?」
「大丈夫ですよ、アリシアさま。支払いは私たちに任せてください。この位、この間のゴブリンの大群の一掃クエストの10分の1にもならないですよ。余裕余裕」
「あなたたち、さすがAランカー。すっかり頼もしくなっちゃって」
私たちは、この配信魔道具を大量に買い占めて、勇者としあきの謎スキルの記録と腕試しでダンジョン探索に行くことにした。
―― つづく ――