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第20話 棒人間ってなんなんでしょうね

 んん………心配です。


『大丈夫でしょうか、烏乃さん』


『平気でしょ、それより集中してよ新悟!!』


 今頃烏乃さんが天吏さんの案内の下に特訓場(新悟に相応しい強い女になる場所)に向かっているのでしょう。もしかしたら既に激しい特訓が始まっているのかもしれません……強くなるために頑張っているというのに僕は……


『あっ!!ほら、アイテム!!それとってそれ!!』


『え?これですか?この犬神の毛って奴ですか?』


『そっちじゃなくてチュパカブラの鱗の方だよ!!見りゃわかるでしょう!!』


『分かりませんよ、こちとら初心者なんですよ!!』


 自身の魂の中でメーちゃんとゲームで遊んでいるなんて……いやまぁそりゃ暇になったし、親交を深めたいと言ったのは僕ですけれどなんか罪悪感あるんですよね………


『やっぱり僕も一緒に行ったほうが良かったんじゃ』


『まだ出会って数日だってのに過保護だねぇ……そんなに父性を煽る顔してたかな?まぁあのスタイルは男の欲情を煽るとは思うけどねぇ』


『またそう言うこと言って……』


『なんにせよ過保護だよ過保護。もともとオラたち他人なんだし適当でいいって。それに新悟に来てほしくないって言ったのは烏乃自身なんだよ』


『そりゃそうですけれど……』


 つい先ほど、僕も共に頓狂な名前の特訓場に行こうとしたのですが烏乃さんに「ボーちゃん様に頼りきりになるのは嫌なんだ。大丈夫、この愛刀『夜鳴』と共に必ず強くなって帰ってくる。安心して待っていてくれ」と言われたのです。


『名前から考えて特訓場も間違いなく由良江が創ったものです……あの人を虐めることが趣味のドS女が創った特訓場なんていったい何をされるか分かったもんじゃありません』


『ふーん……そりゃ見てみたかったなぁ』


 メーちゃんはさして興味がない様子で両手で一つ、四つある翼を器用に使いもう二つのコントローラーを使用し、一人で三人分プレイをしています。この女神はどれだけゲームをやり込んでいるのでしょう……と言うか人の魂の中でどんだけ充実したゲーマーライフを送っていたのでしょうか………


 僕あんまりゲームやってこなかったのに羨ましいことですね…


『そういえばさ、巫女ってどういう巫女がいるの?』


『ん?』


『だーかーら、烏乃は『黒烏の巫女』、天吏ちゃんは『光輪の巫女』なんでしょ。『白蛇の巫女』ちゃんで三人目、全部で五人いるって話だし他の二人はどんな中二ネームな巫女なのかなぁって思って』


『そうですね、確か残りの二人は『サウルスの巫女』と『サウルス???』』


 僕が記憶をまさぐっているとメーちゃんが食い気味に割り込んできました。


『サウルスですけど……しょうがないでしょう、当時の僕はそう言うのがカッコいいと思ってたんですから………』


『だからってサウルスはないでしょ、サウルスは………プクククク黒烏とかはシンプルに中二パワーを感じるけどサウルスの巫女には芸術点をあげたくなるね…それで?もう一人は?』


『もう一人は確か……』


 僕が恥ずかしい記憶を引っ張り出そうとしていると、にわかに身体を揺らされました。瞬間的に意識が魂から現実世界に移転します。


「ボーちゃん、寝ているんですの?」


「あ、いえボーっとしていただけです」


「ボーちゃんだけにですか?ふふふ、まぁ良いですわ。烏乃さんはわたくしが責任をもって特訓場までお連れしましたわ……後どうなるのかは彼女次第ですの」


「分かりました、ありがとうございます………」


 天吏さんがふわりと浮かんで空中で停止しました。そして僕を上から下までジックリと見定めるように視線を回します。


「しかし……このエネルギーは尋常ではありませんわね」


「そうですか?」


「はい。とてもその貧弱な身体から発されるものだとは思えませんわ………ああ、言い忘れておりましたがわたくしは天使の一族の物でして、万物のエネルギーを見抜く瞳を持っているんですの……通称『天活眼』と言います……」

「『天活眼』ですか……」


 その天活眼とやらを存分に使おうとしているのか僕の顔に恐ろしいまでに近づき……そして僕の顔の〇の部分に自分の小さな顔を入れてきました。そのまま僕の腕を取りムニムニと触ってきます。


「どんな感触ですの?」


「暖かくて柔らかい手のひらの感触ですね」


「うむぅぅ………そもそも口も目も何もないこの身体でどうやって五感を働かせているんですの?」


「それは僕もとっても不思議に思っています」


『オラも不思議に思ってるんだよね』


 ゲーマー女神に分からなかったらお手上げですよね。


 僕が困惑していると天吏さんは淑やかに笑いながらテーブルに着きました。


「なんにせよ、貴方とは心ゆくまでお話ししたかったんですのよ……さぁ、リンゴジュースでも飲みながら親睦を深めるといたしましょう」


 上品な手つきでカップにリンゴジュースを注ぎ込んでいきましたが、二つ目に行く前に僕が声を挟みます。


「すいません、僕口がないので何にも食べられないし、飲めないんです」 


「…………本当に、どうやって生きてるんですの?」


「分かりません」


 改めて思います……棒人間って何なんでしょう………いやマジで。



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