「下手な嘘はつかんとってや。2人ともご立派な剣を持っているみたいやけど、しょせんは異国人の女と見るからに弱そうな優男やないか。それでも自分らのことを道士と言い張るなら、ちゃんとした証拠を見せんかい」
少女は鼻息を荒げて言い放ってくる。
なるほど、一理あるな。
俺とアリシアは、道士の証拠である道符を少女に見せた。
「……おいおい、何やこれは? ふざけるのも大概にしいや。道士は道士でも最低等級の第5級やないか」
はあ、と少女は大きなため息を吐いた。
「自分ら道家行でこれまでの経緯を聞いてこんかったんか? 第1級の道士でもアイツは追い出せんかったんやで? あんたらみたいな新人と変わらんような等級の道士なんてお呼びやない」
シッシッと野良犬でも追い払うように少女は手を振った。
さっさと帰れという意味だろう。
とはいえ、事の詳細を見極めるまでは俺たちも引くに引けない。
この薬屋の敷地内に本当に妖魔が住み着いているのか?
その妖魔はアリシアが探している魔王という異国の妖魔なのか?
住み着いていたとして、妖魔から発せられる妖気を感じないのはなぜか?
これらのことを確認するまでは、俺たち――特にアリシアは、どんなことをされてもここから絶対に帰ろうとはしないだろう。
もちろん、アリシアへの協力を惜しまない俺も同じだ。
敷地内に入れさせて貰えないならば、入れさせて貰えるまではここでずっと野宿することも構わない覚悟である。
だからこそ、俺は少女に「頼む」と頭を下げた。
「何はともあれ、まずは主人にお目通しをしてくれないか? 確かに俺たちは新人と変わらない最低等級である第5級の道士だが、これまでの道士たちとは違った結果を出すことを誓う。それは約束する」
「私も約束するわ。絶対に損はさせない」
俺たちの強い覚悟が伝わったのだろうか。
少女は「う~ん」と眉間にしわを寄せて唸った。
「やっぱりアカン。どんなに頼まれても弱い道士なんて必要ない。またいらん治療に時間を費やされるだけや……それとも何か? うちが納得できるほどの実力をあんたらは見せられるんか?」
「たとえば?」
と、訊き返したのはアリシアだ。
「そうやな……たとえば第1級の道士でも採ってくるんが難しい薬草や薬果のどれか1つでも採ってこれるとかや」
自信ありげに指摘した少女は、腰に携帯していた竹製の水筒を手に取っておもむろに蓋を開けた。
「薬草なら龍肝草や断火芝、薬果なら玉華棠か仙丹果あたりか……まあ、第5級の道士には絶対に無理やろうけど」
そう言うと少女は、水筒の口を自分の口につけて中身をぐいっと飲む。
「仙丹果ならここにあるぞ」
「ぶううううううううう――――ッ!」
少女は盛大に水を噴き出すと、何度も咳き込んでから俺に顔を向けた。
「冗談抜かすなや! 仙丹果は第5級程度の道士が採れるもんちゃうぞ!」
実際に見せないと納得しないか。
俺はアリシアに了承を貰い、荷物入れから仙丹果を取り出した。
その仙丹果を少女にぽんと渡す。
「ほ、本物や……本物の仙丹果や!」
わなわなと全身を震わせた少女に俺は言った。
「先に言っておくが盗品じゃないからな。この中農の街に来る道中に俺が採ったんだ。ちなみに仙丹果を好物にしていた山都の群れも根こそぎ倒した」
全身は分厚くて黒い体毛で覆われており、人間の背骨とほぼ同じ強度の青竹すら楽々と握り潰せるほどの膂力を持っている。
そして身体能力もさることながら、山都は必ず5体以上の群れで行動していた。
ゆえに等級が上の道士たちも、山都が好物にしている仙丹果を採りに行く場合は他の道士たちと共闘する場合が多いという。
十中八九、山都の群れと闘う羽目になるからだ。
しばし放心していた少女は、やがて仙丹果から俺に視線を移した。
「兄さん、うちはあんたに興味が出てきたわ。どうして仙丹果が採れるほどの腕前を持っていて第5級なんかは知らんが、とにかく立ち話も何やから全部ひっくるめて中で話そうか」
少女は仙丹果を俺に渡すと、すたすたと門を潜って中へ入っていく。
「待った。俺たちはまだここの主人に中へ入っていいか許可を貰ってないぞ」
「ああ? 許可なんて今したところやないか」
少女は立ち止まると、顔だけを振り返らせた。
「うちが百草神農堂の主人の薬士――