4月、中学校の入学式の朝。小学校を卒業したばかりの十二歳(十三歳になった人も少しだけいるかな)たちはドキドキしながら、これからの三年間を過ごす学校の門をくぐる。
ここ、市立緑が丘中学校でも、晴天のさわやかな朝の空気の中、三つの小学校から集まった新一年生が希望と不安を胸に続々と登校してきていた。
初めての制服に袖を通し、少しだけ大人になったむずがゆさを抱えながら……。
「アキト! ナツミ! オレたち三人、ついに同じクラスだぞ!」
昇降口でクラス分けの名前が書かれた紙を真っ先にゲットした
「ハルタ、声でかすぎ」
アキト、
「ホント。ハル、いつまでも小学生なんだから」
ナツミ、
三人は幼稚園時代からの幼なじみだ。だけど、小学校の六年間は一度も三人そろって同じクラスになることはなかった。
「みんな一緒になるのって、幼稚園以来だよな」
二人に駆け寄るやいなや、ハルタはにっこり笑ってそう言った。
「ああ、いつも一緒にいたから、あんまり意識したことなかったけど。六年はボクだけ三組だったね」
「アキトはいいよね、友だちいっぱいできてたし。私なんかハルと同じ二組で苦労したんだから」
「はは、またそれか」
アキトがナツミにほほ笑んだ。
「ハルがなれなれしくしてきて、ホントうざかった。『結婚するの?』とか、みんなにからかわれれてさ」
ナツミにそう言われたハルタはちょっとむっとした顔になった。
「なんかそればっか言うけどさ。ホントはオレと一緒でうれしかったんじゃないの?」
「そんなわけないでしょ、バカハル」
「あ! バカって言った。人権侵害だからなー」
「はは、難しい言葉知ってるね、ハルタ」
「ああ! アキトまでオレのことバカにするし」
「え? そんなことないよ。ハルタが難しいこと勉強してくれるとボクもうれしいんだけど」
「なんかやっぱ上から目線だなあ」
「はは、ごめんごめん」
「ハルはさ、だいだいちびっこなんだから自重しなさいよ」
「ああ、それも人権侵害だぞー」
ハルタの現在の身長は一四九センチ。伸び盛りとはいえ、今のところ三人の中で一番背が低い。
ナツミは一五五センチ、アキトは一六〇センチで、だいたい中一の平均身長ぐらいだから、三人一緒だとハルタの背が低いのが目立ってしまう。成長を見越して大きめの制服を買ったため、ハルタだけ上着のブレザーがだぶだぶで、ちょっとカッコ悪い。
「ハルは早生まれなんだし、私の方がだいぶお姉さんなんだから」
ナツミはそう言ってちょっと胸を張った。
「くそ―、半年だけじゃないか」
ハルタは三月生まれ、ナツミは八月生まれなので、正確には七カ月差だ。ちなみにアキトはその間の十月生まれだ。
「なんかさ、二人ってやっぱ夫婦っぽいかもね。めおと漫才ってやつ?」
アキトはいたずらっぽくほほ笑んだ。
「もう! アキトまで変なこと言わないでよ、そんなわけないよね、ハル?」
ナツミはふくれ顔になった。
「え? あ……うん、そうだね……」
ハルタはちょっと言葉をにごした。
「はは。でもさ、ホント三人、一緒のクラスになれてよかったよ」
そう言いながらもアキトが少し目を伏せたことに、ハルタとナツミは気付かなかった。