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第2話

「教室行こうぜ。一年一組だってさ」

「そうね」

「ああ」

 三人は肩を並べて、といってもハルタだけちょっと低いけど、昇降口を入って行った。

   ◇


 入学式が無事終わり、ハルタ、アキト、ナツミはそろって下校の途についた。三人の家は同じマンションの中にあり、クラスは違っても小学一年生の時から登下校もほとんど一緒だった。


「なんか小学校とは通学路が逆だから新鮮だね」

 校門を出たところでアキトが言った。

「途中にさ、古い神社があったじゃん。あそこお参りしてみない?」

 ハルタが寄り道を提案した。


「神社? ハルにしては珍しいこと言うのね」

 ナツミがハルタを横からちょっと小突きながら言った。

「もう、何すんだよ。なんかご利益りやくありそうだからさ」


「ハルタがご利益なんて言葉まで知ってるとは……ボクのハルタが成長していく……うれしいよ」

 アキトは遠い目をしてみせた。


「あ、またアキトはそうやってオレのことバカにするし。だいたいお前のものじゃないし、オレ」

「なんかさ、ハルタって見守りたくなっちゃうんだよね」

 アキトが微笑んだ。

「うう……アキトの上から目線がオレを刺す……」


「私はうざいもう一人の弟みたいにしか思えないけどね……まあ、弟というよりあれか」

「今度はナツミか。あれってなんだよ」

「まあ一応、かわいそうだから捨ておけないって感じかな」

「なんだよそれ、オレってネコかなんかかよ」

「捨てないんだからいいじゃない」

「くそ―、オレ泣いちゃうぞ」

「泣け泣け」

 ナツミはまたハルタを小突いた。


「はは、お前らホントに仲いいなあ。うらやましいくらいだよ」

 アキトがあきれた声を出した。


「オレとアキトだって仲いいじゃん」

「え?」

 アキトはちょっとドキッとした。


「だってさ、五年の時はお前の家でゲームしまくってたじゃん」

「ああ、スプラ!」

「イカでもタコでも、いくらやってもお前に勝てなくてさ、オレ、悔しくて家で泣いたこともあったんだから」


「よく泣く子ね、ハルは。寝る子は育つって言うみたいだけど、泣く子はどうだかなあ」

 ナツミが意地悪っぽく言った。

「くっそー、そのうち身長抜かしてやるからな。覚えとけよ」

「ふふ、わかった。覚えとくね」


 いつの間にか三人は神社の入り口の赤い鳥居の前に来ていた。


「あ、ここだ」

 ハルタが言った。

「けっこう木が茂っててちょっと怖いかも」

 ナツミが続けた。

「まあ、三人で行けば大丈夫でしょ」

 アキトは冷静だ。

「よし、お参りしよう」

 ハルタはそう言って真っ先に鳥居をくぐり、二人も後をついていった。


 参道の奥には小さなほこらがあった。

「神社にお参りするときはさ、作法があるんだぜ」

 ハルタが胸を張ってそう言った。

「ハルタが物知りになってる……ボク、うれしいよ」

 アキトが言った。

「あはは、実はさっきググっただけだけど」

「なんだ。でもハルタに調べる力が身についてる……やっぱりボクうれしいよ」

「なんかむかつくなあ、アキトのその態度」


「それはいいけどさ、作法ってどうやるの?」

 ナツミが聞いた。

「えっと、ちょっと待って、スマホでもっかい見るから……」

 アキトはスマホの検索を始めたが……。


「あれ?」

 アキトはほこらの手前の方に、赤い座布団に乗せられた大きな石があることに気付いた。

「なんか横に書いてある。えーと……」


 【願かけ石】と書かれた看板の下には小さな文字で説明があった。


「この石を持ち上げられたら願いがかなうんだって。ホントかなあ」

 そう言ってアキトは石に手をかけてみたが……。


「重っ! 一人じゃぜったい無理だ」


「じゃあさ、オレたち三人で持ち上げてみようよ」

 作法はそっちのけで、すかさずハルタが提案した。


「私もやるの?」

「当たり前じゃん!」

 ハルタが目を輝かせた。


「じゃあさ、ボクとハルタが両側から持ち上げるから、ナツミは石が上がったところで正面から支えてよ」

「うーん、それならまあ……」


「じゃあさ、ハルタそっち行って」

 そう言ってアキトは石の右側に行って手を掛けた。

 ハルタはスマホを制服のポケットにしまい、言われた通りに左側で同じように手を掛けた。


「せーの、でいくよ」

「わかった」

 アキトが言い、二人が答えた。


「せーの!」

 石が少し持ち上がった。

「うわっ! まじ重いよこれ」

 ハルタが叫んだ。

「きっついなあ」

 アキトも苦しそうな顔になった。


「気合いだ!」

 ハルタがはっぱをかけ、二人はなんとか石を座布団から持ち上げた。

「ナツミも手を入れて。そしたら、いっせいに願掛けしよう」

 アキトが言った。

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