1932年。大きなひまわりがわたしたち2人を包んでいた。
神社の境内で遊んでいた時、一平のお母様の手鏡が割れた。
「どうしよう‥‥」
2つに割れた鏡が足元に落ちて、わたしは立ちすくむ。
そんなわたしに一平は笑って言う。
「一緒に母様に謝ろう」
きっと、一平も怖かっただろう。
でも、「大丈夫、大丈夫」とわたしを安心させてくれた。
蝉の鳴き声が激しい暑い日だったことを覚えてる。
浴衣の下からはみ出る足まで汗が滲んでいた。
一平のお母様は顔をしかめ、短く叱った。
「もう勝手に持ち出して遊んではいけませんよ」と許してくれた。
優しく2人の頭を撫でて、そして、わたしを抱きしめた。
「女の子の顔に傷がつかなくて良かった」
一平のお母様の優しさを温かさを体で感じた。
そして、その瞬間、鏡を割った以上に、お母様のことを悲しませ、心を痛ませてしまったか‥‥。
もう勝手なことをしないと心に誓った。
きっと一平も同じ気持ちだったと思う。
お母様の優しさと温かさを忘れない。