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届いた片割れ
届いた片割れ
すずらん
歴史・時代日本歴史
2025年05月05日
公開日
3,752字
完結済
1950年の話 「2つに割れた鏡はお互いの片割れとして持っていよう」 親の都合でそれぞれ別々の人と結婚した光子と一平。 好きでもない相手との結婚であったけれど、 割れた片方の鏡があるから生きていける。 あなたも同じ気持ちであると信じてます。

第1話 お母さまの涙

 1932年。大きなひまわりがわたしたち2人を包んでいた。


 神社の境内で遊んでいた時、一平のお母様の手鏡が割れた。


「どうしよう‥‥」


 2つに割れた鏡が足元に落ちて、わたしは立ちすくむ。

 そんなわたしに一平は笑って言う。


「一緒に母様に謝ろう」


 きっと、一平も怖かっただろう。

 でも、「大丈夫、大丈夫」とわたしを安心させてくれた。


 蝉の鳴き声が激しい暑い日だったことを覚えてる。

 浴衣の下からはみ出る足まで汗が滲んでいた。


 一平のお母様は顔をしかめ、短く叱った。


「もう勝手に持ち出して遊んではいけませんよ」と許してくれた。

 優しく2人の頭を撫でて、そして、わたしを抱きしめた。


「女の子の顔に傷がつかなくて良かった」


 一平のお母様の優しさを温かさを体で感じた。

 そして、その瞬間、鏡を割った以上に、お母様のことを悲しませ、心を痛ませてしまったか‥‥。


 もう勝手なことをしないと心に誓った。

 きっと一平も同じ気持ちだったと思う。


 お母様の優しさと温かさを忘れない。

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