「この鏡、2つに割れたから、半分ずつ持っていよう。2人で1つだよ」
その時の笑顔を今でも覚えてる。
坊主頭からも汗を流して、夕陽に染まった顔が赤く照れたようだったから。
‥‥まるで愛の告白みたい
そんな気持ちになって初めて胸の鼓動が高鳴った。
毎日磨いて汚さないようにしていた。
絶対欠けることのないように、鏡で化粧をできる日を楽しみにしていた。
化粧をしたら、一平に見てもらいたい。
そう思うと、あの時の一平のように、鏡の中のわたしの顔が赤くなっていた。
だけど——
何度目かのひまわりの花が大輪になった時、お母さんの残酷な言葉が蝉の声よりはっきり聞こえた。
「あなたにお見合いですよ」
今、なんと言ったの?
わたしの心の声が聞こえたかのようにお母さんはもう一度言った。
「お見合いよ」
頭が真っ白になった。
もう夢を見ることができない。
戦時中、どうして断ることができようか。
嫌だ、と言葉にすることができようか。
‥‥せめて一平に伝えたい
玄関を出て走ろうとするわたしに、お母さんの言葉が刃物となってわたしに突き刺さった。
「一平さんもご結婚が決まったそうよ」
そんな話は聞いてない。
昨日会った時、2人で笑っていたのに。
お母さんを振り返った。
「決まったのは、さっきですって。2人揃って同じだなんて」
遠ざかっていくお母さんは、わたしの気持ちを知ってるだろう。
冷たく言い放つしかないお母さんの背中は、泣いていた。
夜の帳がすべてを物語っていた。
わたしの想いも、お母さんの悲しみも—。