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第2話 割れた鏡

「この鏡、2つに割れたから、半分ずつ持っていよう。2人で1つだよ」


 その時の笑顔を今でも覚えてる。

 坊主頭からも汗を流して、夕陽に染まった顔が赤く照れたようだったから。


 ‥‥まるで愛の告白みたい


 そんな気持ちになって初めて胸の鼓動が高鳴った。


 毎日磨いて汚さないようにしていた。

 絶対欠けることのないように、鏡で化粧をできる日を楽しみにしていた。

 化粧をしたら、一平に見てもらいたい。

 そう思うと、あの時の一平のように、鏡の中のわたしの顔が赤くなっていた。


 だけど——


 何度目かのひまわりの花が大輪になった時、お母さんの残酷な言葉が蝉の声よりはっきり聞こえた。


「あなたにお見合いですよ」


 今、なんと言ったの?


 わたしの心の声が聞こえたかのようにお母さんはもう一度言った。


「お見合いよ」


 頭が真っ白になった。


 もう夢を見ることができない。



 戦時中、どうして断ることができようか。

 嫌だ、と言葉にすることができようか。


 ‥‥せめて一平に伝えたい


 玄関を出て走ろうとするわたしに、お母さんの言葉が刃物となってわたしに突き刺さった。


「一平さんもご結婚が決まったそうよ」


 そんな話は聞いてない。

 昨日会った時、2人で笑っていたのに。


 お母さんを振り返った。


「決まったのは、さっきですって。2人揃って同じだなんて」


 遠ざかっていくお母さんは、わたしの気持ちを知ってるだろう。


 冷たく言い放つしかないお母さんの背中は、泣いていた。


 夜の帳がすべてを物語っていた。

 わたしの想いも、お母さんの悲しみも—。

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