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Dark Bloody Fairytail
Dark Bloody Fairytail
霞花怜
異世界ファンタジーダークファンタジー
2025年05月06日
公開日
4.4万字
連載中
※毎日1話更新 20:00※ しばらくお休み 【~10話→ほのぼの展開 11話~→+アクション展開増】 戦国時代の草(忍)ですが、気が付いたら異世界転移してました。 勇者に負けた元魔王に雇われたので、いつもの通り護衛します。 依頼主からの仕事で安土城に忍び込み薬研藤四郎を盗み出した草。 刀を手にした瞬間から記憶がない。気が付いたら知らない森の中にいた。 森の中で出会った竜王とかいう男に竜の鱗を埋め込まれた。 「奪ってやろうと思ったが、逆に奪われた。吾を守れ」 右も左も知らない世界で、衣食住を保証し、元の国に戻る方法を探してくれるというので、依頼を受けることにした。 竜王シドは魔王として勇者に退治されたらしい。 心臓を隠して死は逃れたが、隠した場所までたどり着くのが大変なのだそうだ。 シドと共に心臓を取り戻す旅をしながら、元の国に戻る方法を探すことにした。 ※魔獣や人型の生き物などと魔法や刀で戦ったり殺す描写が度々あります。  苦手な方は御自衛ください。

第1話 忍者、異世界転移する

 目を開いたら森の中だった。

 気配が、知っている森と違う。

 生き物や、それ以外の気配を雑多に感じる。

 なのに何故が、生が息を潜めて静まり返っている。


「ここは、どこだ。俺は、何をしていた……」


 手には小刀が握られていた。


(あぁ、そうだ。依頼をこなしていた。安土城から薬研藤四郎を盗み出す依頼だった)


 獲物が手元にあるのなら、盗みは成功したのだろう。


 草である自分は、依頼のたび、主が変わる。

 仕事が終わり、次の仕事が入れば、昨日まで主だった相手が暗殺対象にもなる。

 当然、草が命を狙われる危険もあるワケだ。


(殺されかけたのか? しかし、怪我はしていない。刀を手にしてからの記憶が曖昧だ)


 そんなことを考えながら、周囲の気配を探る。

 やけに禍々しく、だのに大きくない殺気を感じる。


(随分と注意深く探るのだな。これでは簡単に殺せてしまうが)


 殺気に反して力が小さいせいか。

 仕掛けてくる気があるのかないのか、わからない。


(依頼と保身以外の殺しはしない。故に、殺さない)


 それが草としての矜持だ。

 起き上がったら、何か飛んでいた。

 持っていた小刀で撥ね退ける。

 撥ね退けたつもりが、纏わりついた。

 粘り気のある蔦のようなものが、手と刀に絡まっていた。


(初めて見る性状だ。こんな植物は見たことがない。それに、生気を帯びている)


 纏わりついた蔦は生き物のように動いた。

 次の瞬間、胸を貫いた。


(速い。しかし、痛みを感じない……!)


 胸を貫いた蔦から、強い生気が流れ込んできた。


「あっ! ……ぅっ…」


 体中が熱い。心臓がやけに揺れる。鼓動が速くなる。


「はっ、はっ、はっ」


 息が上がって、立っていられない。

 思わず、その場に膝を付いた。


「中々に自我の強い人間だ。脳を喰らって体を乗っ取ってやろうと思ったが、無理そうだな」


 木陰から、人の形をした生き物が現れた。


(あれは、人ではない。何か違う生き物だ)


 感じたことがない殺気と生気。

 おおよそ、人のモノとは思えなかった。

 持っていた小刀で、蔦を切る。

 後ろに飛び退いて、距離を取った。


 その姿を眺めた人ではない生き物が、感心した顔をした。


「ほぅ。吾に魔力を流されながら、自我を保ち、機敏に動くか。面白い」


 人の男のような顔をした生き物が、ニタリと笑んだ。

 伸縮性のある蔦が、襲い掛かる。

 その男が操っているのだとわかった。


(小刀では分が悪いか)


 背中の刀を腰に降ろす。

 低く構えて、閃光を走らせた。

 襲い掛かった蔦が総て、細切れになった。


「ふむ、曲芸として、悪くない。なれば、これはどうか」


 ばさりと、木々の葉が揺れる音がした。

 沢山の鳥が一直線に飛んでくる。

 それもすべて切り刻んだ。


「躊躇がないな。良い動きだ。では、次だ」


 男が手を翳すと、たくさんの兎が襲い掛かってきた。

 それを刻んでいる間に、次は牛のような生き物が突進してきた。

 知っている牛とは違う、もっと大きく、角が多い。

 猪のように、見えなくもない。


(禍々しい気、妖怪の類か。アレも、あの男が操っているのか)


 兎の首をはねて、飛び上がる。

 頭上から回転し、牛の首をはねた。


「これを仕留めたら、認めてやるぞ、小僧」


 大して年の違わなそうな男が、見下したように顎を上げる。


(不思議な妖術を使う。あの男は、やはり妖の類か)


 男の後ろから、若い女が飛び出した。


「お願い、助けて! あの男は貴方を殺そうとしている。私と一緒に、ここから逃げて」


 女が駆け寄り、縋ろうと手を伸ばす。

 刀を横に一閃、振り薙いだ。


「助けて欲しくば、殺気を収めることだ。殺めようという相手を救う器量はない。すまんな」


 抜刀した刀をかちり、と収める。

 空気が揺れて、女の首が地面に落ちた。

 体が草むらに倒れ込む。手には匕首のような短い刀が握られていた。

 その体が黒い煙になって掻き消えた。


 一通りを眺めていた男が、パチパチと拍手した。


「素晴らしい。期待以上に使えそうだな」


 歩み寄ろうとする男を、刀の切っ先で制した。


「何のために俺を試した。俺の中に何を流した」

「流したのは吾の魔力。乗っ取るつもりで流したが、逆にお前に吸われた」


 男が胸に手を当てる。

 いつの間に、刀を飛び越して真ん前にいた。


(全く動きが見えなかった。飛んだ? いや、まるで、空間を切り取って移動したような)


 男が服を捲って、勝手に胸を露にする。


「よせ、何を……。待て、これは、なんだ」


 自分の胸に、さっきまでなかったものがある。

 硬い鱗のようなそれは、胸に埋もれて外れそうにない。


「吾の一部だ。吾の力の一部が、お前のモノになった。奪うつもりが、奪われた」


 何の悲壮感もなく、むしろ楽しそうに男が笑った。


「お前は、一体……」


 もはや、人でないのは、わかった。

 何者なのかを聞いて、理解できるかも微妙だが、聞かずにはいられなかった。


「吾は竜王。人の世では魔王と呼ばれ、勇者とかいう小賢しい人間に退治された」

「竜……。神の化身か?」


 竜と言えば、水神の化身として神社などに祀られている。

 そんな知識しかない。


「神も鬼も竜も、大差ないのだがな。神に喜んで贄を差し出す人間は、人を喰う生物を退治したがる。理解し難い思考だ」


 言われてみれば、その通りだと思った。

 生贄も食料も、命を落とす時点で大差ない。


「お前は人に負けたのか。殺されはしなかったんだな」

「殺されぬように心臓を隠した。だからこうして、生きている。お陰で魔力は弱くなったがな」


 よくわからなくて、首を傾げた。

 どこにどうやって心臓を隠して逃げたのだろうか。

 そもそも心臓だけ隠せるものなのか。


「しかし、隠し場所に辿り着くのが難儀でな。使えそうな人の体を乗っ取って移動しているが、人間は脆い。すぐに壊れるから、すぐに次が必要になる」

「それで俺の体を乗っ取ろうとしたのか」


 男が胸の鱗をトントンと指で突いた。


「魔力が弱ったとはいえ、並の人間より遥かに強い。だのに、お前は奪えなんだ。それどころか、竜の鱗を持っていかれた」

「これは、竜の鱗なのか」


 硬い鱗を、すいとなぞる。

 強い生気を感じた。これが魔力というやつなのだろう。


「お前、吾を守る気はないか?」

「守る? それは依頼か? 依頼であれば、受けてもいいが」


 そこまで言って、懐の小刀を思い出した。

 薬研藤四郎を依頼主に渡さなければ、今の仕事が終わらない。


「今はまだ、別の仕事を受けている。それを終えてからで良ければ、引き受ける」


 男が小難しい顔をした。


「その任は、恐らく終えられぬぞ」


 よくわからなくて、眉間に皺が寄った。


「この世界は、お前がいた場所ではない。お前の気配は別の場所から来た者どもと同じだ」


 男が、クンクンと匂いを嗅ぐ。


「吾を退治した勇者とやらも、お前と同じ匂いがした」

「別の、世界……?」


 理解が追い付かなくて、ただ言葉を反芻した。

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