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ゴブめし!~隠し味は異世界転生者~
ゴブめし!~隠し味は異世界転生者~
コル
異世界ファンタジースローライフ
2025年05月06日
公開日
4.6万字
連載中
料理好きの高校生・高木幸助は、車に轢かれ、異世界でゴブリンとして転生してしまう。 ゴブリンながら現世の知識を活かし、異世界の食材で美味しい料理を作り、ひっそりと暮らしていた。 そんなある日、人身売買の馬車がゴブリンの巣がある崖から転落。そこには雪ん子の少女ミュラが檻に捕まっていた。 幸助はミュラを世話し、「ゴブ」と名付けられる。徐々にミュラと絆を深めるが、冒険者の襲撃で巣を追われゴブは逃げ出し、ミュラは冒険者に助けられる。 だが、ゴブに懐くミュラが追いかけて来てしまう。ゴブはミュラの幸せを考え、彼女を港町に残すことを決意する。 港町に入るとミュラがお腹が空いたと言い、仕方なく人目のつかない裏通りでウェアウルフの女性コヨミが営む店「月牙の食堂」へと入る。 しかし、コヨミの料理は下手で店は閑古鳥状態。ミュラが「ゴブの料理の方が美味しい」と言い出し、ゴブが料理を作る羽目になる。 ゴブの料理を食べたコヨミが負けを認めるが、その後調子に乗ったミュラが、ゴブがゴブリンだとうっかり口を滑らせバレてしまう。 元冒険者のコヨミに殺されかけるが、必死のミュラの説得でゴブはなんとか命が助かる。 その後、ゴブ達の事情を聞いたコヨミはある提案をする、それはコヨミに料理を教える事だった。 現世のレシピと異世界の食材を融合させゴブ、ミュラ、コヨミの三人を中心に、波乱万丈の異世界生活が始まる。  ※3日おきの更新予定です。  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「アルファポリス」さん、とのマルチ投稿です。

第1章 小鬼と雪ん子

第1話

 俺がこの世界で最初に見たのは、明かりが松明のみの薄暗い洞窟。

 耳が尖り醜い顔をした全身緑色の小人達の下卑た笑顔。

 そして、大粒の涙を流し恐怖と絶望に満ちた女性の顔だった。




 俺の名前は高木幸助たかぎ こうすけ、18歳。

 公立高に通っている、料理が趣味の普通の高校生だ。

 いつも様に学校帰りにスーパーへと寄り、買い物を済ませた。

 そして、その帰り道に車のブレーキの音が背後から聞こえたと思ったら……この異世界でゴブリンとして生れ落ちていたわけだ。


 ゴブリンの成長は早く、たった1年で人間の10歳くらいまでの大きさになった。

 ゴブリンからしたらもう立派な大人である。

 その成長の早さと俺が現世界の知識があったおかげか、この世界の言葉と文字をすんなり覚えるとこが出来た。

 だがゴブリンの喉ではうまくしゃべることが出来ず、どうしても片言になってしまう。

 それでも、この世界の人達とコミュニケーションを取ろうとしたのだが……無駄だった。

 ゴブリンは嫌われ疎まれており、モンスターとして討伐の対象になっている為だ。


『はぁ……』


 俺は川に映った自分の醜い顔を見てため息をついた。

 どうして、よりもよってゴブリンに生まれたのだろうか。

 この世界には人間だけではなく、エルフやドワーフといった亜人。

 ケンタウロス、ウェアウルフの様な獣人も存在している。

 なのに……。


『はぁ……』


 もう一度ため息をつきながら、鉄の鍋に水を汲んで持ち上げた。

 そして、崖下にある洞窟……自分の巣へと持ち帰った。


 この世界の文明は大体中世時代辺り位だろうか。

 出来が悪いが鉄の精製、ガラス細工、風車等の簡単な技術はあるが機械は無い。

 だがこの世界は人種によって魔法が使える。

 ゴブリンも魔法を使える亜種が存在するが、俺は原種だから使えないのが悲しい。


『よいしょっと……さて、次は……』


 鉄鍋を自分で組み上げた石のかまどの上に置き、食料保存庫へと向かった。


『…………今日も色々盗んで来ているな』


 食料保存庫の中には、雑に置かれた大量の食糧があった。

 ゴブリンは生だろうが、腐っていようが、土が着いていようがお構いなしに口へと運ぶ。

 文字通りなんでも食うが、俺はそんな事はしない。

 姿はゴブリンでも心は人なんだから、ちゃんと選んで食う事にしている。


『クンクン』


 積まれた野菜を手に取り、1つ1つ匂いを嗅いだ。

 この世界の食料は現世界の物と味はよく似ているが、見た目が全く違う。

 ネズミ色の大根、凸凹の無い綺麗な球体のジャガイモ、真っ青なニンジン。

 家畜系は象の様に鼻が長い牛、額から長く伸びた角がある豚、四歩足の鶏などなど……最初に見た時はすごく驚いたものだ。


『クンクン……うん、これはまだ新しいな』


 ゴブリンは嗅覚が非常に優れている。

 そのおかげで、新鮮な食べ物がすぐにわかるのは地味にうれしい。

 俺は比較的新鮮で汚れていないジャガイモ、ニンジン、干し肉を選び、かまどの前に戻った。


『よし、調理開始だ』


 ジャガイモ、ニンジン、干し肉を手ごろなサイズに切って鍋に入れる。

 そこに大さじ1くらいの塩を入れて、様子を見ながら煮込めば……超簡単でシンプルな野菜スープの完成だ。


『さてさて、味はどうかな?』


 スプーンでスープをすくい、口へと運んだ。


『……ずず……うん、うまい』


 味付けは塩だけだけど、野菜と肉の出汁が出てきて十分うまい。

 本当ならここに溶き卵を入れるといいんだが……卵が無かったからしかたない。


『ギャッギャギャ!』


『ギャギャア』


『グゲゲ』


『ん?』


 声のする方を見ると3匹のゴブリンがこっちを見ていた。

 作ったスープの匂いにつられてやって来た様だ。


『はあ……よいしょっと……』


 俺は底が深い皿にほしい分だけスープを入れ、立ちあがった。

 いつもの事でもう慣れた。

 ゴブリン達は俺の作った料理を奪い合う。

 それこそ流血が出るほどに……だから、それに巻き込まれないよう俺は離れて飯を食う事にしている。


『スープくらい、分け合って――』


 と、突然巣の外からガシャーンと物が壊れる大きな音が響き渡った。


『なっ!? なんだ!?』


『ギギ!?』


『ギャギャ!!』


 巣の中にいたゴブリン達が一斉に入り口へと走って行った。

 俺も急いでスープを飲み干し、入り口へと向かった。




 巣の外には、鎖で繋がっている2台の大きな馬車が壊れていた。

 恐らく崖の上から落ちて来たのだろう。


「……いてて……クソが……」


「つー!」


 ふくよかな男と細身の男の2人がヨロヨロと立ち上がった。

 どちらも50歳前後位の中年で、身なりの良い格好をしている。


「おい! 何してんだよ!」


 細身の男が右手で左肩を抑えながら、ふくよかな男に怒鳴った。

 ふくよかな男は頭から血を流しながら答えた。


「しょうがねぇだろ! 馬が蛇に驚いて制御が…………って……げっ!!」


 ふくよかな男が俺達の方を向いて驚きの声をあげた。


「あん? 一体どうし……なっ!? ゴブリン!? こんなところに巣があったのか!!」


 細身の男も俺達を見て驚きの声をあげる。


「くそっ! さっさと逃げるぞ!」


 ふくよかな男が逃げようとするも、細身の男が躊躇する。


「けっけどよ、【積み荷】が……」


「馬鹿野郎! そんな事を言っている場合か! このままだと殺されるぞ! それにあの【積み荷】だから逃げられるんだろうが!」


「あっ! そうか!」


 男達はすぐさま森の中へと逃げて行った。

 ゴブリン達は中年の男は追いかけず、壊れた馬車に群がった。

 それもそのはず……。


「ひいいい!!」


「こっちにこないで!」


「いやああ! いやあああああああ!」


 馬車の荷物は檻に閉じ込められた多種多様の女性達。

 ゴブリン達が群がるのも当然だ。

 俺は馬車に寄らず、近くに落ちていた紙を拾い上げた。

 そこには種族とその横に数字が書かれている。


『これは……料金か?』


 どうやら、あの男達は人身売買をしていたようだ。

 どの世界にもクズはいるものだ。


「手を放して!!」


「誰かあああ助けてええええ!!」


 ゴブリン達が女性を無理やり巣へと連れて行こうとしている。

 助けてやりたいが、俺一人だと何も出来ない。

 これ以上ここにいても仕方ないと思い、巣へと戻ろうとすると……。


『うぎゃっ!?』


『へ?』


 冷気とゴブリンの悲鳴が聞こえ、その方向を見る。

 すると、全身が凍った状態のゴブリンがいた。


『な、なんだ?』


 凍ったゴブリンの先には小さな檻があり、その中には雪の様な白肌、腰まである水色のボサボサの髪、ボロ雑巾のような服を着た5~6歳くらいの少女が黄色い大きな瞳で俺達を睨みつけていた。

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