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第7話

 食った食った、満足だ……とまではいかない。

 やはりサワガニだけだと物足りないな。

 俺がこうだから、当然ミュラも……。


「……」


 空っぽの器をジッと見つめている。

 思った通り物足りんか。


「……はっ! ミ、ミュラはおなかいっぱいだよ! あ~おいしかったな~」


 ミュラは俺の視線に気が付き、右手で自分のお腹を擦った。

 すると、ク~と腹の虫が鳴った。


「あっ……ちっちがうの! これは~その~……ゴホッゴホッ! せきだよ! せき! ゴホッゴホッ!」


 ミュラがわざとらしく咳をした。

 嘘がバレバレだ。


『うーむ、他に食べ物があればいんだが…………あれ、待てよ』


 近くに大きな港町があるけど、ここは高台だ。

 毎日下りて、港町まで食料を買いに行くのは考えづらい。

 家の周辺には畑があった様子もないし、あの沢では大物なんて獲れない。

 森で植物を採ったり、狩猟するにも限界がある。

 となると、どこかに保存食といった備蓄がある可能性が高い。


 俺はキョロキョロと家の中を見渡した。

 食べ物が残っているのか、残っていたとしても食えるのかわからない。

 けど、探す価値はある。


「? ゴブ、どうしたの?」


 そうだ、家を掃除していたミュラなら何か見つけているかも。


「ミュラ この家 何か 変な所 なかったか?」


「へんなところ? う~ん、べつにそんな……あっそういえば、ゆかにしかくいせんがあったよ」


「四角い線? それ 何処?」


「こっちだよ」


 ミュラが後に着いて行くと、同じ部屋の片隅だった。


「これ」


 ミュラが指をさした床には、人的に切って出来た四角い線があった。

 場所と四角のサイズを考えると、これは床下収納か点検口のどちらかだろう。

 俺は床の線に指をかけて板を上げてみた。


『…………あった』


 床の下には深さ50cmほどの穴が掘られており、周りは木の枠で囲まれていた。

 そして、その穴の中には何かが入っている円柱型の保存瓶2本と、液体の入った1リットルペットボトルほど瓶が1本転がっていた。


 俺は3本の瓶を取り出し、床へと置いた。

 保存瓶の1本は乾燥した緑色の豆、もう1本には薄切りにされたカラフルなキノコが入っている。

 液体の方は蓋を開けてみないとわからないが……瓶の形的に恐らく酒類だろう。


「わ~! マメとキノコだ~! これ、たべられるの?」


「それ 今 確認する」


 まずは食えたらラッキーだが、かなり危険でもあるキノコから。

 キノコの入った瓶を手に持ちくるりと回した……瓶のひび割れは無し、カビも生えている様子もない。

 次に木の蓋を持ち、グッと力を入れてみた……蓋はしっかり閉められている。

 とりあえず、空気に触れての酸化はなさそうだな。


 さて、肝心の中身はどうだろうか。

 見たところ乾燥もしていないし、液体も入ってない。

 となるとキノコの塩漬けになるかな。


 木の蓋を開け、さっそく腐敗チェックの開始だ。

 チェックその1、嗅覚。


『スンスン……ふむ…………うーん……』


 どう判断したらいいのか困る臭いだ。

 腐っている様な感じもするし、ただのきのこ臭にも感じる。

 2~3種類のキノコが入っているから、敏感な俺の鼻だと余計にキノコ独特の臭みで判断ができん。

 くそっ、俺の鼻が敗北するなんて悔しい。


 チェックその2、触感。

 食べ物が腐っていた場合は粘りが出る、ぬめりや糸を引いた場合……完全にアウトだ。

 瓶の中に手を入れ、1枚のキノコを掴んだ。


『……ぬめりあり、糸あり……か』


 うん、これはアウ……待てよ。

 よく考えたら、なめことかぬめりや糸を引くキノコは存在する。

 これもその種類かもしれん。

 そう考えると、アウトと決めつけられない。


 チェックその3、味覚。

 ゴブリンの体だからこそ出来る確認方法だ。

 こんな怪しい状態で食べたくないが、こればかりは仕方ない。


『ふう……いざっ! ぱくっ……もぐもぐ……』


 思った通り、このキノコは塩漬けだ。

 だが……明らかに入っていないはずの酸味が微かに感じる。

 これは食べない方が良さそうだな。


「これ 駄目。食べれない」


「そっか~。じゃあ、こっちのマメはどうなんだろう」


「確認 する」


 キノコの時同様に瓶を手に持ち、くるりと回した。

 こちらも瓶、蓋ともに問題はない。

 俺は蓋を開けて、3粒の乾燥豆を取り出して口の中へと入れた。

 もうチェックは味覚だけで十分だ。

 あのキノコを食べた後に、今更豆3粒なんてどうって事ない。


「ポリポリポリ」


 乾燥豆特有の歯ごたえに大豆の味。

 グリーンピースだと思っていたから、大豆の味に驚いたが……まぁそれはどうでもいい。

 匂い、味、食感、どれも問題無し。

 これならミュラも食べられるな。


「豆 食える」


「えっ! ほんとう!? じゃあミュラもたべる!」


 ミュラは瓶の中に手を突っ込み、豆を手一杯に握りしめて自分の口の中へと放り込んだ。


「ボリボリボリボリ……ふぁ~このボリボリがたまんない~」


「あまり 食うなよ。夕食 使う」


「もぐもぐ……ゴックン…え? このままたべるんじゃないの?」


「どうせなら ひと手間 入れる」


 とは言っても、ものすごく簡単な事だけどな。



 まず、大豆を軽く洗う。

 そしたら水に入れた鍋の中へと入れる。

 ここで一晩置けば大豆が水を吸ってふっくらとなるが、今回は夕飯にする為に1時間程度で水から上げて水気をとる。


 次に大豆を熱したフライパンに入れる。

 はじめは強火で行きたいからクッキングスタンドに置いて、焦げ付かない様に絶えずフライパンを振り続ける。


「ふわ~……おマメのやけるいいにおいがする~」


 パチっと音がしだしたらフライパンを火の上まで離して、振りつつ弱火で15分くらい煎る。

 出来たら、器の中に入れて大豆を冷ませば……。


「……これで 煎り豆 完成!」


「おお~! このままでたべるより、ずっとおいしそう!」


 サワガニの時と同じ様にミュラには器、俺はフライパンで食べる。

 流石に豆を数えるのは面倒なので、大体で分け合った。


「それじゃ いただき……」


「ハグハグ! モグモグ……ん~! こうばしくておいひぃ~!」


 ミュラの奴、食うのが早いな。

 まぁいい、俺もさっさと食おう。


『パク……モグモグ……懐かしい味がする』


 この煎った独特の匂い、歯ごたえ、大豆の甘味。

 節分で食った豆を思い出すな。


 俺達はサワガニ同様、あっという間に豆も食べきってしまった。

 その頃には、空は赤く染まっていた。

 洗濯物は乾ききっておらず、今日着るのは諦めて家の中へとしまった。

 テーブルの上や椅子に引っ掛けておけば、明日には乾いているはずだ。


 そうこうしているうちに辺りは暗くなり、ミュラはあくびをしたり目をこすり始めた。

 疲れて眠いのは俺も同じだ。

 その為、俺達は早々に寝る事にした…………のだが。


「いっしょにねるの!」


 ベッドの上で、ミュラが自分の右側をパンパンと叩いた。


「いや 俺 床で……」


「ね~る~の~!」


 叩く力が強くなる。

 ミュラが俺と一緒に寝たいと言い出すなんて思いもしなかった。


「は~や~く~!」


 さらに叩く力が強くなる。


「……わかった」


 このままだとお互い寝れそうにないから、大人しく言う事を聞こう。

 俺はベッドに上がり、横になった。


「はい」


 ミュラが毛布の半分を俺にかけてくれた。


「それじゃあ、おやすみ~」


「ああ おやすみ」




「すぅ~……すぅ~……」


 しばらくすると、ミュラの寝息が聞こえて来た。


『……』


 こんなホコリくさいベッドじゃなくて、普通のベッドで寝させてあげたい。

 食べ物もきちんと食べてほしい。


『やっぱり、俺といるべきじゃないよな……よし……』


 俺はある事を心に決め、眠りについた。

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