さて、料理を開始……と言いたいところだが……。
『……どうしてこうなった』
俺が着けているのはフリル付きピンク色エプロン。
「どう~? ミュラ、にあう? にあう?」
一方ミュラは普通の水色エプロンだ。
どちらも昔コヨミが使っていた物で、どちらを使いたいかミュラに聞いた。
俺は当然、フリル付きピンクと答えると思っていたのだが……まさかの水色を選択。
結果、ゴブリンがフリル付きピンク色エプロンをつけているという地獄の絵面が生まれてしまったわけだ。
「ああ にあう……」
「2人とも、似合ってるっスよ」
かっぽう着に着替えたコヨミが、人の頭位の大きさがある壺を持って来た。
「その 壺 何?」
壺なんて使わないのにな。
「大量にまよねぇずを作って、ここに入れておこうと思って持って来たっス!」
ああ、そういう事か。
ウキウキの所申し訳ないが、ちゃんと事実を伝えなければ……。
「手作り 保存 出来ない。1日で 食べきる」
俺の言葉を聞いた瞬間、コヨミは笑顔から真顔になった。
そして、持っていた壺が床に落ちて割れてしまう。
「………………そ、そんな~」
しばらくしてから涙を流し、その場で膝から崩れ落ちてしまった。
「……よしよし」
その姿を見てミュラがコヨミに近づき、頭を優しく撫でた。
「うう~……ありがとうっス……」
ショックなのはわかるが、ちゃんと手伝ってもらわないと困る。
なんせ下ごしらえが大変だからな。
マヨネーズの作業まで俺はまわれない。
「とはいえ 今から 使う分 よろしく」
「はぁ…………そこは任せてっス」
コヨミがヨロヨロと立ち上がった。
「ミュラもおてつだいする!」
手伝いか。
今から刃物と火を使うから危ないな。
だけど、無下に扱うとミュラが怒るだけ……となれば。
「じゃあ コヨミさん 手伝って」
「うん! わかった!」
よしよし、これでいいな。
俺は下ごしらえを始めるとしますか。
まずはジャガイモ。
洗って、栄養が流れ出ない様に皮付きのまま鍋へ入れる。
全体的にジャガイモがかぶるくらいの水を注いで、中火にかける。
水が沸騰したら弱火にして、約25~30分ほど茹でる。
次はニンジン。
洗って、両端を切り落としてから皮をむいて、いちょう切りにする。
ジャガイモ同様に水の入った鍋に入れて、中火にかける。
水が沸騰したら、そのまま約5分ほど茹でる。
どちらもフォークを刺して、柔らかさを確認するのが重要だ。
特に、今回使うニンジンは少し歯ごたえが残るくらいで使いたいからな。
続いて玉ねぎ。
ヘタを切ってから、半分に切って皮を剥く。
芯を取って、繊維を断ち切る様に薄切りにしてからほぐす。
フライパンにほぐした玉ねぎを広げて、大さじ2くらいの水を入れる。
蓋をして、中火で約1分ほど蒸らす。
そして、火から離して蓋をしたまま余熱で約2分放置する。
これで柔らかくなっていれば大丈夫だ。
もう半分はみじん切りにして、水にさらして置く。
キュウリは洗ってから両端を落として、薄切りにする。
薄切りしたのを塩でもんで、水で洗って水気をしぼる。
トマトは5mm幅で輪切りにしておく。
ハムと牛肉を輪切りにする。
そのうち1枚のハムは、短冊切りにしておく。
そして、パンを昼間の様にサンド用に切る。
「ふぅー……これで よし。マヨネーズ どうだ?」
下ごしらえを終えた俺はマヨネーズ班の方を確認する。
「ふっふっふ……完璧っスよ!」
「へっへ~、うまくできたよ~!」
と言っている2人の顔には、混ぜて飛び散ったマヨネーズが付いている。
そして、背後の台所の流しには失敗した物が多数。
材料が勿体ないが……こればかりは仕方ないよな。
「それじゃあ メイン 作る。2人共 手伝い よろしく」
「「お~!」」
茹でたジャガイモを熱いうちに皮をむき、大き目の器に入れる。
木べらを使って、固形感が残る程度に潰してから粗熱をとる。
粗熱がとれたら、玉ねぎ、ニンジン、キュウリ、ハム、マヨネーズを加えて全体を混ぜる。
最後に、塩とこしょうで味を調節すれば……。
「ポテトサラダ 完成! マヨネーズ料理 1つだ」
「おお、これは簡単っスね」
「でも これだけ じゃない」
レタスを食べやすい大きさにちぎる。
そしてパンに挟み、そこに作ったポテトを詰め込む。
「ポテトサンド 完成!」
「わあ~、さんどいっちにもなった」
まだまだ。
残っていたゆで卵1個を器に入れて、フォークで粗めに潰す。
そこに水気を切ったみじん切りの玉ねぎ、マヨネーズを大さじ7、酢を大さじ1、砂糖を小さじ、塩をひとつまみ入れて、全体を混ぜ合わせて出来上がり。
「タルタルソース 出来上がり。マヨネーズ 元にした ソースだ」
「ふおおおおおおおお! たるたるそーす……! ゴクリ……ちょ、ちょっと味見しても……いいっスか?」
絶対コヨミはそう言うと思っていた。
「いい。ただ 全部 駄目ぞ」
「わっわかってるっスよ! じゃあさっそく……」
「あっ! ミュラも! ミュラも!」
2人はスプーンでタルタルソースを少しすくい、口へと入れた。
「むぐむぐ……わわ! まよねぇずのあじがかわってる! すごいすごい!」
「――っ!! このたるたるそーす、まよねぇずの中にほんのりとした甘みと酸味が加わった! そして、入れた玉ねぎの酸味と食感がたまらない!! たったあれだけの材料を混ぜるだけで、味が変わるなんて……まよねぇず……奥が深すぎる!」
2人にも好評の様だ。
次を作っていくぞ。
レタスを適当な大きさに千切る。
パンの間にマヨネーズを塗って、レタスを挟む。
そこにフライドチキンを入れて、レタスとチキンの間にタルタルソースを挟む。
「フライドチキンサンド 完成」
「2つめのさんどいっちになった!」
「なるほど……フライドチキンにタルタルソースを合わせるのね……これは楽しみだわ」
最後は超簡単。
パンに輪切りにした牛肉とレタスを挟めば、牛肉とレタスのサンド。
パンの間にマヨネーズを塗って、輪切りにしたハムとトマト、ちぎったレタスを挟めばオーソドックスなサンドイッチの完成だ。
「牛肉 レタスのサンド。ハム レタス トマトのサンド 完成」
「わああああああああ! 4つのあじのさんどいっちだ! どれもおいしそう~……ジュルリ……」
「ウチはポテトサンドとフライドチキンサンドが楽しみっス!」
テーブルの真ん中にポテトサラダの入った器を置き、それぞれにポテトサンド、フライドチキンサンド、牛肉とレタスのサンド、ハムとレタスとトマトのサンドを並べた皿を置いた。
パッと見、ちょっとしたパーティーって感じだな。
俺達3人は目くばせし、同時に頷く。
それぞれつけていたエプロンを取り、椅子へと座った。
『この世界で初めて作ったまともな料理だ! いただきまああああああす!』