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第19話

「おお これ すごい」


 朝市は、昼間の港町とはまた違う顔をしていた。

 様々な食材が売られ、露店が数多く並んでいる。


「わっ! わっ! いろんなもの、たくさんある~!」


「週一で開かれるっスよ」


 ほほう、この規模が週一か。

 これは見ているだけでも楽しいな。


「ミュラ 何 食べたい?」


「え? う~んとね……」


「いらっしゃい! いらっしゃい! 獲れたて新鮮だよ! 今日の晩御飯にどうですか!?」


 魚屋の若い主人が大きな声をあげる。

 それを見たミュラが、閃いたように答えた。


「おさかな! やきざかないがいのおさかながたべてみたい!」


「焼き魚 以外……か」


 となると生、煮る、蒸す、揚げるのどれかだな。


「できそう?」


「問題 ない」


 ただ、この世界の生ものに関しては完全に把握していないからな。

 寄生虫等のリスクを考えると、選択しから外した方が無難だ。

 あー、刺身や寿司が食いたい……。


「じゃあ、さっそく魚を買うっス。くださいなっス~」


「いらっしゃいませ、どれにしますか?」


「ふむ……」


 露店に並んでいるのは、胸ビレの部分がカエルの前足の様な水かきが付いている魚、ワニの頭がくっ付いた魚、ゼリーの様に胴体がプルプルした魚、大きな一つ目の魚、ぱっと見はコブラだが尻尾にちゃんとヒレがある魚、鳥の翼が背中から生えた魚。


『……』


 こっちに並んでいるのは、アンモナイトの様な何か、タコさんウインナーの様な何か、カラフルな手のひらサイズの貝、星の形をした親指サイズの貝。


『…………』


 まるで深海魚が展示されている様だ。

 だが、これらは全部食べられる食材なんだよな……。


『うーむ……どれを買うかな……』


 水かきが付いている魚の味はわかっているが、他の魚の味が検討つかない。

 コブラはウナギかアナゴとして考えていいのだろうか。


『……待てよ』


 動物や野菜の名前が現世界と同じだから、魚も同様のはず。


「コヨミさん 魚 名前 教えて」


 それなら味の想像がつくぞ。


「名前っスか? いいっスよ。あれはアユっス」


 胸ビレの部分が、カエルの前足の様な水かきが付いている魚を指さす。

 あれって、アユだったのか……いや、それはともかく……こっちも同じで良かった。


「ピラニアっス」


 ワニ頭の魚を指さす。

 こっちのピラニアの狂暴性の高さよ。

 うーん、ピラニアは食べた事が無いから味の想像がつかんな。


「シャケっス」


 ゼリーの様な体の魚を指さす。

 まさかの鮭だった。

 これだけは異世界風にスライムフィッシュとか、そんな名前の魚かと思ったのに。


「あれはタイっス」


 大きな一つ目の魚を指さす。

 見た目が不気味過ぎて、めでたい魚なんてとても思えない。


「あれはウナギっス」


 コブラ似の魚を指さす。

 ウナギであってた。


「トビウオっス」


 翼が生えた魚を指さす。

 見たまんまだった。


「で~こっちに並んでいるのが……あれがイカっス」


 アンモナイトを指さす。

 イカか……実際のアンモナイトはどんな味だったんだろうか。


「タコっス」


 タコさんウインナーを指さす。

 嘘だろ、タコの形じゃなくてタコ自体だったのかよ。


「ハマグリっス」


 カラフルな手のひらサイズの貝を指さす。

 これが一番普通と思ってしまった。


「アサリっス」


 星の形をした貝に指さす。

 これ、中身どうなってるんだろうか。


「わかった。ありがとう」


 ふーむ。

 これらを合わせて作れる物は…………よし、あれを作ってみるか。


「タイ1尾 アサリ10個 いいか?」


「わかったっス。タイ1尾、アサリ10個をお願いしますっス」


「タイ1尾、アサリ10個ね。ありがとうございます」


 コヨミが商品を受け取ったらミュラの出番だ。

 魚介類の周りだけを凍らせてもらって、冷やしておく。

 これで鮮度の持ちがだいぶ変わるからな。


「それじゃあ ミュラ 魚 凍らせ……ん?」


「……」


 ミュラが後ろを向き、ジッと何かを見つめていた。


「?」


 また屋台でもあったのだろうか、そう思いつつミュラが見ている方を見る

 そこには3人の獣人の子供たちが楽しそうに遊んでいた。


 頭の上に犬耳、銀の短髪、銀色の犬の尻尾、薄い水色の瞳の男の子。

 寝癖が酷い黒髪、猿の様な長い尻尾、紫色の瞳で垂れ目の男の子。

 金髪のツインテール、背中に小さな緑色の鳥の翼、翡翠の瞳でくりくりした目の女の子。


 見た感じ、3人共ミュラと同じ歳か1~2つ上って所だな。


「……」


 黙って見ているという事は、あの子達と遊びたいって所だろうか。


「魚買えたっスよ……って、ん?」


 コヨミが子供達を見ている事に気付く。


「ああ、この港町に住んでいる子達っスね。銀髪の子が犬の獣人のターン、黒髪の子が猿の獣人のカル、金髪の子が鳥の獣人のナナっス。よくあの3人で遊んでるっス」


 仲良し3人組ってわけか。

 その中にミュラも入れてあげたいと思うんだが……。


「ミュラ」


「…………っ! な、なに?」


 俺の声にミュラが慌てて振り返る。


「あの子達と 遊び たい?」


「そ、そんなことないよ!」


 ミュラが首を横に振る。

 この感じ、やっぱりあの子達と遊びたいんだな。


「遠慮する事ないっスよ。別に遊びに行っても……」


「あっ、それをこおらせればいいんだね!」


 ミュラがコヨミの言葉を遮り、魚介類の入った袋に指をさす。


「え? そうっスけど……」


 俺とコヨミはミュラの態度に顔を見合わせてしまう。

 遊びたそうにしていたのは、俺達の間違いだったんだろうか。

 んー……まあ、ミュラが積極的じゃないのなら無理強いするのは良くないな。


「……じゃあ、よろしくっス」


 コヨミも同じように思ったらしく、ミュラに袋を渡した。


「まかせて!」


 ミュラが魚介類を凍らせ始める。


「あっそろそろ開く時間っスね。……ちょっとウチは行くところがあるっスから、2人はこのまま朝市を周っていてほしいっス」


 行くところ……ああ、冒険者ギルドか。

 昨日行くって言っていたものな。


「え? どこいくの? ミュラもいっていい?」


 冷凍を終えたミュラが目を輝かせる。

 そのミュラの好奇心に、コヨミが困った顔をした。


「あ~………………病院っスよ。頼まれた薬を渡しに行くっスけど……じゃあ、ついでにミュラちゃんが風邪をひかない様にお注射をうっ――」


「ミュラ、ゴブといっしょにまってるね!」


 注射という言葉を聞いた瞬間、ミュラが俺の背後に隠れた。

 この世界でも注射は嫌われている様だ。

 まっ俺も必要のない注射はお断りだが……。


「それは残念っス。それじゃあ、ちゃちゃっと行って来るっスね。待ち合わせは、港町の入り口でお願いっス」


「わかった」


「いってらっしゃい~!」


 手を振るミュラ。

 コヨミも手を振り返し、人込みの中に消えて行った。

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