「おお これ すごい」
朝市は、昼間の港町とはまた違う顔をしていた。
様々な食材が売られ、露店が数多く並んでいる。
「わっ! わっ! いろんなもの、たくさんある~!」
「週一で開かれるっスよ」
ほほう、この規模が週一か。
これは見ているだけでも楽しいな。
「ミュラ 何 食べたい?」
「え? う~んとね……」
「いらっしゃい! いらっしゃい! 獲れたて新鮮だよ! 今日の晩御飯にどうですか!?」
魚屋の若い主人が大きな声をあげる。
それを見たミュラが、閃いたように答えた。
「おさかな! やきざかないがいのおさかながたべてみたい!」
「焼き魚 以外……か」
となると生、煮る、蒸す、揚げるのどれかだな。
「できそう?」
「問題 ない」
ただ、この世界の生ものに関しては完全に把握していないからな。
寄生虫等のリスクを考えると、選択しから外した方が無難だ。
あー、刺身や寿司が食いたい……。
「じゃあ、さっそく魚を買うっス。くださいなっス~」
「いらっしゃいませ、どれにしますか?」
「ふむ……」
露店に並んでいるのは、胸ビレの部分がカエルの前足の様な水かきが付いている魚、ワニの頭がくっ付いた魚、ゼリーの様に胴体がプルプルした魚、大きな一つ目の魚、ぱっと見はコブラだが尻尾にちゃんとヒレがある魚、鳥の翼が背中から生えた魚。
『……』
こっちに並んでいるのは、アンモナイトの様な何か、タコさんウインナーの様な何か、カラフルな手のひらサイズの貝、星の形をした親指サイズの貝。
『…………』
まるで深海魚が展示されている様だ。
だが、これらは全部食べられる食材なんだよな……。
『うーむ……どれを買うかな……』
水かきが付いている魚の味はわかっているが、他の魚の味が検討つかない。
コブラはウナギかアナゴとして考えていいのだろうか。
『……待てよ』
動物や野菜の名前が現世界と同じだから、魚も同様のはず。
「コヨミさん 魚 名前 教えて」
それなら味の想像がつくぞ。
「名前っスか? いいっスよ。あれはアユっス」
胸ビレの部分が、カエルの前足の様な水かきが付いている魚を指さす。
あれって、アユだったのか……いや、それはともかく……こっちも同じで良かった。
「ピラニアっス」
ワニ頭の魚を指さす。
こっちのピラニアの狂暴性の高さよ。
うーん、ピラニアは食べた事が無いから味の想像がつかんな。
「シャケっス」
ゼリーの様な体の魚を指さす。
まさかの鮭だった。
これだけは異世界風にスライムフィッシュとか、そんな名前の魚かと思ったのに。
「あれはタイっス」
大きな一つ目の魚を指さす。
見た目が不気味過ぎて、めでたい魚なんてとても思えない。
「あれはウナギっス」
コブラ似の魚を指さす。
ウナギであってた。
「トビウオっス」
翼が生えた魚を指さす。
見たまんまだった。
「で~こっちに並んでいるのが……あれがイカっス」
アンモナイトを指さす。
イカか……実際のアンモナイトはどんな味だったんだろうか。
「タコっス」
タコさんウインナーを指さす。
嘘だろ、タコの形じゃなくてタコ自体だったのかよ。
「ハマグリっス」
カラフルな手のひらサイズの貝を指さす。
これが一番普通と思ってしまった。
「アサリっス」
星の形をした貝に指さす。
これ、中身どうなってるんだろうか。
「わかった。ありがとう」
ふーむ。
これらを合わせて作れる物は…………よし、あれを作ってみるか。
「タイ1尾 アサリ10個 いいか?」
「わかったっス。タイ1尾、アサリ10個をお願いしますっス」
「タイ1尾、アサリ10個ね。ありがとうございます」
コヨミが商品を受け取ったらミュラの出番だ。
魚介類の周りだけを凍らせてもらって、冷やしておく。
これで鮮度の持ちがだいぶ変わるからな。
「それじゃあ ミュラ 魚 凍らせ……ん?」
「……」
ミュラが後ろを向き、ジッと何かを見つめていた。
「?」
また屋台でもあったのだろうか、そう思いつつミュラが見ている方を見る
そこには3人の獣人の子供たちが楽しそうに遊んでいた。
頭の上に犬耳、銀の短髪、銀色の犬の尻尾、薄い水色の瞳の男の子。
寝癖が酷い黒髪、猿の様な長い尻尾、紫色の瞳で垂れ目の男の子。
金髪のツインテール、背中に小さな緑色の鳥の翼、翡翠の瞳でくりくりした目の女の子。
見た感じ、3人共ミュラと同じ歳か1~2つ上って所だな。
「……」
黙って見ているという事は、あの子達と遊びたいって所だろうか。
「魚買えたっスよ……って、ん?」
コヨミが子供達を見ている事に気付く。
「ああ、この港町に住んでいる子達っスね。銀髪の子が犬の獣人のターン、黒髪の子が猿の獣人のカル、金髪の子が鳥の獣人のナナっス。よくあの3人で遊んでるっス」
仲良し3人組ってわけか。
その中にミュラも入れてあげたいと思うんだが……。
「ミュラ」
「…………っ! な、なに?」
俺の声にミュラが慌てて振り返る。
「あの子達と 遊び たい?」
「そ、そんなことないよ!」
ミュラが首を横に振る。
この感じ、やっぱりあの子達と遊びたいんだな。
「遠慮する事ないっスよ。別に遊びに行っても……」
「あっ、それをこおらせればいいんだね!」
ミュラがコヨミの言葉を遮り、魚介類の入った袋に指をさす。
「え? そうっスけど……」
俺とコヨミはミュラの態度に顔を見合わせてしまう。
遊びたそうにしていたのは、俺達の間違いだったんだろうか。
んー……まあ、ミュラが積極的じゃないのなら無理強いするのは良くないな。
「……じゃあ、よろしくっス」
コヨミも同じように思ったらしく、ミュラに袋を渡した。
「まかせて!」
ミュラが魚介類を凍らせ始める。
「あっそろそろ開く時間っスね。……ちょっとウチは行くところがあるっスから、2人はこのまま朝市を周っていてほしいっス」
行くところ……ああ、冒険者ギルドか。
昨日行くって言っていたものな。
「え? どこいくの? ミュラもいっていい?」
冷凍を終えたミュラが目を輝かせる。
そのミュラの好奇心に、コヨミが困った顔をした。
「あ~………………病院っスよ。頼まれた薬を渡しに行くっスけど……じゃあ、ついでにミュラちゃんが風邪をひかない様にお注射をうっ――」
「ミュラ、ゴブといっしょにまってるね!」
注射という言葉を聞いた瞬間、ミュラが俺の背後に隠れた。
この世界でも注射は嫌われている様だ。
まっ俺も必要のない注射はお断りだが……。
「それは残念っス。それじゃあ、ちゃちゃっと行って来るっスね。待ち合わせは、港町の入り口でお願いっス」
「わかった」
「いってらっしゃい~!」
手を振るミュラ。
コヨミも手を振り返し、人込みの中に消えて行った。