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第20話

 さて、俺達は他に必要な食材を探しますか。


「ミュラ 他 店 行く」


「うん」


 ミュラが俺の右手を握った。

 俺もその手を優しく握り返し、一緒に歩き始めた。


 後ほしい物はパプリカ、ミニトマト、舞茸、エリンギ、にんにくだな。

 野菜が並んでいる露店は…………あったあった。

 八百屋クラスとまではいかないものの、結構な種類が店先に並んでいた。


「すみません」


 俺が声をかけると、狐の獣人のお婆ちゃんが顔を上げた。


「はい、いらっしゃい……あら、ボク。お姉ちゃんと一緒に買い物かい?」


「へ? お姉ちゃん?」


 その言葉の意味を少し考え、隣にいるミュラだと気付く。

 確かに、ミュラの方が俺より少しだけ背が高いけど、年齢が全然違……って、待てよ。

 現世界では18歳だったが、この異世界ではまだ1歳だ。

 ミュラは7歳と言っていたから……この世界の年齢で考えると、ミュラがお姉ちゃんになってしまう。

 この場合、どういう風に考えるべきなんだ。

 解釈次第では俺の立場が……。


「はい! ミュラがおねえちゃんです!」


 ミュラが両手を腰に当て、フンスとドヤ顔をする。

 あっこれは完全に上機嫌になってる奴だ。

 変に否定したら機嫌をそこなう可能性が考えられる。

 仕方ない……。


「そう お姉ちゃん 一緒に 買い物 来た。パプリカ ミニトマト 舞茸 エリンギ にんにく ある?」


 ここはミュラがお姉ちゃんって事で、さっさと買い物を済まそう。


「あらあら、仲がいいわねぇ。ウチには舞茸とエリンギ以外ならあるわよ」


「じゃあ パプリカ1個 ミニトマト20個 にんにく1個 下さい」


「はいよ」


 お婆ちゃんが袋を取り出し、指定した物を入れ始める。


「後 キノコ 何処で 買える?」


「キノコかい? え~と……ここを真っ直ぐ行ったところに、キノコの店があるわよ」


「ありがとう」


「いえいえ。はい、180ゴルドね」


 コヨミから預かっていた財布を取り出し、お婆ちゃんに支払った。

 そして、野菜の入った袋を受け取る。


「あっ! そのふくろ、ミュラがもつ!」


「へっ?」


「だってミュラ、おねえちゃんだからね」


 そういう事か。

 なら渡しておきましょうか、お姉ちゃんに。


「はい」


「へっへへ~」


 ミュラが上機嫌に袋を受け取る。

 途中でバテなきゃいいが……そう思いつつ、キノコの店へと向かった。




 無事にキノコ類も買え、俺達は待ち合わせの入り口前に到着した、


『さて、入り口に着いたが……コヨミさんの姿は無いな』


 うーむ、あいつ等から話を聞くとなると、やっぱり時間がかかるか。

 となれば、もうちょっと見て回るのも……。


「あ、いたいた。ただいまっス」


「コヨミおねえちゃん、おかえり~!」


 いいと思ったが、コヨミが戻って来た。


「おかえり」


「みてみて、いっぱいかったよ」


 手に持っていた袋の中を見せるミュラ。

 コヨミはしゃがみこみ、中身を確認する。


「おお、美味しそうっスね。じゃあ、その荷物はウチが……」


「ミュラがもつから、だいじょうぶ」


「え? でも」


「ミュラはおねえちゃんだから、だいじょうぶなの」


「??」


 コヨミが不思議そうに俺の顔を見る。


「好きに させて あげてくれ」


「? よくわからないっスけど……わかったっス。それじゃあ、家に帰ろうっス」


「うん!」


 ミュラが歩き始める。

 その後を追いかけようとすると、コヨミが俺の耳元で囁いた。


「話は夜にっス」


 そう言うとコヨミは立ち上がり、ミュラの後を追いかけた。

 話は夜に……か。


『……嫌な話じゃなきゃいいがな』


 そう願いつつ、俺も2人の後を追いかけた。




 食堂に戻り、コヨミは開店の準備を始めた。


「さてさて、仕込みを始めるっスよ」


 鍋に水を入れ、火にかける。

 そして、使う食材は買って来た物……ではなく薬草だ。

 薬草を刻み、水の入った鍋に入れて煮込む。

 以上で終わりだった。

 果たして、これは仕込みと言えるのかどうか疑問だが、この食堂のメニューにはコヨミ特性スープしかない。

 まだ何も教えていないし、あれこれ言うのあれだし黙っていよう。

 俺は客から見えない様に2階へと行き、コヨミとミュラで食堂を開けた。


「さ~お客様、来るっス!」


「くるっす~!」


 と2人は意気込んでが、お昼時になっても一切お客は来なかった。

 人が来ない訳でもないが、来るとしても……。


「コヨミちゃん、今いいかい?」


 杖をつき、少し腰が曲がった老人が食堂に入って来た。


「いらっ……あ、トッロおじいちゃん。もう腰は大丈夫ッスか?」


「おかげさまで、歩けるほどにはな……それで運動がてら、薬を買いに来たんだよ」


「無理しちゃ駄目っスよ。今薬を調合するから、ちょっと待っててくださいっス」


 この様な感じで、コヨミの副業である薬を買いに来る人達ばかり。

 食事の為に、席へ着く人は全くいなかった。

 本当にこの食堂って流行っていないんだなと痛感するのだった。




 暇そうにテーブルの上で突っ伏していた、ミュラのお腹の虫がクゥ~となる。


「…………おなかすいた」


「そうっスね、お昼にするっスか。ゴブくん。レッスンをお願いっス」


 コヨミが立ち上がり、食堂の入り口の扉まで歩いて行く。

 そして、鍵をかけてカーテンを閉めた。

 お昼時に閉める食堂って絶対に駄目だが……これは俺のせいでもあるんだよな。

 頑張って教えないと。


「まかせろ」


 俺は2階から降り、厨房へと入った。


「魚 さばく」


 朝市から買って来た鯛をまな板の上に乗せる。


「さばいた事 は?」


「な、無いっス……」


 だよな。


「ゆっくり 教える。やって みる」


「……うっス! 頑張るっス」


 コヨミは恐る恐る包丁を持ち、鯛を手に取った。


 まず、最初にやらなければいけないのがウロコを落とす事だ。

 隅々までウロコを落とさないと料理がまずくなる。

 落としたのち、水でウロコを洗い流す。

 ウロコを洗い流したら、胸ビレと腹ビレに沿って包丁を入れて、頭を切り落とす。

 切り落としたら、頭の切り口から肛門まで腹を割って内臓を取り除く。

 腹内部の中骨には血ワタがあるから、そこをしっかり水洗いする。

 これで、下処理は終了だ。


 次から3枚おろし。

 背身は背ビレに沿って、中骨に届くまで切れ込みを入れる。

 腹身も尻ビレに沿って、中骨まで切れ込みを入れる。

 そして、中骨に包丁を当てながら身を切り離す。

 もう片身を同じ手順で切り落とせば……3枚おろしの完成だ。


「で…………出来たっスよ~!」


 コヨミが涙を流しながら両腕を高く上げた。


「お~! すご~い!」


 ミュラはパチパチと拍手をする。

 鯛の身は骨にかなり残っていて、切口もガタガタだが……まぁ上々といったところだな。

 後は、この残ったアラを……。


「ミュラ 身の半分 残った骨 冷やして くれ」


「え? ほね、すてるんじゃないの?」


「まだ 使い道 ある」


「えええ……」


 俺の言葉にミュラが眉を寄せてしまった。

 まぁ……使い道がわからなければ、そんな顔になってしまうのは仕方ないよな。

 でも、このアラも調理次第でおいしく使えるんだ。

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