さて、俺達は他に必要な食材を探しますか。
「ミュラ 他 店 行く」
「うん」
ミュラが俺の右手を握った。
俺もその手を優しく握り返し、一緒に歩き始めた。
後ほしい物はパプリカ、ミニトマト、舞茸、エリンギ、にんにくだな。
野菜が並んでいる露店は…………あったあった。
八百屋クラスとまではいかないものの、結構な種類が店先に並んでいた。
「すみません」
俺が声をかけると、狐の獣人のお婆ちゃんが顔を上げた。
「はい、いらっしゃい……あら、ボク。お姉ちゃんと一緒に買い物かい?」
「へ? お姉ちゃん?」
その言葉の意味を少し考え、隣にいるミュラだと気付く。
確かに、ミュラの方が俺より少しだけ背が高いけど、年齢が全然違……って、待てよ。
現世界では18歳だったが、この異世界ではまだ1歳だ。
ミュラは7歳と言っていたから……この世界の年齢で考えると、ミュラがお姉ちゃんになってしまう。
この場合、どういう風に考えるべきなんだ。
解釈次第では俺の立場が……。
「はい! ミュラがおねえちゃんです!」
ミュラが両手を腰に当て、フンスとドヤ顔をする。
あっこれは完全に上機嫌になってる奴だ。
変に否定したら機嫌をそこなう可能性が考えられる。
仕方ない……。
「そう お姉ちゃん 一緒に 買い物 来た。パプリカ ミニトマト 舞茸 エリンギ にんにく ある?」
ここはミュラがお姉ちゃんって事で、さっさと買い物を済まそう。
「あらあら、仲がいいわねぇ。ウチには舞茸とエリンギ以外ならあるわよ」
「じゃあ パプリカ1個 ミニトマト20個 にんにく1個 下さい」
「はいよ」
お婆ちゃんが袋を取り出し、指定した物を入れ始める。
「後 キノコ 何処で 買える?」
「キノコかい? え~と……ここを真っ直ぐ行ったところに、キノコの店があるわよ」
「ありがとう」
「いえいえ。はい、180ゴルドね」
コヨミから預かっていた財布を取り出し、お婆ちゃんに支払った。
そして、野菜の入った袋を受け取る。
「あっ! そのふくろ、ミュラがもつ!」
「へっ?」
「だってミュラ、おねえちゃんだからね」
そういう事か。
なら渡しておきましょうか、お姉ちゃんに。
「はい」
「へっへへ~」
ミュラが上機嫌に袋を受け取る。
途中でバテなきゃいいが……そう思いつつ、キノコの店へと向かった。
無事にキノコ類も買え、俺達は待ち合わせの入り口前に到着した、
『さて、入り口に着いたが……コヨミさんの姿は無いな』
うーむ、あいつ等から話を聞くとなると、やっぱり時間がかかるか。
となれば、もうちょっと見て回るのも……。
「あ、いたいた。ただいまっス」
「コヨミおねえちゃん、おかえり~!」
いいと思ったが、コヨミが戻って来た。
「おかえり」
「みてみて、いっぱいかったよ」
手に持っていた袋の中を見せるミュラ。
コヨミはしゃがみこみ、中身を確認する。
「おお、美味しそうっスね。じゃあ、その荷物はウチが……」
「ミュラがもつから、だいじょうぶ」
「え? でも」
「ミュラはおねえちゃんだから、だいじょうぶなの」
「??」
コヨミが不思議そうに俺の顔を見る。
「好きに させて あげてくれ」
「? よくわからないっスけど……わかったっス。それじゃあ、家に帰ろうっス」
「うん!」
ミュラが歩き始める。
その後を追いかけようとすると、コヨミが俺の耳元で囁いた。
「話は夜にっス」
そう言うとコヨミは立ち上がり、ミュラの後を追いかけた。
話は夜に……か。
『……嫌な話じゃなきゃいいがな』
そう願いつつ、俺も2人の後を追いかけた。
食堂に戻り、コヨミは開店の準備を始めた。
「さてさて、仕込みを始めるっスよ」
鍋に水を入れ、火にかける。
そして、使う食材は買って来た物……ではなく薬草だ。
薬草を刻み、水の入った鍋に入れて煮込む。
以上で終わりだった。
果たして、これは仕込みと言えるのかどうか疑問だが、この食堂のメニューにはコヨミ特性スープしかない。
まだ何も教えていないし、あれこれ言うのあれだし黙っていよう。
俺は客から見えない様に2階へと行き、コヨミとミュラで食堂を開けた。
「さ~お客様、来るっス!」
「くるっす~!」
と2人は意気込んでが、お昼時になっても一切お客は来なかった。
人が来ない訳でもないが、来るとしても……。
「コヨミちゃん、今いいかい?」
杖をつき、少し腰が曲がった老人が食堂に入って来た。
「いらっ……あ、トッロおじいちゃん。もう腰は大丈夫ッスか?」
「おかげさまで、歩けるほどにはな……それで運動がてら、薬を買いに来たんだよ」
「無理しちゃ駄目っスよ。今薬を調合するから、ちょっと待っててくださいっス」
この様な感じで、コヨミの副業である薬を買いに来る人達ばかり。
食事の為に、席へ着く人は全くいなかった。
本当にこの食堂って流行っていないんだなと痛感するのだった。
暇そうにテーブルの上で突っ伏していた、ミュラのお腹の虫がクゥ~となる。
「…………おなかすいた」
「そうっスね、お昼にするっスか。ゴブくん。レッスンをお願いっス」
コヨミが立ち上がり、食堂の入り口の扉まで歩いて行く。
そして、鍵をかけてカーテンを閉めた。
お昼時に閉める食堂って絶対に駄目だが……これは俺のせいでもあるんだよな。
頑張って教えないと。
「まかせろ」
俺は2階から降り、厨房へと入った。
「魚 さばく」
朝市から買って来た鯛をまな板の上に乗せる。
「さばいた事 は?」
「な、無いっス……」
だよな。
「ゆっくり 教える。やって みる」
「……うっス! 頑張るっス」
コヨミは恐る恐る包丁を持ち、鯛を手に取った。
まず、最初にやらなければいけないのがウロコを落とす事だ。
隅々までウロコを落とさないと料理がまずくなる。
落としたのち、水でウロコを洗い流す。
ウロコを洗い流したら、胸ビレと腹ビレに沿って包丁を入れて、頭を切り落とす。
切り落としたら、頭の切り口から肛門まで腹を割って内臓を取り除く。
腹内部の中骨には血ワタがあるから、そこをしっかり水洗いする。
これで、下処理は終了だ。
次から3枚おろし。
背身は背ビレに沿って、中骨に届くまで切れ込みを入れる。
腹身も尻ビレに沿って、中骨まで切れ込みを入れる。
そして、中骨に包丁を当てながら身を切り離す。
もう片身を同じ手順で切り落とせば……3枚おろしの完成だ。
「で…………出来たっスよ~!」
コヨミが涙を流しながら両腕を高く上げた。
「お~! すご~い!」
ミュラはパチパチと拍手をする。
鯛の身は骨にかなり残っていて、切口もガタガタだが……まぁ上々といったところだな。
後は、この残ったアラを……。
「ミュラ 身の半分 残った骨 冷やして くれ」
「え? ほね、すてるんじゃないの?」
「まだ 使い道 ある」
「えええ……」
俺の言葉にミュラが眉を寄せてしまった。
まぁ……使い道がわからなければ、そんな顔になってしまうのは仕方ないよな。
でも、このアラも調理次第でおいしく使えるんだ。