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第25話

 俺の部屋に入って来たコヨミが、昨日同様に布団の上にちょこんと座る。

 その顔は真剣そのものだった。


「さて、回りくどく言っても仕方ないっスから、結果だけ言うっスね」


 嫌な話じゃなきゃいいなとは思っていたが、この感じだとそれは無理そうだ。


「人身売買の奴等とは話せなかったっス」


 やっぱり。

 冒険者ギルドに断られたって事か。

 元とはいえコヨミも冒険者だったんだから、ちょっとくらいいいじゃないか。

 ケチ臭い奴等だ。


「いや、正確には話す事が出来なかった……になるっス」


「……ん?」


 意味合い的には同じな気がするんだが……。


「どういう事?」


「奴等のバックにいるのが、相当大物だったみたいっス。前々から王国がこの件を追っていたらしく、この港町に駐屯している王国兵達が、そいつらが捕まったと聞くな否や冒険者ギルドに出向いて来たらしいっス」


 マジかよ。

 王国が動いていたなんて、よっぽどでかいヤマだったのか。


「つまり 王国兵 せいか……」


 王国兵と聞く感じ、かなり頭が堅そうだ。

 コヨミが話をしたいと言っても絶対聞く耳を持たんだろう。


「そうじゃないっス。奴等が消されない様にとより厳しい尋問をする為に、すぐ船に乗せて王国へと連れて行ったらしいっス。だから、ウチが行った時にはもう海の上だったわけっス」


「はあ!?」


 俺はつい声を上げ、立ち上がる。


「ちょっ! し~っ! し~っ!」


 それを見たコヨミが、慌てて自分の口元に右手の人差し指を当てた。


「ミュラちゃんが起きちゃうっスよ!」


『――あっ!』


 慌てて自分の口を両手で塞いだ。


「「……」」


 2人で耳を澄ます。

 コヨミの部屋からは……物音ひとつしない。

 どうやらミュラは目を覚まさなかったようだ。


「「……ふぅ……」」


 俺は口を押えていた手を離し、その場に座った。


「じゃあ もう 情報 得られ無い のか……」


 ショックのあまり俯いてしまう。

 せっかく、ミュラの両親が生きている可能性があったというのに……くそっ。


「そうでもないっスよ」


「えっ?」


 コヨミの言葉に顔を上げた。


「奴等の話した情報は、そのうちウチの耳にも入るっス」


「……? どういう事?」


 言っている意味が分からん。


「ん~……王国にちょっとした伝手がある……と、今はそれしか言えないっスね」


 そう言うと、コヨミが悪戯っぽく笑う。

 俺はその笑顔を見て、これ以上聞いてはいけない……そう思った。


「……わかった。情報 得たら 教えて」


「もちろんっスよ。それじゃあ、ウチはもう寝るっスね」


「ああ おやすみ」


 コヨミが立ち上がり、部屋から出て行った。


『…………今度こそ、いい知らせが聞けると言いな』


 心底そう願い、布団へと潜った。




 翌朝。


『コケコッコー!』


 外からニワトリの鳴き声と共に、小窓から朝日がさしこんで来た。


『…………んん……朝か……』


 コヨミは朝一で、ここを出ると言っていたからな。

 さっさと起きて2人の朝飯の準備を――。


「ゴブ~! おき~~~~~~~~てっ!」


 ミュラの声と同時に、バタンッと扉が開いた。

 そして、腹部に強烈な衝撃が走る。


『――ぐふっ!?』


 布団から顔を出してみると、またミュラが馬乗りになるような姿勢で乗っかっていた。


「おはよ~! ゴブ!」


 俺の顔を見て、ニコリとミュラが笑った。


「……ああ おはよう……」


 俺は毎日この起こされ方をされるのだろうか。

 だとしたら、絶対に体がもたんぞ。


「ゴブくん起きたっスか? なら、2人とも早く朝の支度を済ませるっスよ!」


 コヨミが慌てながらバタバタと1階へと降りていく。


「あっ! は~い!」


 ミュラもすぐに後を追いかけた。


『……はあ……』


 明日から、腹に板でも仕込んでおいた方がいいかもしれない。

 そんな事を思いつつ、俺は布団から這い出た。



 朝の支度、朝ご飯をさっさと済ませた俺達は食堂の外へと出た。

 コヨミは動きやすいように軽装に着替え、ミュラはオーバーオール状のズボンを履き、髪型はポニーテールにしていた。


「よっほっはっ」


 コヨミは体を動かし、準備運動をする。


「ん~っ! …………よし。ミュラちゃん、ウチの背中に乗るっス」


 最後に背伸びをし、コヨミがミュラの前でしゃがむ。


「わかった」


 その背中にミュラが飛び乗った。

 コヨミは両手を後ろに回し、ミュラを支えながら立ち上がる。


「それじゃあ、行って来るっス。後は頼んだっス」


「ああ 気を付けて」


「ミュラちゃん、近道して行くから、しっかりと掴まっているっスよ」


「うん、わかった。じゃあゴブ、いって――」


 ミュラが言い終わる前に、コヨミが走り出した。

 そして家の壁を蹴って屋根へと上り、そのまま屋根伝いで港町の入り口の方へと走って行く。


「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ…………!」


 ミュラの悲鳴がどんどん遠ざかっていった。


『……すごい怖い近道だな……乗っているのが、俺じゃなくて良かった。さてと、ニワトリ達のエサをあげたあと、着替えて買い物に行くか』


 ミュラの声が完全に消えたのち、俺は食堂の中へと戻った。




 今回の勝負に必要な物は玉ねぎ1個、トマト1個、牛乳瓶1本、卵1個。

 それらを買った俺はさっさと食堂へと戻った。


『さて……使うソースくらいは俺が作っておいてもいいだろう』


 作るのにそれなりの時間がかかるし、今のコヨミに他の物を作りつつ、ソースも作れというのは酷ってものだしな。


『よし、やるか』


 まずはトマトのヘタを取り除いて、反対側に浅く十字の切りこみを入れる。

 お湯を沸かした鍋にトマトを入れて20秒ほど茹で、皮がめくれて来たら取り出す。

 取り出したトマトを水に漬けて皮を剥き、剥き終わったらざく切りにする。

 そして、玉ねぎ4分の1個をざく切り、ニンニク1分の2片を薄切りにする。


 切ったトマト、タマネギ、ニンニクをミキサー……は当然無いからすり鉢に入れて、すりこぎ棒で潰しながら混ぜる。


『…………………っふぅ……こんなものかな? あー疲れた……』


 ミキサーの無い時代は、この疲労が当たり前の事だったんだよな。

 頭が下がる思いだ。


 ペースト状になった材料を鍋に入れて中火で熱して、酢を大さじ3、砂糖を大さじ2、塩とコショウを適量入れる。


『そして……』


 食料保存庫で発見した物の1つ、ローリエと同様の植物の葉を1枚入れて混ぜる。

 煮立ったら弱火にして、汁気が半量程度になるまで煮詰める。

 煮詰めたら火から下ろし、ローリエを取り除いてから器に入れ替えて……粗熱をとれば……。


『トマトケチャップの完成!』


 ソースはこれでよし、後はメインを買って来る2人の帰って来るのを待つだけだな。

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