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第24話

 床に座っていたケンタウロスが、ゆっくりと立ち上がった。


「ただ、明日はギルドに顔を出さないといけないので……晩にここに来ます。それでいいですか?」


「いいっスよ!」


「……では、また明日」


 そう言うと、ケンタウロスは食堂の扉を開けて出て行った。


「ふぅ~……何とかなったっス。にしても、逃げるの言葉に食いついて来るのは……相変わらずプライドが高いっスね」


 コヨミは疲れた様子でテーブルの上に突っ伏す。


「大丈夫 なのか? あんな 約束……」


 正直、口約束だからな。

 やっぱり無しとか、うまくてもまずいとか言われたら終わりだぞ。


「ああ、大丈夫っスよ。さっきも言った通り、ノルンはプライドが高いっスからね。嘘はつきたくないし、約束は絶対に破りたくない……今頃、勝負を受けた事を後悔してると思うっスよ」


 その姿を想像したのか、ケタケタと笑うコヨミ。


「なら……いいが……」


 まぁコヨミがここまで言うんだ、問題は無いって事だな。


「ただ~……ちょっと問題はあるっスけどね……」


 あるのかよ。


「それ は?」


 大したことない事を祈るが……。


「ノルンに何を食べさせれば気に入るのか……わかんないっス」


「「えっ!?」」


 コヨミの言葉に、俺とミュラが驚く。

 それはめちゃくちゃ大問題じゃないか。


「勝機 あったんじゃ!?」


 何も無ければ、勝機どころか勝負にもならんぞ。


「いや~……その場のノリで言っちゃったっスから……」


 大事な事をノリで言うのは止めてくれ。

 いや、文句を言っても仕方ない。

 考えるんだ……気に入る物……気に入る物……そうだ。


「奴 好物 何?」


「ノルンの好物っスか? ん~……いっつも食事は表情を変えずに食べるし、そういった話もしないから何が好物なのか謎っス」


 それ一番厄介なタイプだ。

 というか、仲間だったんなら何の食べ物が好きかくらい把握して置いてくれよ。


「…………あっ! そうっス! まよねぇ――」


「マヨネーズ 嫌いの人 いる。奴 気に入るか わからない。止めた方が 無難」


 味、匂い、食感が嫌いって人が普通にいるからな。

 コヨミがマヨラーに目覚めたと同じ様に、こっちでも嫌いという人も普通にいるだろう。


「なっ!? あの美味なまよねぇずを嫌っている人がいるっスか!? しっ信じられないっス……」


 よほど驚いた様で、コヨミの目が見開いてしまった。

 とりあえず、マヨラーの意見は置いておいて……好物がわからないとなると甘味、塩味、酸味、苦味、うま味……どれが気に入るのか読めないのはまずい。

 何かヒントがあれば……あ、そうだ。


「奴 出身 この港町?」


 こういう時はおふくろの味で勝負だ。

 懐かしさで気に入る可能性が高い。


「違うっス。東北地方っス」


 くっ違うのか。

 でも、それならこっちで攻めだけよ。


「じゃあ ここ 食べれない 故郷の味 どうだ?」


 おふくろの味と並ぶ懐かしい味。

 これも同様に気に入る可能性が高い。

 ちなみに、今の俺的に味噌汁がすごく飲みたい。

 海外旅行に行って、味噌汁が恋しくなったという話は本当だとこの世界で実感している。


「あ~……確かに、それはいいっスね。ここだと、中々食べれないって言っていたっスよ」


「それ、なんなの?」


 ミュラの質問に、コヨミがニコリと笑う。


「多分、ミュラちゃんも好きだと思うっスよ……それは、ヒンビーゲっス!」


「……はっ? ヒンビーゲ?」


 何だそれは。

 料理じゃなくて、何かの動物の名前の様に聞こえるんだが……。


「えっ! ヒンビーゲ!? ミュラだいすき!!」


 ミュラが目を輝かせて、その場でピョンピョンと跳ねる。


「やっぱりっスか、ウチも大好きっスよ」


 2人の反応からして、特に変わった物じゃなさそうだ。

 どこでも食べられる普通の料理っぽいな。


「それ どんな 料理?」


「えと、ヒンビーゲというのは――」


 コヨミが、どんな料理かを説明してくれる。


「――といった料理っス」


「…………それ 本当?」


 完全に『アレ』じゃないか。


「本当っスよ。この町でも、レストランに行けば普通に食べられるっス」


 だとすると、なぜ中々食べれないって話になるんだ。

 工夫次第では、色々と味変は出来るが……正直言って、アレ自体に味の大差はない。


「じゃあ 何故 食べれないと?」


「材料の問題っスね。やっぱり、ここの物と地域産とじゃあ味が変わるっスからね……新鮮なままだと、運搬のコストが大幅にかかって高くなっちゃうっス。だから、滅多に食べられない訳っス」


「なるほど……」


 確かにその通りだ。

 現世界でも、地域産の材料を使うと同じ料理でも味や風味が変わる。

 ふるさとの味になると、余計に違うってなるわな。

 けど、それなら勝機が見えたな。


「それ 似たの 作れる。鮮度も ミュラの氷魔法 使えば 解決 する」


「あっ! そうっスよ! ウチの足なら明日の朝一にここを出ても、お昼頃には帰って来れるっス! ミュラちゃん、お手伝いを頼めるっスか? ウチと一緒に買い物について来てほしいっス」


「うん! いいよ! ミュラにまかせて!」


 よし、メインは2人に任せていいな。

 なら俺は……。


「その間 他 ほしい物 俺 買う」


「よろしくっス!」


 よし、頑張るぞ。

 じゃないと、俺の首が飛ぶかもしれんからな。



 明日する事も決まり、コヨミとミュラは食堂の片づけ。

 俺は夕飯の準備に取り掛かる事にした。


 使う材料は昼間と同じ。

 鯛の切り身を人数分の3切れ、アサリ5個、ミニトマト10個、ニンニク3欠。

 追加するのは、熟しきった果実の様にふにゃふにゃなパプリカ1個、軸が人の様な顔に見えるエリンギ2本、ずっとクネクネと動いてダンスをしている舞茸1株。

 そして、残して置いた鯛のアラだ。


 まずは鍋でお湯を沸かして、鯛のアラにかける。

 これで臭みをとって、かけたお湯は捨てる。

 鍋に鯛のアラと水を入れ、中火で約30分煮る。

 煮すぎると、臭みが出てしまうからそこを注意しないといけない。


 アラを煮ている間に、食材の下ごしらえだ。

 ミニトマトを半分に切り、ニンニクを粗めにみじん切り。

 パプリカ、エリンギ、舞茸を食べやすい大きさに切る。

 鯛は塩コショウで味を付けをしておく。


 鯛の出汁が出来たところを見計らって、フライパンの準備だ。

 油をひいて、あら目にみじん切りにしたニンニクを入れて火にかける。

 ニンニクの香りが立ってきたら、鯛の皮目部分を押さえつけて皮目を焼く。

 焼けたらアサリと切った材料をフライパンに入れ、そこに鯛の出汁を入れる。

 後は食材に火が通るまで煮詰めて、塩で味を整えれば……。


「アクアパッツァ スープ 完成!」


「わ~! おひるごはんがスープにへんしんした! しかも、あのほねつかってるし! すごいすごい!」


「へぇ~これまた面白い料理っスね」


 アクアパッツァスープを3人分にわけ、ミュラとコヨミは満足そうにスープを啜った。

 こちらの世界の出汁もかなりおいしい、これから出汁に使えそうな物があればどんどん使って行こう。


 そして夕食後、俺達は明日の為に早めに就寝する事にした。


 が……ミュラが寝た後、コヨミは俺の部屋へと入って来た。

 そう、人身売買の奴等の話をする為に……。

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