コヨミはハンバーグ……もとい、ヒンビーゲを乗せた皿を手にしてノルンの席まで持って行く。
「お待たせしましたっス」
ヒンビーゲをテーブルの上に置くと、それを見たノルンが少し驚いた様子で口を開いた。
「これ……ヒンビーゲ……ですよね……?」
「そうっスよ? 何か問題でもあるっスか?」
ノルンの質問に、コヨミはニコリと笑いながら答えた。
「……まさか、こんなまともな料理が出て来るなんて…………」
ノルンの口から心の声が漏れ出てしまっている。
まあそうだよな……この食堂だと、そう思ってしまうのは仕方ないよ。
「ん~? 何か言ったっスか~?」
明らかに聞こえていたはずなのに、コヨミは笑顔のまま質問をする。
その笑顔が非常に怖い。
「え? あっ……いや、なんでもないです!」
ノルンもそれを察したのか、慌ててフォークとナイフを手に持つ。
しかし、ヒンビーゲをもう一度見てピタリと止まった。
「? どうしたっスか?」
「こ、このソース……草じゃないですよね……?」
いやいや、何で草が……ああ、そうか。
こっちのトマトは、赤色から緑色へと変化するからな。
いつものコヨミ特性スープの材料を使っていると思ってしまったのか。
「だから草じゃないっス! 薬草っス! というか、それはトマトケチャップ……トマトを使ったソースっスよ!」
「トマト……ケチャップ……? トマトのスープなら飲んだ事ありますけど、ソースって……本当に美味しいんですか?」
すごい疑って来るな。
とはいえ、コヨミとの付き合いも長そうだし、そうなっても仕方ない気もする。
「もう! 美味しいかどうか、さっさと食べてみればわかるっスよ! ほら!」
「…………わかりました」
催促するコヨミに、ノルンがナイフでヒンビーゲを切り分ける。
そして、一切れをフォークで刺して恐る恐る口元へ持って行った。
「――っ! パク!」
一瞬躊躇したが、意を決したようにヒンビーゲを口の中へと入れる。
「……モグモグ…………んんっ!?」
ノルンは目を見開き、驚きの声をあげた。
「ゴクンッ……! おっおいしい! 肉汁がとてもジューシーだわ!」
すぐさま、もう一切れフォークで刺して口に入れる。
「モグモグ……それに……この肉の味……もしかして……」
「そうっス。ノルンが生まれた地方の牛肉を使ったっス」
「やっぱり! ああ、懐かしい味だわ……はむっ……モグモグ……トマトのソースも……肉とすごく合う……」
ノルンの手と口が止まらない。
「うまのおねぇちゃん、おいしいそうにたべてるね」
「そう だな」
あの感じ、結果を期待してもいいのではないだろうか。
その後、ものの3分ほどでノルンはヒンビーゲを食べきってしまった。
「ふぅ……」
ノルンは一息つき、コップに入った水をゆっくりと飲む。
「で? ノルンの判定はどうっスか?」
コヨミの言葉に、ノルンは少し眉を寄せた。
しかし、ため息が出ると同時に緩ませた。
「はあ…………まさか、これほどの物を作るとは思いもしませんでしたよ……これは、嘘をつけません……悔しいけど、認めましょう……すごくおいしかったです」
その言葉にで俺はガッツポーズを取り、ミュラは飛び跳ね、コヨミは尻尾をブンブンと激しく動いた。
「約束通り、この件に関して私はもう何も言いません。ただし、その子……ミュラちゃんが、ここで保護されて住んでいる事は、冒険者ギルドに報告させていただきます。みんな心配していますからね……」
それを聞いたコヨミが俺の方を見る。
俺はすぐに大丈夫だと頷いた。
ミュラの為に動いてくれた人たちを、ないがしろにしてはいけないものな。
「それは全然問題ないっスよ」
「わかりました、では後で報告を……」
……と、2人が話している間にく~と音がした。
その音がした方を見ると、ミュラが恥ずかしそうにお腹を擦っている。
「あはは……ヒンビーゲ、おいしそうだったから……おなかがなっちゃった」
食いしん坊のミュラにとっては見ているのは辛いよな。
だが、そこに関して問題ない。
「この もう1個 ミュラ 食べる」
ヒンビーゲは2個作ってある。
あと1個が余っているわけだ。
「え? いいの!?」
ミュラが交互に俺とコヨミの顔を見る。
元々この1個は、ミュラに食べさすつもりだったから何も問題ない。
「いいぞ」
「うん、ミュラちゃんが食べていいっスよ」
「わ~い! それじゃあ……って、あれ? ふたりのぶんは?」
「材料の量 2個分しか 作れない」
「え? そうだっの?」
「ウチ等の事は気にせず、食べるっスよ」
「……」
ミュラはヒンビーゲをじっと見つめた。
「……わかった」
そして、ヒンビーゲをナイフで切り始めた。
「こうして……こうすれば…………みんなで、たべれるよ!」
皿の上に置かれたヒンビーゲが、3等分に切り分けられていた。
「さんにんでつくったから、さんにんでたべよ!」
ニコリとミュラが笑う。
一瞬呆気に取られていたコヨミだったが、すぐさま厨房の方へと来てフォークを手にした。
「そうっスね、みんなで食べるっス!」
コヨミが一切れのヒンビーゲにフォークを刺した。
「……ああ そうだな」
俺もフォークを手に持ち、ヒンビーゲに刺した。
「じゃあこれが、ミュラのぶ~ん!」
ミュラもヒンビーゲにフォークを刺した。
「「「あ~んっ!」」」
俺達は同時に、ヒンビーゲを口の中へと入れる。
「もぐもぐ……ん~! おにくおいひ~!」
「モグモグ……ふぁ~……トマトケチャップの酸味が、肉の味を引き立ててるっスね! これはたまらないっスね!」
ああ、まさかこの世界でハンバーグを食べれる日が来るなんて思いもしなかった。
涙が出そうだ。
「……ふふっ」
俺達3人を見ていたノルンが微笑みをこぼした。
「ゴクッン……どうしたっスか? ウチらおかしなことしてたっスか?」
「いいえ、何も……さて、それでは今日はこれで帰りますね」
ノルンが立ち上がり、入り口へと向かう。
「あっうまのおねぇちゃん! あのときたすけてくれて、ありがとう!」
ミュラはノルンにペコリと頭を下げる。
その言葉にノルンが立ち止まった。
そして、優しい笑顔でミュラに視線を向ける。
「……今日はごちそう様でした、本当においしかったです。また、ヒンビーゲを作ってくださいね」
そう言うと、静かに食堂から出て行った。
ノルンの後ろ姿はどこか満足そうにみえる。
「「「やったああ!」」」
その姿をみて、俺達は思わず声を上げて同時に手を出しあう。
パシンッと心地よい音が食堂に響き渡った。