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第30話

 すぐにコヨミにこの事を知らせ……って、そうだった、今コヨミは山岳にいるんだった。

 他に頼れる人はいないし……ええい、仕方ない。


「ま、待て! 待て 待てっ!」


 俺は叫びながら、物陰から飛び出した。

 見守っていたかったが、こればかりは到底無視できない。


「へっ? ゴ、ゴブ!?」

「ひっ!」

「なっ、何?」

「――っ!」


 俺の突然の声に、子供達が一斉にこちらを振り向いた。


「誰だ! お前は!」


 ターンが低い声を出し、1歩前に出る。

 そして、威嚇するように睨みつけてきた。


「俺! 怪しく 無い! 安心 する!」


「怪しく無いって……よくそんな格好で言えるな!」


 あ、そうだった。

 この姿で怪しくないと言っても誰が信じるんだ。

 とは言っても、顔を出すわけにもいかない……ど、どうしよう……。


「あっ! えと……えと……! まって!」


 ミュラもやばいと思ったのか、とっさにターンの前に出る。


「こ、このこは~~~~……そう! おとうと! ミュ、ミュラのおとうとでゴブっていうの!」


 誤魔化してくれたのは嬉しいが……もはや弟がデフォルトになってきたな。


「はあ? お前の弟?」


 ターンが怪訝な顔をし、ミュラは大きくうなずいた。


「うん、そうだよ! とても、はずかしがりやだから、こんなかっこうをしてるの!」


 ちょっと苦しいが、ミュラの助け舟だ。

 もはや乗るしかない。


「そ、そう! 俺 弟! 人前 顔 出す 恥ずかしい。だから この姿 している!」


「「「……」」」


 3人は本当なのかという感じで俺を見つめる。

 ……やばいな、変な詮索をされる前に強引に話を終わらせよう。


「そ、そんな事 より! 森 行く 駄目!」


 俺の言葉にターンが舌打ちする。


「……話を聞いていたのか」


「危ない! 危険!」


 ターンは俺を睨みつけながら答えた。


「うるさいな! 知らない奴に、あーだこーだ言われたくねぇよ」


「うっ……」


 それを言われると返しようがない。


「あ、あのさ! ゴブもつれていっていいかな?」


 ミュラが慌てながら会話に入って来る。

 いやいや、連れてって……俺はお前たちが行かない様に止めたいんだよ。


「はあ? こいつを?」


「うん、だめ……かな……」


 ミュラの上目遣いのお願いに、ターンが一瞬顔を赤くしたじろぐ。


「っ! だ、だだだ駄目に決まっているだろ! 子供が行くところじゃないんだから!」


 だから、お前も子供だろうが。


「ターン、連れて行った方が良いよ」


「なっ!?」


 カルの言葉に、ターンが振り返る。


「何を言っているんだ! カル!」


「その子、そのまま帰しちゃったら、ボク達が森に行った事を大人に言うかも……それはまずいよ……」


「……そうか……むー……」


 ターンが両手を組み、目を閉じる。

 そして、考えがまとまったのか目を開いた。


「わかった……連れて行こう。ただし、足引っ張るんじゃねぇぞ」


「へっ? いや 俺 は……」


「それじゃあ行くぞ!」


 俺の言葉を聞かず、ターンが歩き出す。


「だね」

「う、うん……」


 その後をカルとナナが追いかける。

 駄目だ、こいつら聞く耳を持たない。


「ミュラ……おねえちゃん!」


 せめて、ミュラは引き留めて……。


「ごめんね……ゴブ。でも、ミュラはナナちゃんのママ、たすけたいの!」


 そう言うと、ミュラは3人の後を追いかけて行った。

 くそっ、これはもう俺も行くしかないな。


『はあ……どうして、こんな事になるんだ』


 俺はミュラや子供たちと一緒に、森へ向かう羽目になった。



 港町を出てから森に向かう道中、列の一番後ろにいたミュラに俺は小声で尋ねた。

 どうしても気になる事があるんだよな。


「なあ ミュラ。どうして 前 あの子達 話しかけなかった?」


 この前の買い物の時、ミュラはあの3人をジッと見ていた。

 話しかけるよう促したが、ミュラは拒否をした……にもかかわらず、さっき話し掛けたのが不思議だった。


「え? あ~……えと……その……」


 ミュラは恥ずかしそうに顔を伏せる。


「……わ、わらわないでね……」


 正直、それは内容次第になるが……ここは頷いておこう。


「笑わない。絶対」


「……ミュラのむら、おなじくらいのこがね、ぜんぜんいなかったの……それで、いつもひとりであそんでたんだ……」


 それ普通に笑えんし。

 なるほど、隠れ里だから子供の人数が少なかったのか。


「だから……あのとき、どうおはなせばいいか……わからなかったの…………でも……さっき、ナナちゃんがないてるのみて……ゆうきをだして……はなしかけた……」


「……そうか」


 俺はミュラの頭のてっぺんを、ポンポンと軽く撫でた。


「はえ?」


 ミュラは何故頭を撫でられたのか分からず、不思議そうな顔をした。



 10分くらい歩いただろうか。

 俺達は北の森に到着した。

 森の中は大きく育った木々や草が鬱蒼と生い茂り、昼間でも薄暗い。

 大人達が入るのを禁止にしたのも頷ける。


「うわぁ……薄暗いの……」


 ナナが小さな声で呟く。


「ははっ、こんなんでビビってんのか?」


 ターンは躊躇せず森の中へと入って行く。


「オレの目は暗い場所でもよく見えるからな。ちゃんとついて来いよ」


 ターンが前を歩き、俺達はその後に続いた。


 森に入ってから数十分、思いのほか進みが悪かった。

 理由は簡単、地面が湿っており非常に歩きにくい為だ。

 さらに落ちている枝や地面から出ている木の根、そして……。


「うわ……また倒れた木だ……しかもこれ大きいし……」


 カルはうんざりした声でボヤく。

 この様に、道を塞ぐように倒れた木々が行く手をより阻むわけだ。


「文句を言うな。よっと」


 ターンはジャンプをして軽々木の上に乗る。


「はあ……よいしょ…………うわっ! いだっ!」


 大木に登ろうとしたカルが手を滑らせ、尻もちをついてしまった。

 地面には綺麗にお尻の形が残っている。


「いたたー……」


 カルは打ったお尻を擦りながら立ち上がる。


「だいじょうぶ?」


 ミュラが心配そうに声をかけた。

 カルは恥ずかしそうにミュラから視線を外す。


「こ、この位平――」


『ワオーン……!』


「ひっ!」


 突然、獣の雄たけびが森の奥から響いた。

 そして、茂みがざわざわと揺れ始める。


「なっ何!?」


「早く木の上に登れ! 早く!」


 ターンの言葉に、俺達は急いで木の上に登り身を寄せ合った。


「……」


 ターンが揺れている茂みを睨みつける。

 茂みの揺れも激しくなり……バッと黒い影が飛び出した。


「――っ!」


 その動きにターンが身構える。


『キュッ?』


 が、出来たのは1羽の白いウサギだった。

 ただ普通のウサギではなく、中型犬くらいの大きさがある。

 ここまで大きいと、可愛いというより不気味が先に勝つな。


「……なんだウサギか……脅かしやがって……」


 ターンはホッとした様子で体の力を抜く。

 カル、ナナ、ミュラも同様だった。

 不気味に感じているのは俺だけらしい。


「さっ、さっさと進むぞ」


 ターンが木から飛び降り、俺達も降りる。

 そして、黙々と森の奥に向かって歩き始めた。


 この時の俺達は知る由もなかった。

 北の森の本当の恐ろしさを……。

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