すぐにコヨミにこの事を知らせ……って、そうだった、今コヨミは山岳にいるんだった。
他に頼れる人はいないし……ええい、仕方ない。
「ま、待て! 待て 待てっ!」
俺は叫びながら、物陰から飛び出した。
見守っていたかったが、こればかりは到底無視できない。
「へっ? ゴ、ゴブ!?」
「ひっ!」
「なっ、何?」
「――っ!」
俺の突然の声に、子供達が一斉にこちらを振り向いた。
「誰だ! お前は!」
ターンが低い声を出し、1歩前に出る。
そして、威嚇するように睨みつけてきた。
「俺! 怪しく 無い! 安心 する!」
「怪しく無いって……よくそんな格好で言えるな!」
あ、そうだった。
この姿で怪しくないと言っても誰が信じるんだ。
とは言っても、顔を出すわけにもいかない……ど、どうしよう……。
「あっ! えと……えと……! まって!」
ミュラもやばいと思ったのか、とっさにターンの前に出る。
「こ、このこは~~~~……そう! おとうと! ミュ、ミュラのおとうとでゴブっていうの!」
誤魔化してくれたのは嬉しいが……もはや弟がデフォルトになってきたな。
「はあ? お前の弟?」
ターンが怪訝な顔をし、ミュラは大きくうなずいた。
「うん、そうだよ! とても、はずかしがりやだから、こんなかっこうをしてるの!」
ちょっと苦しいが、ミュラの助け舟だ。
もはや乗るしかない。
「そ、そう! 俺 弟! 人前 顔 出す 恥ずかしい。だから この姿 している!」
「「「……」」」
3人は本当なのかという感じで俺を見つめる。
……やばいな、変な詮索をされる前に強引に話を終わらせよう。
「そ、そんな事 より! 森 行く 駄目!」
俺の言葉にターンが舌打ちする。
「……話を聞いていたのか」
「危ない! 危険!」
ターンは俺を睨みつけながら答えた。
「うるさいな! 知らない奴に、あーだこーだ言われたくねぇよ」
「うっ……」
それを言われると返しようがない。
「あ、あのさ! ゴブもつれていっていいかな?」
ミュラが慌てながら会話に入って来る。
いやいや、連れてって……俺はお前たちが行かない様に止めたいんだよ。
「はあ? こいつを?」
「うん、だめ……かな……」
ミュラの上目遣いのお願いに、ターンが一瞬顔を赤くしたじろぐ。
「っ! だ、だだだ駄目に決まっているだろ! 子供が行くところじゃないんだから!」
だから、お前も子供だろうが。
「ターン、連れて行った方が良いよ」
「なっ!?」
カルの言葉に、ターンが振り返る。
「何を言っているんだ! カル!」
「その子、そのまま帰しちゃったら、ボク達が森に行った事を大人に言うかも……それはまずいよ……」
「……そうか……むー……」
ターンが両手を組み、目を閉じる。
そして、考えがまとまったのか目を開いた。
「わかった……連れて行こう。ただし、足引っ張るんじゃねぇぞ」
「へっ? いや 俺 は……」
「それじゃあ行くぞ!」
俺の言葉を聞かず、ターンが歩き出す。
「だね」
「う、うん……」
その後をカルとナナが追いかける。
駄目だ、こいつら聞く耳を持たない。
「ミュラ……おねえちゃん!」
せめて、ミュラは引き留めて……。
「ごめんね……ゴブ。でも、ミュラはナナちゃんのママ、たすけたいの!」
そう言うと、ミュラは3人の後を追いかけて行った。
くそっ、これはもう俺も行くしかないな。
『はあ……どうして、こんな事になるんだ』
俺はミュラや子供たちと一緒に、森へ向かう羽目になった。
港町を出てから森に向かう道中、列の一番後ろにいたミュラに俺は小声で尋ねた。
どうしても気になる事があるんだよな。
「なあ ミュラ。どうして 前 あの子達 話しかけなかった?」
この前の買い物の時、ミュラはあの3人をジッと見ていた。
話しかけるよう促したが、ミュラは拒否をした……にもかかわらず、さっき話し掛けたのが不思議だった。
「え? あ~……えと……その……」
ミュラは恥ずかしそうに顔を伏せる。
「……わ、わらわないでね……」
正直、それは内容次第になるが……ここは頷いておこう。
「笑わない。絶対」
「……ミュラのむら、おなじくらいのこがね、ぜんぜんいなかったの……それで、いつもひとりであそんでたんだ……」
それ普通に笑えんし。
なるほど、隠れ里だから子供の人数が少なかったのか。
「だから……あのとき、どうおはなせばいいか……わからなかったの…………でも……さっき、ナナちゃんがないてるのみて……ゆうきをだして……はなしかけた……」
「……そうか」
俺はミュラの頭のてっぺんを、ポンポンと軽く撫でた。
「はえ?」
ミュラは何故頭を撫でられたのか分からず、不思議そうな顔をした。
10分くらい歩いただろうか。
俺達は北の森に到着した。
森の中は大きく育った木々や草が鬱蒼と生い茂り、昼間でも薄暗い。
大人達が入るのを禁止にしたのも頷ける。
「うわぁ……薄暗いの……」
ナナが小さな声で呟く。
「ははっ、こんなんでビビってんのか?」
ターンは躊躇せず森の中へと入って行く。
「オレの目は暗い場所でもよく見えるからな。ちゃんとついて来いよ」
ターンが前を歩き、俺達はその後に続いた。
森に入ってから数十分、思いのほか進みが悪かった。
理由は簡単、地面が湿っており非常に歩きにくい為だ。
さらに落ちている枝や地面から出ている木の根、そして……。
「うわ……また倒れた木だ……しかもこれ大きいし……」
カルはうんざりした声でボヤく。
この様に、道を塞ぐように倒れた木々が行く手をより阻むわけだ。
「文句を言うな。よっと」
ターンはジャンプをして軽々木の上に乗る。
「はあ……よいしょ…………うわっ! いだっ!」
大木に登ろうとしたカルが手を滑らせ、尻もちをついてしまった。
地面には綺麗にお尻の形が残っている。
「いたたー……」
カルは打ったお尻を擦りながら立ち上がる。
「だいじょうぶ?」
ミュラが心配そうに声をかけた。
カルは恥ずかしそうにミュラから視線を外す。
「こ、この位平――」
『ワオーン……!』
「ひっ!」
突然、獣の雄たけびが森の奥から響いた。
そして、茂みがざわざわと揺れ始める。
「なっ何!?」
「早く木の上に登れ! 早く!」
ターンの言葉に、俺達は急いで木の上に登り身を寄せ合った。
「……」
ターンが揺れている茂みを睨みつける。
茂みの揺れも激しくなり……バッと黒い影が飛び出した。
「――っ!」
その動きにターンが身構える。
『キュッ?』
が、出来たのは1羽の白いウサギだった。
ただ普通のウサギではなく、中型犬くらいの大きさがある。
ここまで大きいと、可愛いというより不気味が先に勝つな。
「……なんだウサギか……脅かしやがって……」
ターンはホッとした様子で体の力を抜く。
カル、ナナ、ミュラも同様だった。
不気味に感じているのは俺だけらしい。
「さっ、さっさと進むぞ」
ターンが木から飛び降り、俺達も降りる。
そして、黙々と森の奥に向かって歩き始めた。
この時の俺達は知る由もなかった。
北の森の本当の恐ろしさを……。