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第2話・ホットサンドとカフェオレ



「姫様、朝でございます」

 私がイレーネの変化に戸惑っていると、寝室のドアがノックされ、テオドールの声が聞こえた。

「うむ、起きておる。しばし待て」

「かしこまりました」


 主従のやりとりを聞きながら、私はイレーネの体をまじまじと眺めてしまった。白い肌に豊かな胸、細い腰……ベッドの上でしどけなく座っている様がやけに艶っぽい。

 昨夜、私が着せた安物のTシャツは似合っていない。その下には確か、シルクのような光沢の黒いキャミソールを……あれ?


「ねぇ、イレーネ……あ、イレーネ姫って呼んだほうがいいのかな」

 私の今更の質問に、イレーネが屈託なく笑った。

「良い。ミオは我らの恩人じゃ。異世界の人間相手に無礼を咎めるような狭量さは持ち合わせておらぬ。遠慮なく、イレーネと呼ぶがよい」

「ありがと。じゃあ、イレーネ、ちょっと聞きたいんだけど、下着って……どうなってるの? 体の大きさがずいぶん変わったようだけど……」

 私が貸したTシャツは、昨日の体のままなら大きめのワンピースに見えていた。


「魔力が回復したからのう。魔力を使い果たすと昨夜のようにちっこい体になってしまうのじゃが、ミオのオムライスで魔力が回復した。まだ全回復とはいかぬが、本来の姿に戻るくらいには回復したのじゃ。我の所有物である下着や、昨日着ていたドレスなどは、我の魔力に反応してサイズを変える。こちらの世界にはそのような服はないのか?」

 当然のことのようにイレーネは言うが、この世界の中、どこを探してもサイズが勝手に変わる服なんてないだろう。


「体が大きくなるんだったら、ベッドは1人で使わせてあげたほうがよかったね。狭かったでしょう?」

「なんの。ミオの体温を感じて、なかなかの寝心地であったぞ」

 ふふ、とイレーネは笑った。


 そして、イレーネはこちらに体を向けて……そのまま、ベッドに座っていた私の両手首をつかんで押し倒した。

「……へ?」

「ミオ。サキュバスとはどのような種族か知っておるか?」

 仰向けになった私と、馬乗りになるように覆いかぶさるイレーネ。Tシャツの襟元から胸の谷間が見えた。


「えっと……小説とか漫画で読んだことあるけど、魔女、みたいな?」

 私の返事に、イレーネは微笑んだ。赤紫色の瞳が細められ、血色のよい唇も弧を描く。私と同年代のように見えるけれど、その笑みから匂い立つような色気は、私には逆立ちしても出せないものだ。

「そう、魔女でもある。だが、こちらの言葉では淫魔と呼ばれるのが正しいであろうよ」

「いん、ま……?」

 イレーネは私の手首をつかんだまま、顔を寄せてくる。耳元に、ふぅと息をかけられた。

「ひゃぅ!?」


「誘惑し、欲情させ、行為に及んで相手の精気をこちらのエネルギーとして摂取する。もちろん、異性相手が多いが、同性相手でも可能じゃ」

 イレーネが私の首元に、ちゅ、と音を立てて口づけた。

「え!? はぇ!!?」

「だから昨夜、ベッドで良いのかと我は確認したではないか。ミオは我に同衾どうきんの許しを与えたことになるのじゃぞ?」

「え、だ、だって……、昨夜はちっちゃくて……っ!?」

 イレーネの銀色の髪が私の頬をくすぐる。何もつけていないはずなのに、なんだかいい匂いがした。


 そこへ、ばん!と音を立てて部屋の扉が開いた。

 戸口には黒白の……タキシード柄の猫。

「姫様、お戯れが過ぎますぞ」

 テオドールの言葉に、イレーネは私の手首を離して身を起こす。

「なんじゃ、テオドール。良いところであったのに」


「最近では隣国のバンパイア族でさえ、昔ながらの手法で精気を得ることは控えております。それもこれも、我らが淘汰されないため。よもや姫様がご存じないわけではありますまい」

 ふぅ、と黒白の猫は大人の男性の声で、呆れたように言う。表情は猫なのであまり変わらないが、少しだけ目を細めている。

「ははっ、まぁそういうことじゃ、ミオ。戯れが過ぎたな。許せ。――顔が赤いぞ?」

 イレーネはぴょんとベッドから身軽に飛び降りる。

 私もベッドから身を起こしたけれど……ちょっとドキドキしていた。


 着替えてから洗面所で顔を洗い――顔が赤くないことを確認してから、リビングに行くと、イレーネも着替えを終えていた。昨夜と同じドレスだ。本当にサイズが変わっている。

「ミオ、姫様の髪を梳きたいのですが……」

 テオドールの申し出に、ヘアブラシを貸す。

 猫の手で器用にブラシをあやつり、テオドールはイレーネの髪を昨夜と同じツインテールに仕上げた。

「本来であればこういった仕事はメイドの仕事なのですがね」

「世話をかけるな、テオドール。だがお忍びというのにメイドを連れ歩くわけにも行かぬじゃろう」

 ……従者は良いのだろうか。


「朝ご飯はホットサンドとカフェオレでいい? 飲み物は、他に紅茶もあるけど」

 そう問いかけると、イレーネはお腹に手を当てて少し考えたあと、テオドールを見る。

「テオドール、おぬし、夜中に何かやったか。魔力が少し減っておるな」

「はい、姫様が昨夜落とした荷物を探しておりました」

 直立していたテオドールが胸元に手を当てて、ぺこりと頭を下げる。


「そうか、見つけたか?」

「場所の見当はつきましたが……少々、インプどもに絡まれまして、昨夜はそのまま帰ってきた次第でございます」

「わかった、あとで共に行くぞ。インプどもめ……昨夜は魔力が少なくなっていたところに群がられたが、魔力が回復した今の我には手出しなどできぬであろうよ」

 インプ……? なんだっけ、ファンタジー小説では、小さな悪魔みたいな描かれ方をしていた気がする。――え、そんなの日本にいたっけ?


「ミオ、ホットサンドとやらは、パンを使った料理か? 食べてみたいぞ。カフェオレは知っている。我は少し甘くしたものが好きじゃ」

 カフェオレを知っていて、ホットサンドを知らないのは何故だろう。

 いろいろな疑問が湧く。

「わたくしは姫様の魔力を頂戴しております故、基本的に食事は結構でございます。飲み物だけいただければ……ちなみにカフェオレよりも、ブラックコーヒーが好きでございます」

 テオドールがそう希望を出す。昨夜は一応、ミニオムライスを作って食べさせたが、不要だったらしい。


 フライパンでベーコンと卵を焼いて、パンと同じくらいのサイズに整える。その上にマヨネーズを塗ったパンをのせて、ベーコンエッグごとひっくり返す。フライパンに少しバターを入れつつ、ベーコンエッグの上にはチーズをたっぷりとのせた。チーズが熱で溶ける前にもう1枚のパンをのせて、もう一度ひっくり返す。また少しだけバターを足して、上下の食パンの表面にバターで軽く焦げ目をつける。

 フライ返しで少し押しつけながら焼くと、溶けたチーズでいい感じにパンが安定する。いつもは自分1人分だから、パンを半分に切ってから同じように作るけれど、今日は2人分だ。焼き上がったら半分に切ればいい。


「はいどうぞ、焼けたよ。サラダもあるよー。」

 サラダボウルには、適当に切ったレタスや水菜、キュウリとプチトマトを添えてドレッシングをかけた。ホットサンドに野菜が入っていないので、バランスを考えてサラダをつけたけれど、ひょっとして野菜を切ってドレッシングをかけただけというのは、イレーネにとって“手料理”に当たらないかもしれない。魔力の足しになるのならいいけれど。


 半分に切ったホットサンドからはほどよく溶けたチーズがとろりと流れ出る。ベーコンの塩気や卵の甘さ、パンの内側に塗ったマヨネーズの酸味と、外側のバターの香ばしさで食べ応えがあって、休日の朝食として、私のお気に入りの1品だ。

 一応、お姫様に出すということを考えて、ワックスペーパーで包んだ。


「おお、良い匂いがするな! このホットサンドはこのままかぶりついてよいのか?」

「うん、そのまま紙のところを手で持って、かぶりついちゃって。チーズは熱いから気をつけてね」

「城で出るパンは、料理人が毎日焼く丸いパンが多かったから、このように四角いパンを切ったものは話に聞いたことがあるだけじゃ」

 イレーネは食パン自体を食べたことがなかったらしい。


 テオドールは猫舌ではないらしく、美味しそうにブラックコーヒーを飲んでいる。イレーネも嬉しそうにホットサンドに手を伸ばして、ぱくりとかぶりついた。

 ザク、と音がする。

「おお! バターの香りが先にくるが、中のチーズとベーコンの塩気も良いな! 卵も入っていていろんな味がするのも良い。――む、サラダもあるのか。ほう、こちらの世界の野菜は種類が多いのだな。我が見たことのない葉っぱもあるぞ」

 イレーネのフォークの先に刺さっているのは水菜だ。魔界に水菜はないのかもしれない。


「サラダ……手料理ともいえないようなものだけど、これでも魔力って回復するの?」

 私の問いに、イレーネは勢いよく頷いた。

「うむ。このホットサンドはもちろんじゃが、新鮮なサラダも、全てが我の魔力になってくれるぞ。料理ではないとミオは言うが、畑に生えているものをそのままかじっているわけでもあるまい。洗って切って、盛り付けて、この甘酸っぱい汁……ドレッシングと言ったか? それをかけてくれている。立派な手料理じゃ」

「食事で魔力が回復するから……あの、精気?っていうのを取らなくてもよくなったっていうこと……?」

 さっき、テオドールが精気を吸うのは古いやり方だと言っていた。


「ああ、それもあるな。もともと国にいる時は、周りがみな同じ種族であるから、互いに精気を吸い合ったとて、一時しのぎにしかならん。共食いのようなものじゃからな。だから国では基本、料理から精気を取り出していたのじゃ。ただ、それではなかなか足りなくてな、国の者は定期的に、こちらの世界に精気を吸いに来ていたのじゃが……」

 イレーネの言葉に、昔の話でございますな、とテオドールが頷く。


 またパクリとホットサンドを食べ、もぐもぐと咀嚼して飲み下してから、イレーネが続ける。

「昔はヨーロッパに行く者が多かった。翼を隠せば、我らの見た目が目立たずにいられたからな。ただ、姿が目立たぬと言うても、あちこちで精気を吸いまくっていては、化け物として退治されてしまうからのう。このあたりの事情はバンパイア族と同じじゃな。だからこちらの世界でも料理から魔力を得ることが多かったらしい。ただ、馴染みの料理店や、こちらで恋仲になった異性の手料理から得られる魔力が、普通の料理よりも格段に多いことがわかった」


 猫の体には大きなコーヒーカップを両手で抱えて、テオドールがまた頷く。

「我が国のみならず、魔界では使用人が作る料理、家族が作る料理が当たり前ですからな。こちらのように飲食店というものがあまりございません。なので漠然と、料理から魔力を得られるとはわかっていたのですが、愛情が深く関連することが、異界に出た魔族たちによって明らかとなったのです。それに不思議と、魔界の料理よりも異界の……こちらの料理のほうが得られる魔力が高いようでございますな」


「うむ。食材の違いもあるじゃろうが、料理法の違いもあろう。魔界ではシンプルな調理法が多いからな。そのうち、こちらの世界で学んだ料理を、魔界に持ち帰る者が増え始めたのじゃ。料理の種類が増えることで、より一層、料理から魔力を得やすくなった。そうなると、今度は精気目当てというよりも、料理目当てで異界へ出かけていく同胞が多くなった。料理目当てでの人気はイタリア、フランス、中国……そして最近、我らの中でもっとも人気なのが日本じゃ」

 イレーネがそう結ぶ。

 なるほど、魔界の中で今は日本ブームということらしい。


 テオドールはコーヒーを飲み、嬉しそうに目を細めて、耳をぱたぱたと動かした。

「魔界でも食材の関係上、再現しやすい料理、しにくい料理がございますし、魔族たちが聞きかじった程度の知識であることも多いので、我らには“話には聞いているけれど食べたことがない料理”というのが多いのでございます。昨夜のオムライスもそうでございました。今、姫様が召し上がっているホットサンドもそうですな」


 ホットサンドはいろいろな作り方があるし、私はフライパンで作ってしまうけれど、ホットサンドメーカーを使えば見た目も違ってくる。私は自分が入れたいものを入れて作るこのホットサンドがお気に入りだけれど、これがホットサンドのスタンダードと思われるのは、何だか複雑だ。


「え、じゃあ今、日本にもサキュバスは何人かいるっていうこと?」

 料理目当てで、食べ歩きでもしているのだろうか。

「何人……うむ、そうじゃな。何百人か、というところじゃろう」

「え、そんなに!?」

 イレーネの答えに驚いてしまう。テオドールもイレーネの隣で頷いた。

「女性はサキュバス、男性の場合はインキュバスと呼ばれますな。ただ、種族は同じでございます。我らがリリス公国は、代々女王が治める女系の国でございますが、国民はサキュバスとインキュバス、そしてわたくしのような従魔族で構成されております。主を持たぬ従魔族はサキュバス族と同じように食事をいたしますが、わたくしは姫様と血の繋がりをいただいておりますゆえ、食事は必要といたしません」

 そう言ってテオドールは右手首の赤い石を見せた。ホットサンドを持つイレーネの左手の小指に、同じ色の石がはまった指輪がある。


「確か、同胞たちが多く住むのは、シンジュクとかいう場所だったか。カブキチョーが住みよいと聞いたが。あとは……ロッポンギとかギンザという地名も聞いた覚えがあるぞ」

 ホットサンドを食べ終えたイレーネがカフェオレをゆっくりとすする。

「え、歌舞伎町? レストランの食べ歩きをするんじゃないの?」

「うむ。成人済みの同胞たちは皆一様に、異性を籠絡ろうらくすることに長けておる。レストランや食事処では、その個人のために作った手料理というものを食すことができぬのでな。なんと言ったか……酒を供しながら異性と話すような店があるのだろう?」

「え。あ……うん、あの、キャバクラとかホストクラブとか、そういうところかな」

 お酒と一緒にというのなら、そういうところだろうと思う。


「料理が伴わなくとも、人間から向けられる愛情や、羨望の視線、実際に触れあわなくとも、相手が触れたいと思ってくれる欲望の視線、それだけでも我らはある程度、精気として吸い取ることができる。だから同胞たちは人間を装って、そういった店で働く者が多いと聞いた。もちろん、今のところ、一番効率が良いのは料理じゃから、同胞たちも恋人を作ったり、飲食店でも小さな店を選び、料理人と馴染みになって顔を覚えてもらうらしいぞ」

 砂糖の代わりにキャラメルシロップを少し入れたカフェオレは、イレーネのお気に召したようで、「香りが良いな!」と喜んでいる。

「え、あの……昔ながらの……その、行為に及ぶよりも、料理のほうが効率がいいの?」

「料理なら、相手の精気を食い尽くすことがないのでな。我らも退治されずに済むのだ」

 な、なるほど?


 カフェオレも飲み終え、朝食を終えたイレーネは、「さて」と言って立ち上がった。

「とても美味かったぞ、ミオ。昨夜のオムライスに続き、この朝食も世話になった。そこで、頼みがあるのだが」

 イレーネは私をまっすぐに見つめてくる。赤紫色の瞳がとても美しい。


「な、なに? そんなあらたまって……」

「昨夜も言った通り、我はお忍びで異界に来ておる。こちらの世界で探したい人物がおってな。家族には反対されたゆえ、こっそり抜け出してきたのじゃ。こちらの世界で役立ちそうなものをいろいろと持ってきたのじゃが、昨夜それらを落としてしもうた。荷物はこの後取り戻すつもりじゃが、できれば異界にいる間、ミオの料理の世話になってもよいだろうか。――頼む。この通りじゃ」

 イレーネは軽く組んだ手をお腹のあたりに置いて、ゆっくりと頭を下げた。お姫様と言われる人がこんな風に頭を下げて良いものだろうか。


 そう気づいて、慌てて私も椅子から立ち上がる。

「……姫様。お立場を考えなさいませ。姫様はご成人されれば、王位継承権すら持つお方ですぞ」

 テオドールが背中の羽でぱたぱたと飛び上がり、イレーネの耳元でそう言った。

 王位! え、本当にお姫様なんだ!


「テオドール、控えよ。異界で身分を振りかざすことほど愚かなことはあるまい。それにまだ我は成人しておらぬ。成人した同胞たちのようにカブキチョーとやらでエネルギーを摂取するにも効率が悪かろう。何より、今まで食べたどの料理と比べても、ミオの料理からは魔力を摂取できる」

「あ、あの! イレーネ、頭を上げて。私、今は一人暮らしだからしばらく一緒に住むくらい、全然かまわないよ!」

 お姫様に頭を下げられているというのが落ち着かない。


「そうか! ありがたい! 荷物を取り戻せば、こちらの世界で換金できるものも持ってきておるのだ。滞在の費用は払わせてもらうし、もちろん褒美もとらす!」

「え、そんな、褒美なんていらないから! 食費だけちょっと入れてくれればちゃんとした食事を用意できるかなって思うけど!」

 私は慌てて顔の前で手を振った。お姫様からのご褒美なんて、想像もつかない!

「それはいかん。おぬしはリリス公国の公女たる我を助け、その魔力を回復させたのじゃ。褒美を受けるに値する! ――そうと決まれば、テオドール! 荷物を回収しにゆくぞ、調べた場所を教えろ」

「ははっ!」


 主従はそのまま勢いよく……ベランダに向かった。

 ベランダ!? 玄関じゃなくて!?

 ――あ、そっか、2人とも飛べるから……じゃない! こんな明るい時間に、猫や女の子が空を飛んだら大事件だよ!?


 引き留めようとした私の目の前で、テオドールは小さな黒い鳥に姿を変えた。イレーネも、テオドールよりは少し大きな黒い鳥に変身する。カラス……に見えなくもない。というか、遠目に見ればカラスそのものだろう。近くで見れば、顔つきが少し猛禽っぽいけれど、飛んでいる姿を見ればただの大きめのカラスと小さめのカラスだ。

「では行ってくるぞ、ミオ。夕方までに戻るつもりだ。窓は閉めておいてもかまわん。我らの魔法で開けられるのでな」

 大きい方の鳥がイレーネの声でそう言うと、ベランダに続く掃き出し窓が勝手にからりと開いた。

 ばさり、と2人……2羽は同時に羽ばたいてベランダの外へと出て行った。


「は……。まほう……」

 洗浄の魔法というのは昨夜も見た。けれど、朝の光が差し込む中古マンションのリビングで、猫と女の子が鳥に変身して、手も触れずに窓を開けて飛んでいくのを見るのは……現実感がまるでなかった。

 けれど、食卓の上には確かに2人分の朝食の痕跡があり、空になったコーヒーカップは3つある。


「夕方までには戻るって言ってたよね……」

 とりあえず、あとで夕飯の食材を買いに行こうかと、そう思った。




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