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転生先は中華ファンタジーの後宮でしたが、スプシで改革無双したら皇帝の補佐官になりました
転生先は中華ファンタジーの後宮でしたが、スプシで改革無双したら皇帝の補佐官になりました
りねん翠
異世界恋愛和風・中華
2025年05月07日
公開日
23.1万字
完結済
「これは、後宮でただ一人、“残業ゼロ”を実現させた女の物語である。」 社畜OL・成海ゆき、28歳。 深夜残業の末にブラック企業の会議室で力尽きた彼女が目を覚ましたのは――中華風の異世界、後宮の中だった! 目の前には煌びやかな宮殿、やたらに美形な皇太子、そして無意味に複雑すぎる女官制度と超アナログな業務システム。 「誰がどの帳簿を書いて、どこに提出して、いつまでに処理されるのか誰も分かってないって何!?」 混乱する勇姫(転生後の名前)だったが、彼女には現代で鍛え上げた唯一無二のチートスキルがあった―― 作業フローを見える化、在庫を分類、労働を最適化…そう、スプシはすべてを救う! (一部執筆のガイド等に、AI補助ツールを利用しています)

第1話

「最新_修正版_narumi_リテイク(8).docx……」


会議室に山積みされた資料の頂上に、またひとつ紙の束を置いた。深夜0時を回る社内は静まり返っている。電気代節約のため薄暗い蛍光灯の下、私──成海なるみ弓季ゆきは、もう何度目かの徹夜をこなしていた。


「部長から言われた修正点、全部入れたはず……」


目の奥がズキズキと痛み、画面から目を離すと天井がグルグル回る。カレンダーはすでに月が変わっていて、私はこの会議室に丸二日も詰めていることになる。


「あれ?私、シャワーいつ浴びたっけ?」


シャツの袖を嗅いでみると、間違いなく二日目の匂いだった。28歳にして、女子力とやらはとうに使い果たしていた。そして体力も。


「あと少し休めば……」


大きな会議テーブルに頬を押し付け、仮眠を取るつもりだった。あくまで仮眠のはずだった。


「もう限界……」


意識が沈んでいく。後ろめたさと疲労が渦巻く中、最後に浮かんだのは「今度こそ転職しよう」という、過去三年毎日思い続けてきた誓いだった。



◆◆◆



「お目覚めですか?」


甘い香りが鼻をくすぐる。何かの花だろうか。思わず深呼吸してしまう。


「お目覚めになられましたか?」


聞き慣れない丁寧な日本語で、誰かが呼びかけてくる。


「うぅん……あと五分……」


「おや、この方は清語を解するのか?」


殿下でんか、この娘は先ほどから奇妙な言葉を話しております。」


清語?殿下?


重たい瞼を無理やり開くと、そこは見知らぬ豪華な部屋だった。桃色の柱には金色の龍が絡みつき、天井には色鮮やかな鳥や花が描かれている。足元には分厚い絨毯……いや、よく見れば純金の糸を織り込んだ絹の敷物だった。


「ここ……どこ?」


目の前には、まるで絵から抜け出してきたような美形の男性と、うつむいた若い女性が立っている。男性は金の刺繍が施された藍色の長衣をまとい、女性は白と薄紅色の簡素な装いだった。


「これは華やかなご冗談ですな。」男性が口を開く。「ここが煌玉こうぎょく帝国の紫霞宮しかきゅう、特に女官たちの住まう清風院であることをご存じないとは。」


「え?煌玉……?紫霞宮?」


???という顔をしていると、うつむいた女性が小さな声で言った。


「新人様、試験の時間です。急いでくださいませ」


試験?何のことやら。頭がまだ働かず、私は自分の服装に気がついた。紙のように薄い白い下着のようなものと、その上に薄藍色の長い上着を羽織っている。


「あの、すみません。ここはどこなんでしょう?私、確か会社の会議室で……」


男性と女性が顔を見合わせる。


「殿下、やはりこの娘は記憶を失くしているようです。試験に間に合いますでしょうか?」


「構わんよ。その状態でも試験は受けられる。むしろ面白いではないか」男性──どうやら「殿下」と呼ばれている人物は薄く笑った。「私は瑞珂ずいか。煌玉帝国皇太子だ。そなたの名は?」


成海なるみ弓季ゆき……です」


「なるみ……ゆき?」瑞珂が首を傾げる。「珍しい名だな。しかし、」


彼は大きく息を吸うと、まるで詩を詠むように言った。


「勇ましい姫と書いて、勇姫ゆうき……よい名前だ。そなたをそう呼ぼう」


「え?ちょっと待って、私の名前は──」


腕を掴まれた。うつむいていた女性が突然動き、私を引っ張り始めた。


「お願いします!試験に遅れたら私たち、先任女官に厳しく叱られます!」


「ちょ、ちょっと!私、どこにいるのかも分からないし、この服も見慣れないし──」


どうやら紙のように薄い白い下着のようなものと、その上に薄藍色の長い上着を羽織っているようだった。


「勇姫、行くといい」皇太子と名乗った瑞珂が静かに言った。「そなたの行く末は、今日の試験にかかっている」


「お願いします!」女性の声が震えている。


仕方なく立ち上がると、すぐに頭がクラクラした。どうやら激しい貧血だ。昨日……いや、今日……いつだかの徹夜が祟っているのかもしれない。


「わかった、わかった。でも、ゆっくり行こうよ」


女性の手を借り、よろよろと歩き出した私は、窓の外に広がる光景に息を呑んだ。


金色の瓦屋根が連なる巨大な宮殿群。そこかしこに立つ朱色の柱。空には雲ひとつない青空が広がり、庭には見たこともない花が咲き乱れていた。


「これは……中国?いや、違う。こんな建物、現実には……」


まさか映画のセットか何か?でも、あまりにも大規模すぎる。


「時間がありません!」女性が私の背中を小突いた。


廊下を急ぐ間、頭の中はパニックに陥っていた。

『これはどういうこと?私は確かに会社で倒れたはず。それが、どうしてこんな……』


長い廊下を曲がると、突然、美しい衣装に身を包んだ女性たちの群れに出くわした。二十人はいるだろうか。みな同じような装いで、腰に細長い布を下げ、ところどころには小さなしゃくのような道具を携えている。


「遅刻でございます!」


女性たちの中で最も年長に見える人物が、厳しい目で私たちを見つめていた。


「申し訳ございません!新人がなかなか起きず──」


「言い訳は無用!さあ、試験を始めます!」


年長の女性が手を叩くと、周囲の女性たちが素早く二列に並び、正面には巨大な屏風が置かれた。


「新人たちよ!今日は女官選抜試験。合格した者だけが紫霞宮での奉公を許される。おまえたちの中から書記女官、医務女官、内務女官を選ぶ!」


「え、待って、私は受けるつもりはないんですけど──」


無視された。年長の女性は私に冷たい視線を送ると、続けた。


「では、まず書道の試験から!」


何がなんだかわからないまま、私の手には筆が握らされ、前には巨大な紙が置かれていた。


『これは……夢?そうよね、きっと夢に違いない。なら、目が覚めるまでつきあってみよう』


そう自分に言い聞かせ、私は筆を持った。学生時代の習字の経験を思い出しながら、お手本を見て「奉公」と書いてみる。


「おや、筆遣いが独特ですね」


横から別の女性が覗き込んだ。「でも丁寧。書記向きかも」


次々と試験が続く。香りを嗅ぎ分けたり、草花の名を答えたり、複雑な儀式の手順を暗記したり。最後には、奇妙な形の木製の箱を目の前に置かれた。


「これは宮廷記録箱です。何名分の記録が収められるか、一目見て答えなさい!」


箱には小さな仕切りがあり、紙が整然と立てられるようになっていた。


『これって、昔の書類ケースじゃない?』


オフィスワークの経験から感覚的に答えた。「50人分、各10枚ずつで500枚の記録が入ります」


周囲がシーンと静まり返った。


「正解だ!しかも瞬時に!」


年長の女性が驚いた表情で私を見つめる。「おまえ、以前はどこかで記録係をしていたのか?」


「いえ、まあ、事務職ではありましたけど……」


「決まりました!勇姫ゆうき、おまえは書記女官となる!明日から尚書房で働くこと!」


拍手が沸き起こる中、私はまだ頭がクラクラしていた。


『待って、これって……』


もしかして私は、過労死して、異世界に転生してしまったの?


しかも中国風の宮廷?後宮?


「よかったですね、勇姫様!」さっきまで私を引っ張っていた女性が小さく喜んでいる。「私は小桃しゃおたお。これからよろしくお願いします!」


「あの、これは本当に……」


小桃が私の耳元で囁いた。「勇姫様、みんなの前では質問しないほうがいいです。女官長、怒りますから」


仕方なく、私は口を閉じた。


その日の晩、与えられた簡素な部屋のベッドに横たわり、天井を見つめながら、私はようやく現実を受け入れ始めていた。


「まだ夢から覚めない……ということは、これは現実なの?私、本当に異世界転生?」


ため息をつく。


「転職どころか、転生しちゃったよ……」


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