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第3回

 赤く充血した目で、唇を噛みしめ、かたくなに涙を拒み続けている――そんなセオドアの姿を見て、男も少しいじめすぎたかと思い直したようだった。


 そうして怒りもどこかに消えてしまったところで、ようやく男はセオドアの格好に気付いたのか、しまいこんであったマントを再び取りだす。それをセオドアに頭から落とし与えて、背後の岩を指で指した。

 そこは凹型になっていて、今の風向きではちょうど風よけになる上、日光からも身を守れる形をしていた。


「おまえ、よくもそんな薄着でここまでこれたな。一体こんな場所で、何するつもりだ?」


 マントをかぶったままおとなしく従ったセオドアを、正面からの風から庇うように向かいに座った男は、フードの留め金をとめてやりながら訊く。


 セオドアは、砂漠とは無縁の、まるで設備の整った街で着るような普段着そのままだった。

 布の質はいいが、薄く、防砂や強い日光を遮ることには全く適していない。


 たとえ今が退魔中で、これが退魔師としての仕事着なのだとしても、持っているのは腰の短刀1本で、荷袋1つ、マントすら持っていないという軽装備では、この仕事に詳しくない者が見ても無謀だと言うだろう。


 幻聖宮ある街・サキスから出たことがなく、今まで砂漠というものをじかに見たことのなかったセオドアでも、それくらいは分かる。

 なにしろ目を覚ましてまだほんの小半刻だというのに、熱気に焼かれた肌は痛いほど張り、砂と風につけられた細かな傷が赤く腫れ、熱をもってしまっている。無茶無謀、自殺行為としか見えない。


 しかし自分でも分からないことを他の者に向かい、どう言えばいいというのか……。


 セオドアは口ごもって、正面の男を見た。

 とても彼を納得させるだけの説明がつけられる自信はないが、ここまで関わってしまっては逆に話さないほうが失礼というものかもしれない。

 ここがどこなのかも分からない状態で、気分を害させて協力を得られなくするのも得策ではないだろうし。


 無言で返答を待つ男から視線を外し、セオドアは今日1日の出来事を振り返りながら、ゆっくりと話し始めた。



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