この一片の不安も見せない自信のこもった言葉には、セオドアも我が耳を疑う余地はなかった。
けれど、まるで信じられない言葉。
この人は今、本当に本気で言ったのか? こちらを勇気づけるためとかじゃなくて。
感応式は通常、国を代表する者たちが世界中から集まって行われる、幻聖宮で最も華々しく、重大な式だ。この日のために1年前から調整と準備が行われている。
それを自分のためだけにするだって?
困惑が伝わったのだろうか。アルフレートは先までにも増して優しく、そして力付けるように名を呼んだ。
「セオドア。この2年間、あなたにはつらい思いをさせてきたと思っています。退魔剣師としての才を持ちながら、このような所に2年もとどまらせてしまって」
「あの、でも、先月、感応式をすませた者たちがいましたよね……?」
「もちろん現在配属待ちに入っている者がいないではありませんが、皆、すでに内定してしまっているのですよ……」
さすがにそれ以上口にするのは、アルフレートとしてもためらいがあるようだった。また、セオドアのほうも、聞かずとも想像はつく。
やはり追い出したいのではないか。
分かってしまったと、視線を足元へ飛ばす。
宮母相手にこれはいけない、失礼だとは思いながらも、平気だと笑って見せることはつらかった。
それならしかたありませんねと、苦笑のひとつも混ぜて軽く返せばもう少し雰囲気も
魔導杖とその持ち主には、決定的に相性というものがある。
それどころか生まれる前からの、魂のつながりのように、感応すればその者の存命期間中、魔導杖はその者のためだけに存在するのだ。
どんなに無理強いをしても、魔導杖は己の真の持ち主以外の者の声には反応しない。
もしかすると、魔導杖のほうが持ち主を選ぶのかもしれない。そして自分の内に刀身として収まる魔断を。
2年前行われた感応式の際、セオドアは《月魂の塔》の中に収められている、どの魔導杖とも感応することができなかった。他の者たちは皆、それぞれ己の魔導杖を見つけ出して歓喜しているというのに自分だけが手にすることができず、立ち尽くしていたのだ。
自分は白鳥の中にまぎれこんだアヒルにすぎないとはっきり思い知らされた気持ちは、とても言葉になどできないほどみじめだった。
分からなかったわけではない。ないと思ったのだ、そのときは。たしかに。ここに自分の魔導杖はないと。
だが2年の月日を経た今、その判断を自分自身すら信じられずにいた。
『きみのための魔導杖は、まだどこかの国で退魔をしているだれかの手の中にあるのかもしれないね』
衝撃を受け、口さがない者たちの言葉から耳をふさいで部屋にこもってしまった自分を連れ出した蒼駕の慰めの言葉でわずかな希望とともにこの2年を過ごしてきたが、その間に返還されてきた魔導杖は千を超えたというのに、そのどれもが彼女の魔導杖ではなかった。
もともと幻聖宮の数千年に及ぶ歴史の中で、魔導杖と感応できずに養育期間を超えた者は存在しない。彼らは皆、その時代の退魔師となるべく全能神によってこの世に生みだされてきたのだから。
なのに自分は魔導杖すら選び出せない始末。
そんなていたらくでは、大勢の候補者たちと一緒にせず、個対個で強引に自分たちの経験則で選んだ魔導杖や魔断と感応させようと動かれてもしかたがないのかもしれなかった。
能なしにいつまでもタダ飯を食わせておけるほどここの財政は裕福ではないし、幻聖宮唯一の失敗、恥を、放置しておくわけにはいかないだろう。
「そんなに気落ちしないで。あなたは感応できないと思いこんでいるようだけれど、わたしたちは確率は高いと踏んでいるのよ」
その言葉にふっとわれに返り、面を上げたセオドアの前、アルフレートは先ほどの、慈愛に満ちた宮母の顔へと戻っていた。
「あなたも知っているでしょうけれど、本来感応式はまず魔導杖とあなたたちを感応させ、それから魔導杖と
ですが今回は特別措置として、その場に魔断も同席させることにしました。
これは初の試みではあるけれど、魔導杖の拒絶反応が出なければ、これから導入する予定よ」
「同時に、ですか?」
そのあまりに突飛な内容に気を抜かれてしまう。
彼女に自信を持たせるように、アルフレートは大きく頷いた。
「そう。希望者を優先してね。
もちろん魔導杖のランクや魔断のレベル、候補者本人の能力の強弱によって細かく区分しなければならなくなるでしょうけれど、なかなか画期的な策ではあるわ。統計など、そのための準備も先々代の宮母より行われてきていて……そろそろいいころ合いだと思うのよ。
そして今回、このことをいち早く知り、ぜひと申し出た者たちから、魔導杖のランクとあなたの能力に見合う魔断をこちらで選出しました」