Maoはクラフト台の前で両手を腰に当てて満足げに目の前のものを見る。
結果的にはじまりの色レシピは全部で4枚の12色あった。しかも12色を作ったら、タラリラッタターンとどこかで聞いたようなおめでたそうなサウンドとともに一つのレシピがもらえた。その名も始まりの色専用ケース。
「これよ!これ!こういうのマジ好き!運営様は天才か!?わかってるぅ~マジすきぃ!可愛いが過ぎるだろうこれ一万壁に飾ってもいい!」
実際に作ってみたら出来上がったのは木目の美しいキャビネット風ケース。木工職らしく、丁寧に加工された木材が使われており、扉の装飾には葉のモチーフが彫られている。全12色の「はじまりの色」がずらりと並び、ペン軸は木目とクリアカラーインク窓という、ナチュラルで遊び心のある構成。
これを可愛いと言わずしてなんというのか。現実に欲しい。グッズ化はまだか!?と一人でつい騒いでしまう。聞いている人いなくて良かったな。なんて心底思う真緒である。
しかも鑑定眼がついてから素材の品質別に仕分けできる設定が追加されたので今では自然と上級素材のみで制作しているのでレシピ練度が面白いくらい上がっていく。
そんな中で迎えたレシピの練度カンストとそれに伴うご褒美レシピ『陽彩の木洩れ日セット①』
もちろん真緒のおめめが輝いたのは間違いない。
が、そこで彼女を壁が襲う。
「素材がダンジョン生息物だと!?紙装甲だぞ!?私の装備は店売り基準やぞ!?フィールドボス倒さないとダンジョン入れんのよ!?」
「と、いうわけで。今私の持てるもの全てで検証しますっ!」
モンスターで比べたって違いがピンとこないのでひとまず真緒は木こり斧の性能テストをすることにした。店売り斧を基準に自分の作る武器がどれくらいの性能なのか知りたかったのだ。
まずは木材だけを組んで作ったやつ。素材の品質が厳選されてるから店売りよりはマシなはず。
次に素材厳選して作ったものに着色したもの。これは正直どれくらいの違いが出るかなんて未知数だ。
「変化なしってこともありえるし。」
そしてもう一本は板材から着色したものでせっかくの検証なのでパーツは黄緑で着色し全体を組んだ後に緑で着色したがちゃんと黄緑が生きて色がグラデーションやらアクセントやらついてオリジナル感がすごい。
さらに今度は盗賊、木工師、染色師の3職全てがレベル5到達したことで開放されたツールレシピの斧である。もちろんこれも厳選だけの着色無しと2段階着色の二本。
今持ってるレシピではこれが限界だ。さらに攻撃力を載せるためにはもうレシピの練度を上げて効果が乗るのを期待するしかない。あとはカラー補正。これは僅かだけど色によって乗っかる特性が違うというのがこれまでの実験でわかったのでそれをどう選ぶかである。
とはいえ、テーブルの上には5本の斧が並べられていた。どれも形状は同じ、刃は厚みがあり、風紋の彫りが浮かぶ。柄には樹皮を巻きつけた、木こり向けの設計で、3職限定レシピはそれよりちょっとおしゃれになった。という感じである。
ちなみに店売りの斧はこれより上位はない。
「こうして並べると、色の重ね方が個性になってて自分乗って感じしていいなぁ。染色師選んで正解だわ〜。ま、これで差が出なかったら、逆に悔しいけどね。」
誰が聞いてるわけでもないがついつい言葉が出るのは正確なのか歳なのか……。
Maoは道具を携え、草原北部の風詠樹群生地へと向かった。周囲はさわやかな風が吹き、葉の揺れがかすかな旋律を奏でている。
「まずは店売りから……やりますかぁ〜!」
カーン!カーン!と小気味良い音が草原を包む。
「あんの、耄碌、禿、頭!預金が、増えんのは、私のせいじゃねぇぇ!!」
気合と共に気が切り倒された。と、同時に店売りの斧が折れてMaoはリュックの中を開く取れた素材は樹材(低)しかない。
「今までは片っ端から切ってたからなぁ。こんなんみてなかったわ~。時間無駄してたかもなぁ。くそぉ。とりあえず、店売りで気が10っ本ッと!」
アイテムの中から一冊の本を取り出す。これもレシピの副産物で木工と染色のレベルが15を超えた時に出てきたレシピだ。中間素材四個と木工師染色キットの一色と鳥の羽一枚でノートと羽ペンのセットが作れる。
「さ、次!」
次はアイテムから厳選素材の斧を出す。
「今日は愚痴がいっぱいあるから捗るぞぉ~!」
風が通り抜ける高台の岩陰に、Reonは腰を下ろしていた。視線の先には、一心不乱に木を切り倒しては斧を消耗させて折れたら、メモを取り、また新しい斧を持ち出して同じように伐採を繰り返すMaoの姿がある。
「……なんだあれ。見た目はただの木こりで剥げ作ってるけど、やってること研究者だなあんな斧店売りにないよなぁ?一発で切り倒せるとかチートかよぉ。ってかノートなんてこのゲームにあんのか?初めて見た。……ちょっと便利そうだな。」
盗賊スキル遠目で身ながら、狼はくつくつと笑った。
「なぁに笑ってんだよ。ってかさぼるなよぉ。」
透かし離れたところでモンスターを倒していた金色のライオンが寄ってくる。
「や、ボス戦にレベル足らんって言ったのSoutarだろ?俺いけるし。」
「っくそ~残業さえなければっ!んで?何見えてんの?」
「お前さぁ、草原の禿氏知ってる?」
「あ~。新人プレイヤーに混ざって素材漁りまくってるっててフィールド禿にしてるやつ?たまに見たりしたけど。でもマナーはいいよな。俺一回素材集め被ったけど「必要なものあったら教えてください場所譲ります」って配慮してくれたし。」
「え?初耳なんだけど。」
「その程度の会話なら誰でもするだろ?変な勘違いされて粘着されたら気持ちわりぃじゃん。三回偶然が重なったら声かけるようにしてるし。」
「道理でフレンド多いはずだよ。」
「そんぐらいのコミュ力なきゃ営業なんてやれねぇ~よ。」
「むしろ営業だからオフでまで愛想ばらまきたくねぇ。」
「んで?その禿氏がどうした?」
「あそこ、樹切ってる。」
「あ~良く見えんなあんな距離。確かにあの辺一帯剥げてるけど。」
「なぁこのゲームノート機能あったっけ?」
「知らない。入る前に攻略サイト見たけど、そんなレシピなかったぞ。」
「店売りも見たことないしなぁ。」
「レアドロか?」
「さぁ?それなら攻略組がだしてんじゃねぇか?」
「そろそろレベルが頭打ちらしいからなぁ。」
「早すぎんだろう。どんだけ走り回ってんだよぉ。学生か?」
「まぁ、いろんな人いるしね。」
「色々いすぎだろう。攻略組とか禿氏とか禿氏とか。」
「増やすな増やすな。」