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第6話禿氏噂される

 平日の昼下がり。真緒はいつよりちょっと遅い昼休憩に入っていた。


 「ったくあの爺さん何度目なの本当に。預金増えないのは私のせいじゃないし、利息で増えるなんてバブル神話じゃん!こちとらまだ生まれてもないってぇの!」


 お弁当のウィンナーに思わず端をつきたてつつも左手はしっかりSNSをスクロールしている。


 「さてさて~昼休みのうちに情報収集しときましょうかねぇ~。tubuyaitaはどうなってるかな……?禿氏とはなんぞ?」


@gather_dreamer

「ラフレア草原、5分前に行ったのにもう禿げてるんだけど!?採れるもん全部ないの、どうなってんの…禿氏通った…?」


@fieldwatch_bot

【速報】🌪ラフレア草原、30分前まで群生してたはずの風流草が全滅。目撃情報によると、「狐尾の盗賊が花に話しかけてた」とのこと。

#禿氏目撃


@rare_mat_love

「ラフレア草原、復活直後の取り合いにすらならなかった。近寄ったらもう何もない。…禿氏が先に来てたんだな。あの人、地形覚えてるでしょ」


@mokkou_log

「また禿氏がフィールド刈り尽くしたあとでログ残してるやついた。“綺麗に禿げました!”ってコメントと共に…w」


@silent_flower

「フィールド素材禿げ散らかされすぎて“季節変わった?”って思ったけど、ただ禿氏が通っただけだった」


@drop_brothers

「“あー、今日も禿げてるなあ”って日記に書きたくなる景色。誰かに抜かれたんじゃない、“あの人”が全部持ってったんだよ…」


@tailchaser_holic

「禿氏のスリ取りルートにぶち当たったプレイヤー、地形と素材と敵が“ごっそりない”って言ってて笑った。

→通称『ハゲゾーン』、またの名を『狐の通り道』」


@foxfan_sub

「いや、そろそろ『禿氏が通ったあとに咲く花はない』って詩集とか出してほしい。悲しみと敬意に満ちた感じで」


 「まぁ素材集めしてるとありがちな光景ではあるよねぇ。あ、攻略動画見とかなきゃね。そろそろボス攻略しないと素材集めに行けないし。」


 開いてたSNSを閉じて動画配信のアーカイブを眺めだす。


 「確か戒さんのやつがボスの動き良く見えたはず……。」


 その配信者は仲間四人から六人でよくボス攻略の動画を上げている人だ。


 真緒自身は素材重視プレーヤーだから普段は流し見する程度だが今回はそうもいかない。ソロでも勝てるように備えねばならないのだ。


 ベリュリットの咆哮が草原を揺らし、画面いっぱいに広がる花嵐。その中、鋭い声が飛んだ。


 「カットイン入るよ、後衛、右回避して!」

戒の指示に、パーティメンバーが即座に応じる。画面の中で、華麗に連携が決まっていく。


 だが、ベリュリットの咆哮が一瞬静まり、次の行動に入る隙を突いたそのとき――戒がふと口を開いた。


 「そういやさ、このフィールド来る前、ぜんっぜん素材湧いてなくてびびったんだよね」


 「セレネの岸辺、ほとんど禿げてた。敵も草も石も。あれ、もしかして“禿氏”通ったあとじゃね?」


 後衛の魔導士が思わず吹き出す声がマイクに入った。


 「またその話!? 都市伝説じゃないのあれ!?」


 「いやいや、こないだ染色師の知り合いが“草一本なかった”って震えてたよ。リアルに禿げてたってw」


 「風のキツネの盗賊、だっけ? 花の中から素材だけ持ってく奴w」


 「いやほんと、あれは…通ったあとに何も残らんよ。花粉すらなかったもんw」


戒は笑いながら双剣でベリュリットの足元を切りつける。


 「俺たちが六人で苦戦してる間に、あの人素材全部持って帰ってるんだろうなー」


 「誰か『禿氏が通ったあとの景色写真集』とか出してくれよ。表紙:レナブルー湖“Before / After”な」


 ベリュリットの残り体力がわずかになったそのとき、コメント欄が爆発した。


配信コメント:

💬【ユーザーコメント欄】


「草一本ない=禿氏通過説ww」

「カイさん討伐してるのにトーク内容が平和で草」

「禿氏の話してる間に削りきってるの地味にすごい」

「“素材すら残らない男”って称号つけたい」

「花が咲かない…それは禿氏が通ったから」

「ベリュリットより禿氏のほうが怖い定期」

「『フィールドが無音になったら禿氏が近い』って昔ばあちゃんが言ってた」

「素材再湧きまでのタイマーと禿氏の出没時間、被ってる説あるよ」

「今日の禿氏、風のエフェクト強めだったらしい(謎報告)」

「戒さん、倒したら“フィールド草残ってるか確認してくる”のくだりくださいw」




「……またみんな髪の話してるw」



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