真緒は、打倒ベリュリットため、攻略組プレイヤーの動画を日々チェックしていた。なんせMaoの装備は店売りの紙装甲。防具師も裁縫師も持ってないから自作できない。かといって、真緒のように職人気質で作ってる人をいまだ見かけられないし、もちろんソロ勢のMaoにネッ友などいようはずもなく。
その解決策。
盗賊の回避スキルをガン詰みにしてできるだけ食らわないようにしつつ短剣の攻撃力を上げて連撃で削るしかない。
もう後は消耗戦覚悟である。
もっとも難易度の低いフィールドボス、巨大な羊神「野彩のベリュリット」。
風と自然を操るそのボスは、草原に咲き乱れる花々を纏い、角には彩の花弦が絡む幻想的な姿。動画でよく見る攻略組は、その圧倒的な攻撃――「花嵐の突進」と「彩風の咆哮」、そして眠りを誘う「眠りの花粉」に苦戦していた。
「……でも、色が変わるたびに弱点も変わるしパターン読んで交わせるものは確実にやっていかないと。それに武器はもっと底上げが必要か……。」
真緒は自身の武器――《風香の双影刃》に目をやる。それは攻撃力360~400、風属性を主軸にしながらも、緑・黄緑・水色・紫の色がうっすらと浮かぶ特性持ちの双剣だ。
自然親和による状態異常耐性、幸運によるドロップ率、冷静さでSP回復、そして幻覚防御で眠りを防ぐ。ボスの能力に対抗するには、理想的な性能。
そしてもう一つ、真緒には“盗賊”という得意職がある。アイテム取得に特化したスキルが、この戦いにどれほどの価値をもたらすか…彼女はそれを試してみたくなっていた。
とはいえボスは4~6人想定のボスである。ソロ勢のMaoに行けるかどうかは正直掛けだ。なんせ紙装甲がどこまで響くかわからないんだから。
「よし、行ってみようか。」
ラフレア草原。花香る風が吹く中、ボスの影が花畑の中央に佇んでいた。色が周期的に変化しながら、ゆったりとした呼吸で大地を踏みしめる。
戦闘開始と同時に、真緒は風のように駆け出した。
「風香の双影刃——風嵐斬!」
風の刃が閃き、花を揺らしながらベリュリットの体毛に切り込む。弱点が風属性のタイミングを見極めた一撃が、確かな手応えとともにボスのHPを削った。
その直後、真緒はすかさず腰のポーチからスリ取りスモークを投げつける。
「今のうち……《隠し手》!」
煙が舞い上がる間に、彼女の指が羊神の体毛からさっと何かを摘み取る。手の中には、ふわりと香る《彩風の羊毛》。アタリだ。戦闘中にできる盗賊だけのスキル。モンスターからアイテムを掏る事ができる。ボスで大体三種類って話らしい。
「よしっ、一個目!」
だが気を抜く間もなく、花畑の風向きが変わる。「彩風の咆哮」——轟音と共に状態異常の波が襲い来るが、風香の双影刃に備わる幻覚防御と自然親和が真緒を守る。
「危なっ!効いたっぽいけど見た目ほどひどくない…平気!」
HP管理を怠らないはサクションゲームの基本、再び距離を詰めて切り込みながら、真緒はもう一度タイミングを図る。
「次は……《陽動スリ取り》!」
一瞬のフェイントを混ぜた連撃の合間に、ポーチから素早くもう一度スリ取りの手を伸ばす。狙うは《芳香の結晶》か、《春草の種子》。
「……これで2つ目!」
そのまま連続攻撃に転じ、ボスの色変化と呼応しながら的確にスキルを重ねていく。風属性に切り替わった瞬間には最大火力をぶつけ、睡眠効果が漂えば即座に距離を取り回避。
途中、SPがじわじわ回復しているのも冷静効果がついた水色染色のおかげだと真緒は気づいた。
「この色、いいかも……。できればしっかり三つとしたいけどこれ以上は引き延ばせないだろうな。装備が怪しいや。……《影の手》!」
スキルによる隠密行動を一時的に強化し、三度目のスリ取り。今度は《春草の種子》をしっかり確保。
やがて、ボスの体力が底をつきかけると、最後の変化に備え、真緒は風属性を最大限に引き出した連撃を構える。
「終わりにしよう、連撃・乱れ舞い!」
疾風のような連撃がベリュリットを貫き、咲き乱れる花々の中、ついにその巨体が崩れ落ちる。風が止み、静けさが草原を包んだ。
「……倒した!ギリ!」
リザルト画面には、しっかりとスリ取った3種の素材とドロップ品が並んでいた。
「狙った素材、全部取れた……っしゃ!」
そしてアイテム欄にある「野彩の芽」これがなければダンジョンには入れない。
「うわ~これで新素材入手してまたレシピ増えてって終わりがないなぁ~まだ熟練度カンストしてないのもあるのに。嬉しいけど広がり凄くて闇が深~い!たのしぃぃ~!!」