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第9話真緒、店を持つ

Maoの開いたクラフト店舗【Mao's Atelier】には、早速多くのプレイヤーが押しかけていた。


「ついに来たか、店機能!」

「家具か!?武器か!?装備か!?」

「回復杖!回復杖ないですか!」


 期待を胸に覗き込むプレイヤーたち。


 だが、そこに並んでいた商品を見た瞬間、空気が変わる。


・陽彩板材(赤)×10 450G

・陽彩板材(青)×10 450G

・陽彩板材(緑)×10 450G

・陽彩釘(赤)×10 300G

・陽彩釘(青)×10 300G


「……色違いの、板?」

「釘!?店で売ってるの、釘!?!?」

「いや、家具とか武器じゃなくて素材!?」


全チャ


紅蓮の斧戦士:「家具売ってると思ったら、色付き木材と釘だけだった件」

禿氏:「店っていうか……これ、資材置き場じゃん」

狩人ユノ:「期待して損したwww」

初心者A:「釘って買うもんなんだ……」


 商品内容を見て騒ぐプレイヤーたちをよそに、Maoは囲炉裏横の作業台で何かを熱心に加工していた。


 「んー、同系色で揃える感じもいいけど……。ポイントカラー利かせるのも可愛いかもしれないなぁ。」


 完全に自分の世界である。


踊り子エリル:「でもこれ、クラフターからするとありがたいんだよなあ……。」

武器鍛冶NPCモドキ:「(無言で色違い釘20セット買っていく)」

染色師見習い:「色付き木材、で高品質しかないとか鑑定できないからマジ助かる。」


 色違いの板材。


 微妙に光沢の違う釘。


 見た目は地味だが、性能面では着実に恩恵をもたらす中間素材たち。


 攻略組からは嘲笑気味の空気が漂う中、Maoはこっそりと、ある“常連”の存在に気づいていた。


 毎日のように、陽彩木材を買いに来るプレイヤーネームReon。


 (あれ……この人……どこかで……)


 Maoの記憶が引っかかる。


 初めて水汲みしたあの夜にMaoを新種のモンスターかなんかと勘違いした(と思われる)やつ。


 ゲームスタートの日に何気ないつぶやきをした。


 (……あの時の狼さん、だよね?)


 ある日。


 ちょうど店の補充に訪れていたMaoは、例の狼が店先に立つのを見かける。


 目が合った。


 相手は一瞬、驚いたように目を細めたが、すぐに視線を戻し、棚の木材を手に取ろうとする。


(……よし。)


 Maoは息を吸って、意を決した。


 「……あの。もしかして、いつも木材買ってくれてる人……ですか?」


 フードの男が、手を止める。


 「……ああ。君が、この店の主か。」


 「あ、はい。Maoっていいます。いつも、ありがと……ございます。」


 緊張で語尾がやや崩れたが、なんとか言い切る。


 「君の木材使うと成功率あがるんだ。助かってる。」


 その一言に、Maoの耳がぴくりと動いた。狐の耳が、嬉しそうに揺れる。


 「もしかして……生産、けっこうやってたりします?」


 少し、期待を込めて問いかけた。


 「攻略組」が蔑んできた“生産”を、真剣に扱っている誰かかもしれない。そんな希望を胸に。


 男は、少し黙ってから、フードを外した。


 見えたのは、記憶の中と同じ、銀灰の髪と鋭い瞳。Reonだった。


 「いや、そんなに。」


 「そう、なんだ……!」


 Maoはがっかり感を隠せず言葉に詰まる。


 「よくいろんなフィールドで素材集めてるよね。生産ガチだったりする?」


 気を使われたのだろう。Reonの言葉にうなずく。


 「そうなんだ。」


(仲間じゃないのか……。ちぇ)


 やたらと沈黙が重い。そのあとどういえばいいかなんてわからない。


 恐らく消耗した物を作る程度だろう。それならきっと練度は最低ランクだ。そうなるとMaoが用意した素材を使っても効果はつかない。Cランク以上にならないと素材の質が効果を発揮しないのだ。


 木材を買って居なくなるReonを見送ってMaoはつぶやく。


 「ってことはここで木材勝った人が練度上がって行ったらもっとレシピ広がるよね!がんばろう!」


 どこまでも真緒はポジティブだった。ゲームに関しては。

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