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第10話真緒、名が轟く?

 その日真緒は空腹に服に耐えかねてコンビニで買ったおにぎりとホットスナックをお腹に詰め込みながら帰宅した。


 「なんで仕事もちゃんと頑張ろうって決めたとたんにトラブル続きかなぁ!もう!おかげで今日も帰宅遅くなっちゃったじゃん。」


 部屋に入ると同時に電気をつけてパソコンに直行。スイッチを入れたら着替えをもって風呂に直行しつけなれたゴーグルを装着する。理想の睡眠時間を考えればあと一時間蔵しか遊べないが逆に言うと一時間は遊べるのだ。


 木洩れ日のひかりのなかでMaoの視界は開けた。

その始まりは、最近見慣れた店の中で色違いの板材を見つめる、一匹の狼だった。


 (Reonさんすっかり常連さんだな。)


 なんとなくそんなことを考えつつ店内の商品補充をしていく。その中でお買い上げとともにコメントが添えてあるものがある。


 『裁縫師が使える染色素材はありませんか?』


 「染色キットかぁ。」


 販売自体は問題ない。


 出せる。出せはするんだが、染色キットの使用成功にはいくつか条件があると真緒は経験から理解した。それは作りたいもののレシピ練度と素材の質が釣り合ってないと染色は必ず失敗する。


 つまり、今Maoの作ってる染色キットの練度とそれを買いたいと言ってる人の使いたいレシピの練度が揃ってないの成功しない。


 ちなみにすでにMaoの色素素材、染色キットの練度はSSなのだ。つまり相手のレシピが練度SSでないと成功しない。


 それを知らない人が買っていったとて色はつかない。下手したら詐欺扱いでクレームものだ。だがトレードと違って(なお現在その機能はない)店置きはいちいちそんな説明を毎回つけてられない。


 「売ってあげたいけどねぇ。ん~。出会えたら聞いてみよう。」 


 そんなことを考えながら淡々と補充作業をしてると、狼のReonの陰からちょこんとのぞく黄色のライオン。


 頭のアイコンには「Soutar」の文字。陽気そうな青年がついていた。



 「この子がMaoさん。例の店主さん」


 Reonが紹介すると、その青年が手を差し出してくる。


 「初めましてMaoさん!俺Reonの相方のSoutar。防具師やってる。……まだへたくそだけど。」


 「どうもMaoです。木工と染色と盗賊やってます。素材ばっかりの商品ですいません。」


 「いやいや!カラフルで楽しいなって思ってみてたよ。あれって誰でもできるの?」


 「実力に見合った染色キットがあればたぶんできると思います。」


  Soutarは店頭の木材と釘を眺めながら、ぽつりと聞いてきた。


 「……強化のコツ、ある?」


 Maoは一瞬考えた。


 あの無数の失敗、試行錯誤、調整、微妙な色味の違い。


 誰にでも通じる説明なんて、きっと存在しない。


 だから、シンプルに答える。


 「たくさん作ればいいと思う。」


 「……あ、うん、なるほど。雑!!」


 思わず笑ったSoutarに、Maoも笑い返す。


 「うう~ん。それ以上説明のしようがないっていうか、そっちの職業やってないから広がりがわかんないっていうか。」


 「そういうとこ、クラフターっぽいな」


 Soutarはその後も木材と釘を買い込み、Reonと共に去っていった。


 Maoはフィールドを渡り歩き、様々な素材に触れるうちに、ツールと武器は密かに進化を遂げていた。


 その見た目は相変わらず、ゲーム開始時に配布された木の斧や短剣そっくり。


 ただし使われているのは、高耐久・属性効果付きの強化木材。


 釘ひとつとっても、自作の陽彩強化釘が仕込まれている。

 結果――


 「今、彩風の丘で《彩陽樹》を一撃で切り倒したプレイヤーがいたって……あれ、初期ツールじゃね?」


 「いや、あの初期ツールの木こり斧じゃ無理だろう?この辺の素材ってツール使うの6回は叩かないと切れねぇじゃん。」


 「ってか、あの人、店舗オープンアナウンス出してたMaoじゃね……?」


 目撃者が増えるにつれ、名前が浮上する。


 真緒(Mao)。



 ただのクラフターかと思えば、正体不明の“謎強プレイヤー”。


 その噂はやがて、配信界隈にも届く事になった。


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