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第11話真緒、ネトストにあう

「ハイどーもー、今日はセレネの森リベンジいくぞー!」


 攻略系人気配信者・戒は、いつものように配信を開始していた。そのさなかでにわかにコメント欄はざわついていた。


──『Maoって人がソロで中ボス倒したってマ?』

──『見た目初期装備なのに強すぎ。なんか怖い』

──『あれたぶん運営関係者のテストキャラじゃね?』


 興味を持った戒は、いくつかの動画を見て分析し始めた。


 「いやこれ、初心者詐欺やろw 装備見た目で油断させてぶっ壊れ性能で無双してる感じ。てか……この動き、盗賊レベルやばくない?ってか最大値いってんじゃん、これ。」


 有名配信者の確実ともいえない憶測にコメント欄が盛り上がる。


──『ガチチート説』

──『生産職でここまで?無理やろw』

──『晒される案件来た』

──『おまけに店開いて素材まで売ってるとか運営が用意した商人NPC説出てて草』


 その話題はいつしか噂となり、もう“事件”として炎上していた。


 「……また来てる」


 Maoが気づいたのは、セレネの森での採取中だった。


 薄明るい朝の時間帯、周囲にプレイヤーの姿は少なく、木漏れ日の中に揺れる緑が穏やかに広がる。


 だが、フィールドの奥でこちらを見ている影が、またいた。


 (今週で三回目……同じ耳、同じ服装。絶対わざと)


 そのプレイヤーは直接話しかけてくることはない。ただ、視界の隅でちらちらと見える距離を保ち、同じエリアに長時間滞在する。


 あるときは採取地に先回りして伐採済みマークを量産して回り、またあるときは戦闘中のMaoの背後にわざと立って、モブのヘイトを取らせるなどの「軽い嫌がらせ」。


 一人、また一人と、似たような行動を取るプレイヤーが増えていった。


 店の中にも、不審な影が現れた。


 「……“素材屋Mao”、今日も元気に釘と板材売ってるな」


 チャットログに、プレイヤー名不明のつぶやき。匿名表示の外部ツールか、あるいはフレンドのサブキャラか。一定距離から離れず、店舗の品揃えが更新されるたびに立ち止まり、無言で見ていく。


 買いもしない。


 ただ、“見る”。


 Maoは補充を終えると、即座にログアウトした。けれどその数分後には、メッセージが来ていた。


──「意外とマメなんだな、運営キャラってやつは」

──「チート使って木切って楽しい?」

──「偽初心者乙w」


(はー……めんど)


 もちろん、ブロックも通報もできる。だが、完全には防げない。別アカウント、別キャラ。


 野次馬根性の塊は、形を変えて付きまとってくる。


 いつも通りの採取に出かけようとしたMaoは、その日、ふと足を止めた。


 リュックの中には、いつもと変わらぬツール。目的地は素材が減ってきたので補充の為に「彩風の丘」。


 だが、ログイン前の画面で、少しだけ迷った。


(また今日も……いるんだろうな。)


やる気がないわけじゃない。


 でも、見られていると分かっていて、それを無視し続けるのも、けっこう疲れる。言葉にされない悪意の波が、じわじわと足元をさらうような感覚。


 それが、少しずつ真緒の心をくすぶらせていた。



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