素材は、揃ってる。
レシピも、間違ってない。
なのに、成功しない。
「あ~……また、失敗か」
俺はがっくりと項垂れた。隣で颯汰も、同じように天を仰いでいる。
何回もチャレンジしているが、武器・防具の作成は一向に成功しなかった。
成功率が低いのは分かってた。
でも、まさかここまで酷いとは……。
しかも、追い討ちのように現実が襲いかかる。
素材、ラスト一個。
「……Soutar。」
「……ああ。分かってる」
俺たちは無言で顔を見合わせた。
そうだ、真緒に聞こう。
ここまできたら、プライドも何もない。成功させるためなら、どんな手でも使う。
「やぁやぁ、いらっしゃ──って、どうしたの?」
いつものようにニコニコ顔で迎える真緒に、俺たちは泣きそうな顔でレシピと素材を見せた。
「これ……作りたくて……でも……全然成功しなくて……」
「ふむふむ」
真緒は真剣な顔で、レシピと素材を確認する。
そして。
「あ、これね。こっちの素材は品質低でこっちは高だね。
素材の品質のバランスが極端に悪いと失敗するよ。クラフト補正効果を何かにつけてれば少しは緩和するけど。」
『……ええええええ!?』
素材の品質バランスなんて考えたことなかった。そんな細かい仕様、どこにも書いてなかったぞ!!
ってかどうやったらそんなのわかるんだよ!?
「クラフトって、そういうもんだよ?レシピは基本だけど、正しい使い方しないと成功しないんだ〜。Reonは盗賊でしょ?鑑定使わないの?」
真緒は、当たり前のことみたいに笑った。
「鑑定?」
「あれ?持ってない?レベル10以内で取れるやつ。スキル取りどんな感じにしてる?」
「戦闘重視型かな。」
「あぁ、じゃぁ剣技系統なのか。究極職【月喰いの刃(ムーングリーヴ)】狙い?私は手業系の統究極職【金環を穿つ手(ルナリングレイダー)】だからクラフト向きの小技が多いんだけど、その中に鑑定があって一度鑑定使ってから採取すると次から採取したものが品質別に仕分けストックされる使用に変更できる機能が解放される。」
『なにそれ!?』
「特にアナウンスなかったからみんな知ってるんだと思ってたけど……?」
『知らないよ!?』
……すげぇ。
俺たちは、やっぱり根本から勘違いしてた。
レシピを"読む"だけじゃダメなんだ。
レシピを"理解"して、"正しく使う"ことが必要なんだ。
「で、パーツもまた買いたいんだけど。」
「あ、いいよー。いっぱいあるし!私が店に出してるの全部品質高しかないから成功率と経験値ボーナスつくよ。……てもしかして木材だけここで買って残りは採取の組み合わせしてる?」
「そうそう。」
「あ~そりゃ成功しないね。使うのは石とフィールド鉱石か。それならだいぶストックあるからあげようか?交換するためにフレンド申請してもいい?」
『いいの!?もちろん!』
Maoはそれぞれ20個ずつくれた。代わりにこっちは手元に余らせてた木材並んでもいいから同数くれってことで交換した。Maoは木工師と染色師らしく植物系はいくつあっても足りないとぼやいていた。
「なんせ練度上げるのに100回クラフトしないといけないからぁ~。」
「え?」
なんかすごいこと聞こえた気がする。再び颯汰が先に購入操作に入った。……だが、ここで。俺は、ある異変に気づいた。
「……あれ?」
商品在庫数──減ってない。
颯汰が今、明らかに買ったはずなのに。
でも、リスト上では在庫数は減ってないままだ。
「なぁ、Mao。」
「ん?」
「今、補充した? 在庫。」
「んーん、してないよ?」
ケロッと答える真緒。
じゃあ、どうなってんだこれ。
俺たちの疑問に、真緒はさらっと衝撃の事実を語った。
「えっとね、この店の棚、木工師の特別製なの。ちゃんと練度カンストした木工師が、一から手作りで作った《自動補充棚》。中にストックが入ってると、自動で商品枠に供給されるんだ〜。これのおかげでしょっちゅう補充来なくて済むから助かってる。」
『……は?』
「いや、そんな……。あるわけ……。」
「あるんだよ? でも、作るは面倒なんだよね~。一個一個パーツも上質じゃないといけないし、その前段階のレシピ練度カンストしないとレシピ事態入手できないし。」
真緒は、にこにこと無邪気に言った。
でもその内容は、俺たちの常識を完全にぶち壊すものだった。
練度カンスト。
品質重視パーツ。
完全手作り。
嗜好品。
そんなものを、普通に使っている。
Maoは、冗談じゃなく、文字通り「異次元のクラフト職人」だった。
俺たちは再び素材集めに、森へ向かっていた。
「あ、Maoだ」
颯汰が木陰から指差す。
見ると、真緒が一人で、いつものように素材採集をしている。
大きなリュックを背負って、土を掘ったり、樹液を集めたり、本当に地味な作業ばかりだ。
俺たちは笑いながら手を振ろうとした。
──その時。
周囲に、違和感を覚えた。
真緒の周りを、不自然にうろつくプレイヤーたち。
木の陰に隠れ、草むらから覗き、無言で距離を取って様子を伺っている。
しかも、一人や二人じゃない。三人、四人、いや──五人以上いる。
全員、何かを探るように、じっと真緒を見ていた。
「……なんだ、これ」
「……気味悪いな」
俺と颯汰は顔を見合わせた。