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第14話Reon視点

 「……ストーカーとかだったら嫌だよね。いや、気のせいかもしれないんだけどさ」


 昼休みの給湯室から、そんな声が漏れてきたのは、ちょうど蓮が廊下を通ったときだった。


 (……迫田さん?)


 聞こえてきた声に、自然と歩みが緩む。ほんの少しだけ立ち止まり、ドアの隙間から中をうかがうと、真緒がカップスープを手に、同僚の佐々原と話していた。


 小さく、困ったように笑う顔。


 それが、普段の彼女の無表情に近い佇まいと少し違って見えて――蓮は、視線をそらしてそのまま通り過ぎた。


 (……あんな顔、するんだ)


 話の内容までは深く聞こうとはしなかった。でも、なんとなく“個人的な困りごと”を話しているという空気は伝わってきた。


 “気のせいかもしれないからこそ誰にも言いにくい”――そんな悩みを。


 休憩後、蓮は自席に戻ると、ふと隣の席で黙々と作業する真緒の方へ目をやった。


 いつもと変わらない、静かで、マイペースな動き。人と群れず、でも嫌な感じは全くしない不思議な距離感。無理してるようには見えないが、かといって安心しきってるわけでもない。それが、なんとなく気になった。


 (……言いにくいなら、言わなくていい。けど。)


 「迫田さん。」


 声をかけられて、真緒がぴくりと顔を上げた。


 「最近、ちょっと疲れてる?」


 「えっ……? あ、いえ……そう、ですか?」


 「うん。まあ俺の思い違いかもしれないけど。無理してる感じじゃないけど、ちょっと目の奥がしんどそうだったから」


 「……。」


 一瞬、言葉を失ったように黙る真緒。それでも、数秒ののちに小さく息を吐いて、かすかに笑った。


 「……大丈夫です。ちょっと寝不足なだけなので。」


 「そっか。ならいいけど」


 それ以上は何も聞かず、蓮は軽く頷いて自分の画面に視線を戻した。ただ、心の中でそっと思った。


 (ああいう言い方する子は、たぶん、本当に困ってるときに誰にも言えないタイプなんだろうな。)


 だから、今は気づかないふりでいい。


 けれど何かあったときに、そっと助け舟を出せる位置にいよう。それが、先輩としてのささやかな距離感だった。



 「……あれ?」


 ショップウィンドウを開いた俺は、目を疑った。


 プレイヤー名【Mao】その隣に並んでいる、レベル表示。


 【Lv.99】


 「…………」


 「…………は?」


 Soutarも絶句した。


 だって、今この世界ティレノアで、どんなトッププレイヤーでもレベルはだいたい【55〜60】止まり。みんな同じ壁にぶつかってた。


 敵は強すぎて倒せない。素材は手に入らない。経験値が足りない。


 レベル60手前で、成長が止まる。


 それが、この世界の"常識"だった。


 「……なんで、真緒だけカンストしてんの?」


 「意味わかんねえ……」


 だって、レベル99って。


 一人だけ、完全に別次元の場所に立っている。


 「ちょ、ちょっと本人に聞こうぜ!!」

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