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第16話Reon視点

 マイショップに、静寂が落ちていた。


 真緒がログアウトしてしまった後、無人になった店内には、誰もいないのに、重苦しい空気だけが漂っていた。


 「ど、どうしよう……俺……」

 隣で、颯汰がうろたえている。手をばたばた動かして、ログをスクロールしたり、辺りをきょろきょろしたり。


 だけど──


 Reonは動かなかった。


いや、動けなかった。


 真緒が最後に吐き出した言葉が、頭の中を何度も反響していた。


 誰も、隣に来ないじゃん。


 胸が、ぎゅっと締めつけられる。


 視線を落とした。手元には、さっきまで作っていたレシピのメモ。


 武器パーツの素材一覧。


 (……ああ)


 静かに、Reonは気づいた。


 真緒の作った素材には、「素材練度」という項目が付いていた。


 颯汰が試しに作ったものも、自分が買ったものも、練度は「E」の最低ランクだ。そもそもその項目だってMaoの素材を入手してから見れるようになった項目だ。


 だけど、真緒が使っていた素材は、どれも「SS」。


 天と地ほどの違い。


 (そりゃ、簡単に追いつけるなんて思ってないけど。)


 だけど、それは単に「運が悪い」って話じゃない。


 努力の量も、積み重ねた時間も、こっちはまるで足りてなかった。


 真緒は、自分の手で、素材を拾って、作って。一つ一つ、練度を上げ続けてここまできたんだ。


 それを知らずに、自分たちは。


 安易に、手軽な店売り素材だけで何とかなると思ってた。なんなら前に素材もらえたし、今日だって直に会えたらあわよくばって……。


 (……甘えてた。)


 胸が痛い。


 恥ずかしい。


 情けない。


 そのときもまだ、画面にはぐちゃぐちゃと誹謗中傷が飛び交っていた。顔が見えないから、言いたい放題。興味本位で、誰かを叩くために集まった群れ。


 Reonはそっと、チャットを開き直した。


 そして、静かに打ち込む。


『Maoさんはもう落ちた。顔が見えないからって、好き勝手言いすぎだよ。』


 打ったメッセージは、Maoみたいに怒鳴るものじゃなかった。


 でも、はっきりと静かな怒りを込めた。


 それだけで、少しだけ、チャットの流れが鈍った。


 画面の中で、自分のキャラ。狼耳と尻尾がついたReonが、ぴくりと耳を動かす。不安と怒りと、好奇心の渦の中で、揺れている。


 隣では、Soutarが小さくつぶやいていた。


 「……俺、Maoに、悪いことしちゃったな……。」


 Reonは、少しだけ顔を上げた。


 そして、無言で颯汰のキャラに向かって、どつきモーションを放った。


 「……うおっ!?な、なんだよ急に!」


 驚くSoutar。


 だけど、Reonはニッと笑って、胸の奥で固めた決意を言葉にする。


 「工房に籠もろうかね。」


 「え?」


 「あんな言われたまんまとかだせぇって。」


 驚いたように目を見開く颯汰を、まっすぐ見据える。


 「それはそう。」


 「……俺たちが、最初にあいつの隣に行こうぜ。」


 誰も追いつけなかった。誰も来なかった。


 ずっと待ってたMaoを、俺たちは見てしまった。


 なら、次は俺たちが、自分の足で、そこまで行く番だ。

黙っていても誰も気づかないなら。努力を積み重ねることの意味を、俺たちが証明する。


それは年甲斐もなく胸の奥が、熱く燃えた。


 「よっしゃ!やるぞ!」


 Soutarも、遅れて拳を握りしめる。


 ReonとSoutar、二人は顔を見合わせ、フィールドに駆け出した。


Maoのマイショップの棚には、まだ整然と並ぶ真緒の素材たちが、静かに光を灯していた。





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