戒の配信部屋は、いつもよりも重い空気に包まれていた。
画面の向こうでは、彼のアバターが静かに立っている。目立ったエフェクトも、華やかな演出もなし。
「……こんばんは、戒です。」
彼の声は、いつもより低く、少しだけ震えていた。
「今日の配信は……ちょっといつもと違う。というか、これは“区切り”の配信だと思ってほしい」
コメント欄がにわかにざわつき始める。
その中に混じる「Maoさんのやつ、見た」「やばかったな」「戒、マジかよ」の文字。
「うん。見たよ。Maoさんのあの配信。──“爆発”っていうの、ああいうことなんだな」
彼は一度目を閉じて、小さく息を吐いた。
「俺が、どれだけ無責任なことを言ってきたか、今さらだけど、あの爆発で本当にわかった。あれはもう、怒りとかじゃない。“諦めないで信じて頑張ってきた人”の叫びだった。なのに、それを俺は、何も知らずに、踏みにじったんだ。」
彼の背後、VCで繋がっていた仲間の一人が、ぼそっと呟く。
「……やっちまったな、俺ら」
「……ああ。ほんとそれな。」
「誰一人、ちゃんと止めなかった。面白いと思って、便乗して……最低だったって今ならわかる。」
戒は、首を横に振った。
「止めなかったのは、俺が一番悪い。言い出したのも、言葉を重ねたのも、最後まで責任を取らなかったのも俺だ。だから俺は、自分でちゃんとけじめをつけないといけないって思ってる。」
一拍の沈黙。
「この配信を最後に、しばらく休むことに決めました。配信も、SNSも、全部止める。……俺がまた何かを話すのは、ちゃんと、Maoさんに直接謝れたとき。それまで、俺に“発信する資格”なんてないと思うから。」
コメント欄には賛否が飛び交う。
「逃げるのか?」
「いや、向き合うってことだろ」
「今さら反省しても遅い」
「でも何もしないよりマシだ」
「Maoくんに届くといいな」
その全てを、戒はしっかりと目に焼き付けるように見つめた。
「……信じてくれとも待っててほしいなんて言わない。でも、俺はちゃんと償いたい。許されなくても、せめて、目を見て“ごめん”って言いたいんだ。それだけは、本気で思ってる。」
最後に深く頭を下げて、静かに言う。
「……ここまで、見てくれてありがとう。また、胸を張って戻れる日が来たら──そのときは、ちゃんと話をしよう。」
画面が暗転する。
「配信終了しました」の文字が、静かに浮かび上がった。