「……いねぇ。どこにも、いねぇ……。」
「ほんとに、どこにもいないんだよ。全部の町回った。森も山も、遺跡も浜辺も、ラフレア草原の隅っこまで全部……!」
Soutarと戒はすでに三日目のMao捜索に突入していた。日課の採取? ギルド依頼? 知ったことか。今最優先なのは――
「謝らせてくれよ……! 直接……!」
「このままじゃ夜も眠れねぇ……!」
「実際、寝てねぇ……!」
二人はもう目の下にクマすら作っていた。
そこへやってきたReon。なんだかちょっと日差しがまぶしい。彼は片手にポーション瓶を持ったまま、ぼんやりとフィールドに突っ伏した二人を見下ろす。
「……なに? おまえら、夏イベに参加してないの?」
「違うっ!!」
「Maoを探してるのっ!!」
ログインリストを差し出す二人。確かに「Mao」は緑色のオンライン表示。だが、問題はその右横――フィールド欄が空白。
Reonはそれを見て、首をかしげた。
「……あれ? 何コレ。バグ?」
「俺たちもそう思った!!」
「でもバグじゃなかった!! いくら探してもどこにもいない!!」
「まさか異世界転移とかしてないよな……。」
Reonはポーションをぐびぐびしながら、沈痛な顔で言う。
「……うん、なんか、おまえらさ……見てるとすげぇ気の毒なんだよね……」
「なぜだろう、胸が締めつけられる……。」
「見えないはずの“同情”ってやつが見える気がする……。」
Reonは最後のパンケーキを食べ終わり、串をゴミ箱に投げ入れながらつぶやいた。
「……まあでも、そういう時って、たいてい本人はどっかでのんびりしてるもんだよ?」
そしてそのころ、春霞の洞窟では……。
「……ん~、このキノコ、いい発色だなぁ。染色に向いてる……いや、でもこの湿度だと定着率が……。」
Maoはひとり、今日も地底の春霞の庭園で素材を吟味していた。
ログアウト前にそっと空を見上げてつぶやく。
「外、静かだなー……みんな採取忙しいのかな?」
――このフィールドに入れるのは、世界で真緒ひとりだけ。
Soutarと戒がMaoを探す旅に出てから、気がつけば、もう何日も経っていた。
最初はそれぞれに情報を追っていたはずが、今ではすっかり一緒に行動するのが当たり前になっていた。Reonも
「どうせなら一緒に回るわ」と加わり、気づけば三人旅。
「このへん、風のウィスプスが多いから、風結晶取れるぞー。おい戒、これっておまえの武器進化に使うやつじゃね?」
「……ああ、使えるな。でも俺はこっちだな。」
戒はそう言って、少し離れたところにある岩場を指さした。「溶岩鱗のかけら」、武器鍛冶師・火系ルートの進化素材だ。
「へぇ、火と風で分かれてんのか。じゃあReonは?」
「俺? ……風だね、戒とは別ルート。だけど、たまに技の融合も考えるよ。やっぱ職業選びって趣味出るからなー。戒は安定と火力、俺はバフとスピード。真逆で面白いでしょ?」
「……うん、なんかわかる」
Soutarはふと笑って、二人の武器談義を聞いていた。思えば、こんなふうにのんびり会話しながら素材採取するのも久しぶりだ。
「じゃあさ。」
Soutarが言う。
「おまえらが俺の武器、作ってくれるならさ……その代わり、俺が防具、作ってやるよ。」
そう言ったSoutarの声に、Reonが思わず笑う。
「出たよ。なんでもできる聖騎士系クラフトマン。」
「いや、器用貧乏って言えよ。」
「貧乏ではない」戒がすかさず入れる。「探索での立ち回り、狩人ルートで補ってるし、クラフトの練度は下手な専門職より高い」
「お、ほめてんのか?」
「事実を言ってるだけだ。」
それでもどこか柔らかな口調だった。
Reonもその会話を聞きながら、ちらっとSoutarの持つ弓と盾の複合装備に目をやる。
「でもマジでおまえ、よくそんな構成で動けるよな……回復撒いて、タンクして、遠距離もいけて、しかも防具作れるって。」
「まあ、俺、サポートとか支えるの好きだし。」
ふっと肩をすくめるSoutar。
「火力はおまえらに任せた。俺はそのぶん、おまえらがちゃんと生き残れるようにするよ。」
「……悪くない。」
三人の笑いが森に響く。
Maoの居場所はまだ分からないまま――でも、誰かを探すという目的の中で、誰かと並んで進む道のりは、確かにこの三人をつなげていた。