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第22話真緒、次の一歩を決めてみる

 現実世界、昼休み。


 同僚たちがわいわいと談笑している休憩室の片隅で、真緒はコーヒーを片手にふかーいため息をついていた。


 (……私……やばいのでは?)


 ゲームの世界では、もうだいぶレベルも練度も上がってきた。


 プレイヤーたちも増えてきて、ギルド機能実装の噂も飛び交いはじめた。


 (ギルド……絶対来るよね……)


 春霞の洞窟で、ふとよぎった「一人じゃもったいない」という感情。


 それを思い出しながら、改めて考える。


 (私……一緒にギルド組む友達……いる?)


 がっつり悩んだ。


 Reon……とSoutarが、もしかしたら?


 そう思ったけど、Soutarは普段から色んな人とパーティーを組んでるのを見たことがあるし、なんなら件の配信者戒の動画にも出てるのを見た。


 Reonも、当然誘われるかもしれない。


 そのとき、自分は……?


 「ひとりギルドか……?」


 真緒は小さく呟いて、机に突っ伏した。


 それは、あまりにも寂しすぎる。


 (やだ、やだやだやだ……一人ぼっちはやだ……)


 胸がきゅっと痛む。


 ネットの世界でくらい、楽しく過ごしたいのに。このままだと、ギルドが実装された途端、現実でもゲームでも"ぼっち"確定では?


 そんな最悪の未来が脳裏にちらつき、真緒は休憩時間をまるまる潰して悩み続けた。


 そして──


 「……大丈夫か?」


 不意にかけられた声に、びくっとする。


 顔を上げると、目の前には心配そうな顔の蓮がいた。


 「……先輩」


 「あんまりにも深刻な顔してたから。なんかあったか?」


 一瞬、言うか迷った。


 ゲームの話だなんて、言えるわけがない。会社で、しかも職場の先輩相手に……。


 「……あの、友達って……どうやったら、できますか?」


 真緒は真剣な顔で聞いた。


 蓮は一瞬、ぽかんとして──「小学生か!」と容赦ないツッコミを入れた。


 「いやいやいや、だって……!」


 「お前、友達いないわけじゃないだろ? あの、飲み会んときとか……」


 「違うんです、そうじゃなくて、もっとこう、特別な……!」


 「特別?」


 うまく言葉にできない。


 ゲームの世界で、隣に立って一緒に歩いてくれる存在。頼ったり頼られたり、助けたり助けられたり。そんな"相棒"みたいな友達が、ほしかった。


 でも、うまく言えなくて、もごもごしてると、蓮は苦笑して肩を叩いた。


 「焦んな。大事なのは、まずは自分をちゃんと見せることだろ。」


 「自分……。」


 「素直になれよ。隠してばっかだと、誰にも伝わんねえぞ。」


 蓮は、別に深い意味もなく、気軽に言ったつもりだったかもしれない。


 でも、真緒にはその言葉が、ずん、と胸に響いた。


 (隠してばっか……か)


 たしかに、Maoもリアルの自分も、ずっと一人で平気なふりをしてきた。


 平気じゃないくせに。


 「……じゃあ、やってみようかな」


 「ん?」


 「新しいこと……自分を、見せる……」


 思いついた。ひとりじゃない未来を作る方法。


 「……配信、してみようかな」


 「配信?」


 蓮が目を丸くするのを横目に、真緒はぐっと拳を握った。


 「Vtuber、始めます!」


 びしっと指を立てる真緒に、蓮は半笑いになりながらも、「……なんか知らんが、頑張れ」とぽんと背中を押してくれた。


 こうして、真緒は花舞い散るゲームの世界を、もっとたくさんの人と楽しむために。もっと自分を、誰かに見てもらうために。


 配信者デビューを目指すことを決意したのだった。



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