現実世界、昼休み。
同僚たちがわいわいと談笑している休憩室の片隅で、真緒はコーヒーを片手にふかーいため息をついていた。
(……私……やばいのでは?)
ゲームの世界では、もうだいぶレベルも練度も上がってきた。
プレイヤーたちも増えてきて、ギルド機能実装の噂も飛び交いはじめた。
(ギルド……絶対来るよね……)
春霞の洞窟で、ふとよぎった「一人じゃもったいない」という感情。
それを思い出しながら、改めて考える。
(私……一緒にギルド組む友達……いる?)
がっつり悩んだ。
Reon……とSoutarが、もしかしたら?
そう思ったけど、Soutarは普段から色んな人とパーティーを組んでるのを見たことがあるし、なんなら件の配信者戒の動画にも出てるのを見た。
Reonも、当然誘われるかもしれない。
そのとき、自分は……?
「ひとりギルドか……?」
真緒は小さく呟いて、机に突っ伏した。
それは、あまりにも寂しすぎる。
(やだ、やだやだやだ……一人ぼっちはやだ……)
胸がきゅっと痛む。
ネットの世界でくらい、楽しく過ごしたいのに。このままだと、ギルドが実装された途端、現実でもゲームでも"ぼっち"確定では?
そんな最悪の未来が脳裏にちらつき、真緒は休憩時間をまるまる潰して悩み続けた。
そして──
「……大丈夫か?」
不意にかけられた声に、びくっとする。
顔を上げると、目の前には心配そうな顔の蓮がいた。
「……先輩」
「あんまりにも深刻な顔してたから。なんかあったか?」
一瞬、言うか迷った。
ゲームの話だなんて、言えるわけがない。会社で、しかも職場の先輩相手に……。
「……あの、友達って……どうやったら、できますか?」
真緒は真剣な顔で聞いた。
蓮は一瞬、ぽかんとして──「小学生か!」と容赦ないツッコミを入れた。
「いやいやいや、だって……!」
「お前、友達いないわけじゃないだろ? あの、飲み会んときとか……」
「違うんです、そうじゃなくて、もっとこう、特別な……!」
「特別?」
うまく言葉にできない。
ゲームの世界で、隣に立って一緒に歩いてくれる存在。頼ったり頼られたり、助けたり助けられたり。そんな"相棒"みたいな友達が、ほしかった。
でも、うまく言えなくて、もごもごしてると、蓮は苦笑して肩を叩いた。
「焦んな。大事なのは、まずは自分をちゃんと見せることだろ。」
「自分……。」
「素直になれよ。隠してばっかだと、誰にも伝わんねえぞ。」
蓮は、別に深い意味もなく、気軽に言ったつもりだったかもしれない。
でも、真緒にはその言葉が、ずん、と胸に響いた。
(隠してばっか……か)
たしかに、Maoもリアルの自分も、ずっと一人で平気なふりをしてきた。
平気じゃないくせに。
「……じゃあ、やってみようかな」
「ん?」
「新しいこと……自分を、見せる……」
思いついた。ひとりじゃない未来を作る方法。
「……配信、してみようかな」
「配信?」
蓮が目を丸くするのを横目に、真緒はぐっと拳を握った。
「Vtuber、始めます!」
びしっと指を立てる真緒に、蓮は半笑いになりながらも、「……なんか知らんが、頑張れ」とぽんと背中を押してくれた。
こうして、真緒は花舞い散るゲームの世界を、もっとたくさんの人と楽しむために。もっと自分を、誰かに見てもらうために。
配信者デビューを目指すことを決意したのだった。