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第29話真緒デレル?

 「よーし、じゃあ今日は──家畜・ペット関連クラフト、まとめて解説していきまーす!」


 今日も元気に始まった『Maoのフルオ生活』。


 画面に映るMaoのキツネ獣人アバターは、ふわふわの尻尾を揺らしながら、クラフトテーブルの前に立っている。


 配信開始直後から、チャット欄はすでに盛況だった。


 『ペット機能解放されたのに全然飼えない!』

 『囲いってどこで作れるの!?』

 『Maoセンセー!助けて!』


 「ええー、まだみんな飼えてないの!?せっかく可愛いモンスターいっぱいなのにー!」


 頬をぷくっと膨らませながら、Maoは肩をすくめた。そのしぐさに「かわいい」「怒ってるのも最高」とリスナーのコメントが飛び交う。


 「じゃあ、まず今日紹介するのは──」


 Maoはクラフト画面を開いて、木製ペット小屋とシンプル家畜囲いのレシピを見せる。


 「これ!この2つがないと、ペットも家畜も飼えないの。つまり! これ作れないと機能を生かせないってこと!」


 リスナーからは驚きの声が上がった。


 『店売りじゃないの!?』

 『知らなかった!』

 『そりゃ囲いないって言ってたら飼えないわけだ。』


 「そう、この2つは自作限定。しかも、木工師の屋外装飾とツール練度SSが必要だから、ちょっと大変なの。」


それを聞いてコメント欄が一瞬ざわめく。


 『SSまた来た……』

 『練度ガチ勢向けだったのかー』

 『がんばるしかないな……!』


 「でも、がんばったらちゃんと報われるから!」


 Maoは小さくガッツポーズしながら、続けてもう一つの画面を開いた。そこには、自分の経営するクラフトショップの管理画面が映し出される。


 「というわけでー!」


 アバターがくるっと回り、画面中央で手を広げた。


 「練度まだ届いてないけど、飼育始めたい人向けに! 木製ペット小屋とシンプル家畜囲いを、Mao特製・着色済み&オリジナルパーツ組み込みで!今日限定でお店に並べまーす!!」


 『えっっ!?』

 『マジ!?買います!!!!』

 『本気だこの人!!!』


「ただし!数量限定!早い者勝ちねっ♪ついでに練度足りてないと庭に設置できないから買ったからってすぐに使えるとは限らないけど、そこはあしからず~。」


 笑顔でウインクを飛ばすMao。その瞬間、コメント欄が弾けるように盛り上がった。


 『全力でログインして買ってくる!』

 『それは見逃せない!!』

 『これは課金ブーストしてでも欲しいやつ……。』


 「ちゃんとフィールドにいるうちに買ってね~。人気素材使ってるから原価高いんだよぉ?」


 おどけた声で言いながらも、クラフトにかけた時間と情熱が画面越しに伝わる。リスナーたちも本気でその思いに応えているようだった。


 そして。


 『てか、Maoさんって、これだけ作れるってことは庭すごいことになってるのでは?』

 『店内しか見れないの悲しい……庭も見せてぇぇ!』

 『Maoの庭、絶対映えスポットやん!!』


 そんな声がちらほら上がってきた。


 「えっ……庭……?」


 思わずMaoのアバターがびくっと震える。

リスナーの勢いに少し戸惑いながら、Maoはぽつりと口を開いた。


 「いや……あのね、庭……まだ完成してなくて……。」


 『えー!いいじゃん途中でも!』

 『作りかけでも見たい!』

 『設計中の方がレアだよ!?』


 「いやいやいや!ホントに途中なの!石の柵で区切っただけとか、仮設置のままとか、めっちゃ恥ずかしいしっ!」


 慌てて手を振るMaoに、コメント欄は「見たい見たい」の大合唱。


 「だーめっ!ちゃんと整ってからじゃないと見せないからっ!」


 拗ねたようにそっぽを向くMaoのアバター。でも、頬が赤く染まっているように見えるのは気のせいじゃない。


 『あ~照れてるMaoかわいい~』

 『その反応が見れただけで満足』

 『絶対神庭作ってそうなんだよな……』


 「うぅぅ……そんなハードル上げないでよぉ……。」


 Maoは困り顔で呟きながら、こっそり口角が上がっていた。自分のクラフトや配置、見てみたいって言ってくれる人がいるなんて。


 「……ほんとはね、いつか“お披露目会”とかできたらいいなって思ってるよ。」


 小さく、でも確かにそう言った声は、マイク越しでも温かかった。


 『絶対行く!』

 『Mao邸観光ツアー希望!!』

 『クラフターの聖地爆誕やんけ……』


 Maoは照れ笑いしながら、またクラフト作業に戻る。

完成品に自分だけのサインを入れて、ひとつひとつ丁寧に販売リストへ並べていく。


 ふと、コメント欄の隅に流れた一言が目に入った。


 『今日もMaoさんの配信でやる気出た!ありがとう!!』


 その瞬間、画面のこちらで、真緒の胸がじんわりと熱くなった。


 このゲームを、もっと楽しく。自分の手で、誰かのプレイをちょっとでも支えられるように。


 そんな気持ちが、確かにこの画面の中に息づいていた。



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