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第6話  分かったぞ!(多分)

 私ってね、普段は眠そうとか、いつでも目が半開きとか、散々に言われてる私だけど、一旦、火がついたら、もう、とことんやるんだよね。

 最後まで粘り強く諦めない性格‥‥そう思ってた時期が私にもありました。

 まずは、コウノさんの所で、AIカメラの、緊急時に反応する例の一覧を見る。

「‥‥‥えっと‥」

 暗号みたいなものが並んでるのではなくて、一応、言葉として分かりやすく書いてあるけど‥‥これだけでファイルが何枚にもなる。どんだけ細かいのよ。

 さすがお役所‥‥ではなくて、コウノさんの指示が細かいだけ。これじゃ、どんな些細な事でも異常ありとしてちゃんと報告が来る。

 カメラが異常を見逃すなんて事はありえない。

 コウノさんが自信を持ってる理由がやっと分かった。

「あら、もう帰るの?」

「現場八回と言いますから、ちょっと見てきます」

「え?」

「?」

 私がそう言うと、コウノさんは?な顔をした。

 昔、諺っていうのがあって、短い文章なんだけど、そこには深いウンチクが含まれてる。悩んだ時は、そこにヒントがあると思う。

 私が一人で捜査してる事は、機知室にちゃんと報告されてて、結構自由に行動できる。有難いんだけど、新人にそんな事をさせて何か変だと思わないんだろうか(一応、公務員なのに)。

 タクシーから降りて(支払いはもちろん、機知室)、私はまだ見てない、最初の現場に向かう。ササガワさんのマンションから、そう離れてないので、歩いて五分程度で着いた。

「‥‥ほう‥‥」

 思いっきりビジネス街のど真ん中。高層ビルが所狭しと空に伸びてて、隙間から見える灰色の空間は狭くて、圧迫感を感じる。ビルの先端の注空灯の赤い光が、その空に突き刺すようにあっちにもこっちにも。

一台のカメラが私の方に向いてる。

不審者と思われたなら心外だが、何かを感じて私の方に向いたんだろう。確かに精度は高い。

「‥‥‥やっぱりこの線はダメか‥‥‥」

 もうため息しか出ない。

 どうしたら良いかもうさっぱり。もうミナセさんに助け舟を‥‥。

「いやいや」

 それを言った瞬間、それみた事かと、タバコを吸って、煙を吹きだしながら勝ち誇ってる顔が頭に浮かんできた。

 それだけは避けなければ。

「ふう」

 ため息をつく。とりあえず近くの喫茶店にでも入って、美味しい紅茶でも飲んで、頭をすっきりさせようかな‥‥って思って歩きだす。

公園にさしかかったあたり‥‥同じ植え込み間の歩道をこっちに歩いてくる人がいる。

 その人は女性‥‥表情とか身のこなしで、なんとなく漂う雰囲気で、AIドールだって事が分かった(私はお母さんがAIだったので、その辺は鋭い)。

「‥‥‥‥」

 やっぱり、どこかの会社の人‥‥無表情で歩いてくる。それは別に愛想が悪いわけじゃなくて、話しかければ途端に笑顔になる。

 お母さんもそうだったから。

「‥‥‥‥」

 遠目に見たら普通の人と変わらない。近くで見てもAIだって見破るのは、普通の人だと難しいかもしれない。

 カメラは私を写し続けてる。

「‥‥‥‥私を?」

 目が大きく開いた(いつもより二割増しぐらい。いつもこんな感じなら眠そうとか言われないんだけど)。

 そう‥‥カメラは私の方を向いたまま動かない。

 向こうからくる会社員の女性には、目もくれない。

「‥‥‥‥もしかして」

 私は敢えて女性に近づいた。

「こんにちは、良い天気ですね」

「?‥‥はい」

 いかにもバリバリと仕事が出来そうなその女性は、曇天の中、私がそう言うと首を傾げた。

「‥‥では」

「‥‥‥‥」

 私は真っ直ぐに歩いていく。

 カメラは彼女を見ずに、私を捉え続けてた。

 ある程度の距離が開くと、ようやくカメラは別の方向を向く。その頃にはまた別のカメラが私を見てる。

 この辺では、私が不審者なのかもしれない。

 不審者かどうかを判断する基準‥‥そうか。

「‥‥雨‥‥降りそう‥‥」

 私は38BのA6のマンション前に向かった。

 現場八回‥‥今、何回目なんだろう。




「‥‥‥‥」

 午後になって、ほんの少しだけ雨粒が落ち始めてきた。

私は今、そんなマンション前の道を歩いてる。 

この38B地区は、周囲をビジネス用の高層ビルに囲まれてるベッドタウン。周りの喧騒に比べたらぽつんと不自然に存在している感じ。‥‥と、言ってもマンションも相当、階層が厚いんだけどね。

周囲はビジネス街。

この地区を挟んで反対側の地区へと移動する時、ここを通ればショートカット出来る。なんで昼間からスーツ姿の人がたくさん歩いているのか疑問だったけぢ、そういうふうな目で見てみると、なるほどという事で理解できた。

 私は公園のベンチに腰を下ろす。

「‥‥‥‥」

 書類を脇に抱えている会社員の女性や、バッグを手に持ってる男性‥‥両方ともにAIだ。向こうで何人かの同僚と話ている人達‥‥あれは人間。‥‥反対側にいるのは‥‥AIと人間の混合。

「‥‥ほう」

 カメラの動きを観察する。

 AIドール単体の場合は、レンズを向けていない事が多い(ちゃんと見ているのもある)。

 その違いは‥‥何なんだろうか‥‥。

 それさえ分かれば、無差別犯の犯行方法が分かるはず。

 そして再犯があるなら、それを防げるかもしれない。

 何よりミナセさんの鼻をあかせる。こんな素人を放置プレイをしたミナセさん‥‥許すまじ!

「よし」

 こういう時こそ、コンピューターを使うべき!

 やってやる、やってやるぞ!



 ‥‥で、丸一日‥‥私は機知室のコンピューター室に籠って、シミュレーションを繰り返してた(質問するだけで回答してくれるから、難しい知識はいらないのがありがたい)。

「ミナセさんは?」

 って、いつもいないデスクを見て、周りの人に聞いたりしたけど、

「さあ」

 って、いう答えしか返ってこない。

 きっと何処かでサボってるに違いない。

 これは私が先んじる可能性がかなり出てきたってわけで。

「‥‥これは‥‥」

 被害者のオーナーもAI同士も面識がなくて、犯行時間も違う。それでも路上で起きた犯行の二つは共通点がある。

 私の推測はコンピューターが、それが正しかったと言ってくれてる。

 するとその条件がまた揃うのはいつなのか‥‥。

「え? 今日の午後3時?‥‥次は‥‥一か月後⁈」

 今は一時‥‥近い! 近すぎる!

 この機会を逃したら、実質もう証明するチャンスはないという事。

全く準備が出来ていないのに。

 この話をそのままミナセさんに言って信じてもらえるだろうか。

 いや、その前に居場所を探さないと‥‥そんな時間がない!

 室長は‥‥。

「‥‥‥‥」

 駄目だと思う。ミナセさんはともかく、私の話なんて耳に届かない。それよりだったら、機知室という肩書を使って話を通した方が早いんじゃ‥‥。

「もう!」

 とりあえず私は目標のAIのいる商船会社に向かう。



羽織った黒いコートは‥‥少しだけ馴染んてきてる気がする。


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