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第2話 静かなときめき

しんと静まりかえった住宅地の一軒家の前、庭先に自転車を置くとマユミは玄関ドアを開ける。

中は明るく、キッチンから母親が顔を出した。

『あら、マユミ君、おかえりなさい。』

『ただいま。着替えてくるね。』

『はーい。』

母親の姿が消えるとマユミは階段を上がり、部屋に飛び込むとベットに倒れこんだ。

ぎゅっと握った拳を開くと手の平に爪のあとが見えた。


ごろんと仰向けになり天上を見上げる。

胸がざわざわして両手で顔をおおった。

手を繋ぐってあんなだっけ?初めはそんなことなかったのに、タカヤさんの指が僕の指の間に触った時・・・。

マユミは自分の顔が熱くなった気がした。

あんなドキドキするもの?だって・・・タカヤさんって男だよ?待って・・・僕、おかしい?


体を素早く起こすと自分の両手を重ねてみる。

いわゆる恋人繋ぎ。

マユミは真剣な顔でそれを見ると、ぷるぷると頭を振った。

『違うってば、おかしいから。タカヤさんは冗談でやってる。彼女がいた話もしてたじゃん。もう、失礼だよ、僕は。』


そう言い、はっと今日の出来事を振り返る。

マユミはベットに両手をつくとうな垂れた。

『・・・あ、すっごい失礼なことしてた・・・。』

こうだよね?と、そうやってみせてくれた人に対して、お礼も何もせずに。失礼な態度をとって、しかも振り返りもせずに走り去ってしまっていた。

『最悪だ。僕・・・次、会えるかわかんないのに。』

ベットに顔をうずめるとマユミはうめき声をあげた。


翌日、マユミはいつものように学校へ向かう。

生憎あいにくの雨模様で学校の湿度は嫌というほどに上がっている。

窓は雨のせいで開けられず、廊下側だけが全開だ。

教室にはうちわで扇ぐクラスメイトたちがうな垂れている。


『おっす。』

『あっちーね。』

『あちーよ。マユミ、お前宿題やった?』

『やったけど・・・。』

マユミがチラっと顔をあげて教室の時計を見る。

そろそろホームルームが始まる頃だ。

『間に合わないって。』

それだけ言うと席についた。


教室の教卓側入り口が開き、教師が入ってくる。

その後ろをもう一人。

マユミはリュックから教材を机に直し、耳だけを聞かせていた。

教師はホームルームを始めて、色々と説明した後に教育実習生と誰かを紹介した。


マユミはその名前を聞いて顔をあげる。

黒板にはタカヤの名前がある。

教卓にはスーツを着た、眼鏡姿のタカヤの姿があった。

驚きのあまりにマユミが口を開けると、タカヤはそれに気付いて小さく噴出ふきだした。


・・・先生?じゃない、実習生とか・・・そんなこと一言も言ってなかったじゃない。

ていうか、昨日と雰囲気違うじゃん、つか・・・何?あれ・・・。

ちがうちがう、そうじゃなくて・・・謝るチャンスできたじゃん。

ちゃんと昨日のこと謝って・・・。

ゆっくりと顔をあげるとタカヤと視線が合う、彼は優しげに微笑むとすぐに目をらした。


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