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第3話

不快指数100、そんな言葉が似合う教室はむさくるしい。男子更衣室と化した部屋はムアムアと男臭い。ここに女子が入ってくる前に少しでも換気しておきたい気分だ。


マユミは着替えを終えると教室を出る。丁度廊下の向こうからタカヤが歩いてくるのが見えて軽く会釈すると隣を通り過ぎる。階段を降りて男子トイレに駆け込むと洗面で顔を洗った。髪まで濡らして持っていたタオルを頭から被る。小さく息を吐き鏡を見ると少し顔が赤かった。


暑かったからな・・・と手の甲で頬を冷やして男子トイレを出ると、入り口の傍に誰か立っている。視線をやるとタカヤだった。

『なかなか逃げるじゃないですか?マユミ君。』

タカヤは顔色一つ変えずに意地悪そうに言う。

『そんなことはないですよ。まさか先生で来るなんてびっくりしました。』

『俺もびっくりですよ。まさか来た先に君がいるなんてね。』


タオルの下から顔をあげるとマユミは眉をしかめた。

『いや、僕は制服着てたじゃないですか。知ってたんじゃないんですか?』

『この辺の学校は制服似たり寄ったりだし、わかんないよ。まあ、でも君がいるなら楽しくなるかもな。』


大きな手がマユミの頭に乗っかりタオルをくしゃくしゃ動かした。

『よく乾かしなさい。風邪をひくといけないからね。』

『あ、あの・・・昨日は・・・。』

マユミが言いかけて言葉を止める。入り口に立っていたせいで、他の生徒の邪魔になったのか廊下に出た。また続きを声にしようかとしたが他の生徒達に邪魔されてマユミはタカヤに頭を下げると教室へと戻った。


雨は少し前に上がり、教室の窓は全開になっている。上についているカーテンは風をはらみ大きく膨れている。窓際に座っているマユミの友達ワダが手を振った。

『おう、こっち座れ。涼しいぞ。』

『うん。』

マユミが席につくとワダが頬杖をついた。


『なあ、マユミってあの教育実習生と知り合いなのか?』

『な、なんで?』

『いや、あいつ入ってきた時に多分お前見てびっくりしてたから。』

『ふうん?』

ワダは手元のうちわをパタパタと動かす。

『気付いてなかったんか?』

『うん、教材片してたから。』


気のない返事にワダが教室の後ろに座る女子生徒に目を向けた。

『じゃ違うんかな。ほら、マナさん。教師にも結構人気あるからそっちかな。』

『かもね。』


うちのクラスで一番の美人マナ。優等生で誰にでも親切な人だ。教師からの人気といっても容姿というよりも、彼女自身の品のよさがポイントなんだろう。

マユミがマナを見ていると彼女と目が合い、マナが軽く会釈した。きっとこうしたところが男女共に好感度が高いのかも知れない。


それにしても・・・さっきワダがタカヤさんびっくりしてたって・・・。僕を見つけたから?何で?いや、知ってるやつが生徒とだと困っちゃうか。ああ、そういや謝ってない。

『マユミ、マユミ!』

ワダの声に顔をあげると、ワダが笑う。

『ボヤっとしてんな。お前今日日直だよ。』

『あ、そうだっけ。ほんとだ。』

黒板の隅に名前を見つけて立ち上がった。

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