放課後、黒板を綺麗にしてから掃除を終わらせて教室で日誌を書く。さっきクラスメイトが出て行ったから最後はマユミだけだ。日誌を書いて戸締りをすれば終わり。
今日は随分と時間がかかったのは提出のノートが集まらずに、翻弄されていたからだった。クラブに出ている連中のノートを奪い取り職員室に提出してから今に至る。
日誌を書き終えて、教室の窓を閉める。カーテンを解いてから、教室の後ろのドアの鍵をかける。荷物をまとめて顔をあげると入り口にタカヤの姿があった。
『あれ?まだいたの?』
『あ、すいません。もう出ます。』
マユミの手元に日誌があるのを見てタカヤは笑った。
『ああ、日直か。今日はマユミ君だったんだ。』
『はい。先生はお帰りにならないんですか?』
『うん、帰るけど・・・マユミ君・・・帰らない?』
タカヤは腕を組んでドアにもたれた。
『はい?』
『もしよかったら。』
昨日とは違う雰囲気にマユミはたじろいでしまう。なんと言えばいいのか、このタカヤという人は、格好良い人なのだ。昨日裸は見ているから、その上にスーツが似合うのは当たり前だし、今日は髪も違う、その上眼鏡をかけているから、サーファーだなんて言われなくちゃわからない。ただ色黒の人。
『あの・・先生。』
『ん?』
『僕がそういうの慣れてないって知ってて試すの辞めてもらっていいですか?』
マユミは眉をつりあげるとタカヤを睨む。
『・・・そういうつもりじゃ・・・ないけどね。』
『あ、昨日は失礼なことをして申し訳ありませんでした。さっききちんと謝れたらよかったんですけど、他の人の手前もありますし。先生ですからご迷惑になるので。』
『え?ああ・・・うん。』
リュックを背負って日誌を持つと頭を下げた。
『じゃあ、僕は帰ります。戸締りしますから先生出てください。』
『あ、はい。』
教室を出て入り口ドアに鍵をかけるとマユミはもう一度頭を下げた。
『じゃあ、失礼します。先生、さようなら。』
マユミに押されるようにタカヤは頷いた。
『さようなら・・・。』
廊下に陽が射している。丁度タカヤの顔にかかってその顔が寂しそうに見えた。
けれどマユミは踵を返し廊下を歩いていく。マユミにタカヤの気持ちはまだ見えていなかった。