遠くでクラブ活動の声が響いてる。二人きりの教室には陽が差し込んで、窓辺のカーテンがゆらゆら揺れて、タカヤは無言のままでマユミの様子を伺っているのか、目を閉じている。マユミは動けずに両手の下にあるリュックを握った。
こんな近い距離なんて初めてだ・・・お母さんくらいかな。
『先生?』
声をかけるとタカヤは『失礼。』と一歩離れた。ちらっとタカヤの顔を覗き見る、眼鏡の下の長い睫毛が見えた。
あ、長い・・・へえ、綺麗な顔してるんだ。知らなかった。
マユミの視線に気付いたのかタカヤがこちらを見る。その瞳が薄茶色でドキリとした。
『うん?』
『あ、いいえ。先生、疲れてますか?』
『そうだね。疲れてるかな・・・なんで疲れてるか、聞きたい?』
まるで試すような問いにマユミは眉を下げると首を振った。
『先生が・・・話したいなら。僕はどちらでも。』
『ふうん。』
タカヤは両腕を組むと首を左右に傾けた。
『君達の年頃は全てにおいて好奇心旺盛でさ、年上の俺にも好奇を向けてくる。特別な関係、教師と生徒。正確には実習生と生徒。学校にばれたらやばい奴。俺はそんなリスクを負うのかなって・・・ね。』
『え・・・あの・・・。』
『告白されたんだよ。一週間程度で何が分かるのかな。彼女にしてくださいって・・・俺はさ、ただの生徒としてしか見てないから・・・難しいよね。』
傍にあった机に腰かけてタカヤは笑う。
『俺も同じで、一週間程度で何が分かるんだろ。なのに目で追っちゃって、名前があれば気になって・・・。』
『先生?』
『あ、こっちの話。さっきの子泣いて帰っちゃった。』
ああ、と廊下ですれ違った女子を思い出す。そうか、彼女はタカヤさんに告白した後だったのか・・・。この人はモテルよね。
マユミは少し顔をあげた。隣にいるタカヤは俯き足の上で指を組んでそれを見つめていた。
『・・・生徒って難しいんですか?』
『え?』
『教師と生徒・・・確かに、未成年だし・・・。』
マユミの頭に先ほどの泣いていた女子の姿が映りこむ。
『マユミ君?』
ぎゅっと拳を握るとタカヤに向き合った。
『恋をするって・・・そういうことも込みなんじゃないですかね!』
目の前のタカヤは目を丸くしてマユミを見ている。どこか見当違いの事を言っているのかとマユミは思ったが、さっきの女子を思うと言葉にせずにはいられなかった。彼女の恋が成就して欲しいわけではないけど。
『・・・違います・・・かね?えへへ、僕は恋はよくわかんないから。』
マユミはそう言うとおどけて笑う。そうするのが一番だと思ったからだ。
『・・・マユミ君は面白い。そっか込みか・・・なら俺も頑張ってみようかな。』
『はい。』