放課後、教室でタカヤと会うことが多くなっていた。約束はしないけど、なんとなくこれくらいの時間に教室に行くとタカヤが窓辺の席にいて。マユミは授業が終わって用を済ませると、タカヤのいる教室へ行く。別に特別な何かというわけじゃないけど、その時間は待ち遠しかった。
今日も同じようにタカヤは窓辺の席にいた。
『どうも。』
タカヤの前に座り、彼の手元に視線を落とす。
『ああ、一人だったら読書をね。』パタンと本を閉じて窓の外を見る。同じく視線を向けた。校庭は陸上部がグランドを走っている。熱い風の中で颯爽と美しいフォームが駆けてゆく。
『綺麗に走るね。』
『そうですね、僕は走るのは得意じゃないから・・・そういえば先生はサーフィンするんですよね?』
『そう。最近は色々忙しくて行けてない。マユミ君はしないの?』
『僕は眺めるの専門です。』
『やってみるのも楽しいよ、なんなら教えるけど。』
『いえ、僕は・・・。』
笑って窓の外へ視線を向けた。短距離の練習に笛の合図でスタート練習をしている。
『スタートって難しいですよね。』
『うん?』
『ほら、タイミングよく飛び出すじゃないですか。自然に出来たらいいけど、あ
んな風にパーンと走り出せない。』
『そうだね。でもあれは練習の賜物だ。・・・けど今の言い方はどっか違うように
も聞こえるね。』
頬杖をついてタカヤは笑う。
『悩み事?』
『悩み多き年頃です。先生も僕くらいの頃は悩み事なかったですか?』
『あったね。沢山。学校の事、勉強にバイト。それから週末に遊びに行くとか、
あと・・・恋愛とかね。』
『恋愛か、僕には縁がない話だ。』
『そうなの?好きな子とか・・・いないの?』
『・・・。』
つい黙り込んでしまう。好きな人なんていないし、気になるという経験もない。
ああ、でも・・・最近は。目の前のタカヤの顔を見て唇を結んだ。
こうして二人で会って、話したい、会いたいと思うのはタカヤが初めてだ。
『わからないです・・・。けど。』
『うん。』
『先生とこうして会って話すのは好きです。』
そう口にしてみたら、なんだか照れくさくて微笑みが零れた。うやむやにしたく
て『すいません・・・笑っちゃった。』と呟いた。
目の前のタカヤは口に手を当てると俯いた。
『あ、すいません。』小さく謝罪する言葉にタカヤは片手で制止する。
俯いていたからあまり顔は見えなかったけど、顔を背けた時に見えた彼の耳は赤
かった。