チャイムが教室に響いて、遠く空で少年達の声が響いている。マユミは席を立つ
とリュックをかけた。
『そろそろ帰ります。先生ありがとうございました。』
『うん・・・こちらこそ。』
タカヤは少し残念そうに片手を上げる。
『じゃあ、さようなら。』
『さようなら。』
頭を下げて入り口ドアを開くと一歩外へ出た。けれど背中越しにため息が聞こえ
て振り返る。タカヤは頬杖をついて窓の外を眺めていた。
片手がドアを閉めようとする。けれど頭はそれを拒否していた。そして思ってい
たのと違う言葉が飛び出した。
『アイス食べませんか?』
口から飛び出た言葉にマユミは驚いて口を抑える。
何?アイスって、というか僕何を言ってるの。そんな混乱するマユミを見て、目
を丸くしているタカヤがそこにいた。
『え?マユミ君、今なんて?』
彼も状況がわかっていないらしく、立ち上がってマユミの返答を待っている。
マユミは息を吐くと、もう一度言った。
『アイスを一緒に食べませんか?学校の帰り道に自販機があって・・・、えっと・・・
と、とにかく、その、一緒にかえ・・・えっと・・・。』
言葉を捜そうにも、もうめちゃくちゃでリュックの肩掛けをぎゅっと握り締めた
。
一人で帰ればいいじゃんか。なんなの・・・先生困ってるじゃんか。
マユミが顔をあげるとタカヤは笑って頷いた。
『それいいね、行こう。用意してくるから校門で待っててくれる?』
ドアにいたマユミの肩をぽんと叩いて教室を出て行くタカヤ。マユミの胸が急に
激しく騒ぎ出してやかましくなった。
なに?なんだよ。僕、おかしいって。ただ、先生が寂しそうに見えたから、また
明日って言おうとしたのに、どうして一緒にアイス食べようなんて出てくるんだ
よ。一緒に帰るとか・・・そんなのって・・・放課後のデートみたいじゃん。
そう考えると急に顔が熱くなった。
もうどうすんの。ああ、こんなとこで何してんだよ、僕は。早く行かないと先生
来ちゃうよ。
『もうっ!』
マユミは教室を出ると急いで廊下を駆け出した。靴を履き替えて自転車を準備し
て校門へ行く。まばらに生徒が帰っていく中で、タカヤの姿がなくてホッと息を
吐いた。
『マユミ君?』
後ろから声をかけられて振り返る。そこには今来たのかタカヤがカバンを持って
立っていた。
『行こうか。』
『はい。』
自転車を押して二人で歩き出す。そういえばこういう誰かと下校っていうのも憧
れていたんだっけ。ちらりとタカヤの顔を見上げると、彼は気付かずに前を向い
ている。あ、睫毛・・・金色に光ってる。じっと見つめすぎたせいかマユミが躓く
とタカヤは自転車を片手で押さえた。
『前向いて歩きなさい。』