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第8話

チャイムが教室に響いて、遠く空で少年達の声が響いている。マユミは席を立つ

とリュックをかけた。

『そろそろ帰ります。先生ありがとうございました。』

『うん・・・こちらこそ。』

タカヤは少し残念そうに片手を上げる。

『じゃあ、さようなら。』

『さようなら。』


頭を下げて入り口ドアを開くと一歩外へ出た。けれど背中越しにため息が聞こえ

て振り返る。タカヤは頬杖をついて窓の外を眺めていた。

片手がドアを閉めようとする。けれど頭はそれを拒否していた。そして思ってい

たのと違う言葉が飛び出した。

『アイス食べませんか?』

口から飛び出た言葉にマユミは驚いて口を抑える。


何?アイスって、というか僕何を言ってるの。そんな混乱するマユミを見て、目

を丸くしているタカヤがそこにいた。

『え?マユミ君、今なんて?』

彼も状況がわかっていないらしく、立ち上がってマユミの返答を待っている。

マユミは息を吐くと、もう一度言った。

『アイスを一緒に食べませんか?学校の帰り道に自販機があって・・・、えっと・・・

と、とにかく、その、一緒にかえ・・・えっと・・・。』


言葉を捜そうにも、もうめちゃくちゃでリュックの肩掛けをぎゅっと握り締めた

一人で帰ればいいじゃんか。なんなの・・・先生困ってるじゃんか。

マユミが顔をあげるとタカヤは笑って頷いた。

『それいいね、行こう。用意してくるから校門で待っててくれる?』

ドアにいたマユミの肩をぽんと叩いて教室を出て行くタカヤ。マユミの胸が急に

激しく騒ぎ出してやかましくなった。


なに?なんだよ。僕、おかしいって。ただ、先生が寂しそうに見えたから、また

明日って言おうとしたのに、どうして一緒にアイス食べようなんて出てくるんだ

よ。一緒に帰るとか・・・そんなのって・・・放課後のデートみたいじゃん。

そう考えると急に顔が熱くなった。

もうどうすんの。ああ、こんなとこで何してんだよ、僕は。早く行かないと先生

来ちゃうよ。


『もうっ!』

マユミは教室を出ると急いで廊下を駆け出した。靴を履き替えて自転車を準備し

て校門へ行く。まばらに生徒が帰っていく中で、タカヤの姿がなくてホッと息を

吐いた。

『マユミ君?』

後ろから声をかけられて振り返る。そこには今来たのかタカヤがカバンを持って

立っていた。


『行こうか。』

『はい。』

自転車を押して二人で歩き出す。そういえばこういう誰かと下校っていうのも憧

れていたんだっけ。ちらりとタカヤの顔を見上げると、彼は気付かずに前を向い

ている。あ、睫毛・・・金色に光ってる。じっと見つめすぎたせいかマユミが躓く

とタカヤは自転車を片手で押さえた。

『前向いて歩きなさい。』

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