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第9話 冷たくて暖かい

最近置かれたばかりの新しい自販機にはアイスクリームが並んでいる。

この間、女子がグループで買っているのを見て気になっていた。

2コインで買えるアイスは沢山の種類がある。

『へえ、凄いねえ。知らなかった。』

タカヤはそう言うと、ラズベリーのボタンを押す。

『どれにする?』

そう聞かれて、マユミはラムレーズンのボタンを押した。


『いい趣味。』

二人でベンチに座ってアイスクリームを食べる。

丁度陽が落ちて優しい色合いが空に広がっている。

『こんなことするのは初めてだ。』

タカヤはアイスを食べながら笑う。

『僕もです。やっぱり楽しいなあ・・・。』


『そっか。マユミ君の初めてを俺が貰ってよかったのかな?友達とか、恋人とかそういう人のほうが良かったんじゃない?』

『そんなことはないですよ。僕は先生とも一緒に来られて良かったし。恋人はわかんないけど、友達と先生は違うから。なんていうか・・・特別な感じ?』

『そっか。なら良かった。』


カシュっと音を鳴らしてラムレーズンの下のコーンにかぶりつく。

『あ、美味しい。先生これメッチャ美味しい。』

『まじで?』

二人してアイスクリームのコーンをかじると、笑いあった。

『まじだ。サクサクだな。』


『うん・・けど、よく考えたら家に帰ったら夕飯食べるんだった・・・。』

『あー、そうだよね。マユミ君はお母さんと二人暮らしだっけ?』

『はい。多分用意してくれてると思います。先生は一人暮らし?』

タカヤはうんと頷く。

『そうだよ。一人で全部用意する。炊事洗濯全部だ。大変だよ、だからこそお母さんには感謝しないとね。』

『はい。・・・大変そうだなって思うから、少しは手伝ったりするんですけど、なんか邪魔になっちゃったりして・・・、いまだにご飯は作れないし。』


『ふうん・・・簡単なレシピならあるよ?』

手の中のアイスクリームを食べ終わるとタカヤは手をパンパンと叩いた。

『簡単って・・・僕でも出来たりしますか?』

最後のひとかけらを口に放り込み両手を擦った。

『そりゃ簡単。今度機会があれば教えるよ、作り方。』

『是非。』


マユミが笑うとタカヤの手が伸びて頬に触れた。

指先でそっとこすると、彼は小さく頷く。

『ついてた。ん?』

至近距離で彼を見てマユミは顔を背けると俯いた。


『どうしたの?』

『いえ、大丈夫です。』

『さて、帰ろうか。マユミ君の家はここから一本道だよね。じゃあ、気をつけて。』

タカヤは礼を言うと行ってしまった。

マユミは彼を見送ってから、胸の辺りを押さえるとぎゅっと瞼を閉じる。

心臓・・・落ち着いてよ。

僕だってびっくりした。

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