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第13話 タカヤの苦悩

マンションの一室。

中は薄暗く間接照明だけが灯っている。

タカヤは煙草に火をつけると、リビングの床に座って窓の外を見つめていた。


数時間前、この部屋にはタカヤが気になっている少年がいた。

彼はマユミといい、タカヤが教育実習をしている学校の生徒だ。

初めて出会ったのは海だったけど、あの日、あのままもう会えないのかと思っていたところで、学校で見つけた時は正直驚いた。


学生なのは知っていた、けれど自分が行く学校にいるなんて保障はなかったから。

マユミはとても驚いた顔をしていたのが印象的だった。

これまでの人生でタカヤはずっと女性と付き合ってきた。

あの日も、突然別れを切り出されてイライラしたからサーフィンに来た。


波に散々もまれて気分も良くなったと浜に上がってみたら、少年が大きな独りごとを言っている。

これは面白いと近づいたら、意外と素直そうで話したくなった。

話しているうちに、可愛らしい性格がわかってきて、少しだけ試してみたくなった。

自分の手を出して、相手が答えたら手を握る。

昔からタカヤがしていた相性占いみたいなものだったけど、男相手にするなんて想像はしていなかった。


マユミは少年の手で少しだけ小さくて暖かい。

彼が手を重ねたとき、安心した顔をしたのでもっと見たくなった。

指の間に指を滑らせる恋人繋ぎは女の子を落とす時に結構有効で、ちょっと尻の軽い子なら簡単にそうなる。

でもマユミは少年で、女の子を落とすみたいな気持ちでやったわけじゃない。


ただ、どんな顔をするんだろうって気になっただけだ。

そうしたら、何かいけないことでもしたようなそんな顔をして彼は俯いた。

面白いと思うと同時にタカヤの胸に火がついた。

もっとこの子が知りたいと。


それからなんとかこうして部屋で一緒に食事をする機会ができて、正直に言えばとても緊張していた。

言わなくていいことまで言ってしまったんじゃないか?

そんなことが今になって渦巻いている。

傍にいる時間は増えるたびに、どんどん惹かれる自分がいる。

マユミはまだ未成年で子供で生徒だ。


そしてもうじきお別れがくる。

それが多分タカヤを急がせている。

これは恋か?

考えても考えても女の子に感じるものと良く似てる。

傍にいれば触れたいし、声を聞きたくなる。

もっと笑わせたいと思う。


残りの数日で、どんな風に彼に近づいていけばいいんだろうか?

マユミは自分のことを好きになってくれるだろうか?

それは恋人として?

それとも友人として?

それとも・・・。


タカヤの中でまだマユミへの思いが何なのか決めきれずにいる。

彼はどう思っているんだろうか?

俺はもしかして・・・無理に押し付けていないだろうか?

少し距離を持った方がいいだろうか?

どうしたら・・・。

タカヤは立ち上がると、キッチンの冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出すと、プルタブを開けた。

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