マンションの一室。
中は薄暗く間接照明だけが灯っている。
タカヤは煙草に火をつけると、リビングの床に座って窓の外を見つめていた。
数時間前、この部屋にはタカヤが気になっている少年がいた。
彼はマユミといい、タカヤが教育実習をしている学校の生徒だ。
初めて出会ったのは海だったけど、あの日、あのままもう会えないのかと思っていたところで、学校で見つけた時は正直驚いた。
学生なのは知っていた、けれど自分が行く学校にいるなんて保障はなかったから。
マユミはとても驚いた顔をしていたのが印象的だった。
これまでの人生でタカヤはずっと女性と付き合ってきた。
あの日も、突然別れを切り出されてイライラしたからサーフィンに来た。
波に散々もまれて気分も良くなったと浜に上がってみたら、少年が大きな独りごとを言っている。
これは面白いと近づいたら、意外と素直そうで話したくなった。
話しているうちに、可愛らしい性格がわかってきて、少しだけ試してみたくなった。
自分の手を出して、相手が答えたら手を握る。
昔からタカヤがしていた相性占いみたいなものだったけど、男相手にするなんて想像はしていなかった。
マユミは少年の手で少しだけ小さくて暖かい。
彼が手を重ねたとき、安心した顔をしたのでもっと見たくなった。
指の間に指を滑らせる恋人繋ぎは女の子を落とす時に結構有効で、ちょっと尻の軽い子なら簡単にそうなる。
でもマユミは少年で、女の子を落とすみたいな気持ちでやったわけじゃない。
ただ、どんな顔をするんだろうって気になっただけだ。
そうしたら、何かいけないことでもしたようなそんな顔をして彼は俯いた。
面白いと思うと同時にタカヤの胸に火がついた。
もっとこの子が知りたいと。
それからなんとかこうして部屋で一緒に食事をする機会ができて、正直に言えばとても緊張していた。
言わなくていいことまで言ってしまったんじゃないか?
そんなことが今になって渦巻いている。
傍にいる時間は増えるたびに、どんどん惹かれる自分がいる。
マユミはまだ未成年で子供で生徒だ。
そしてもうじきお別れがくる。
それが多分タカヤを急がせている。
これは恋か?
考えても考えても女の子に感じるものと良く似てる。
傍にいれば触れたいし、声を聞きたくなる。
もっと笑わせたいと思う。
残りの数日で、どんな風に彼に近づいていけばいいんだろうか?
マユミは自分のことを好きになってくれるだろうか?
それは恋人として?
それとも友人として?
それとも・・・。
タカヤの中でまだマユミへの思いが何なのか決めきれずにいる。
彼はどう思っているんだろうか?
俺はもしかして・・・無理に押し付けていないだろうか?
少し距離を持った方がいいだろうか?
どうしたら・・・。
タカヤは立ち上がると、キッチンの冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出すと、プルタブを開けた。