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第14話 告白

『あーお疲れ様。ありがとうね。』

年老いた教師の手伝いを終えて、マユミは頭を下げると準備室を出た。

腕時計を見るともう随分と時間が遅い。

いつもならもう教室にいてタカヤと話しているか、引き上げる時間だ。

もういないかも知れない、そう思いつつ誰もいない廊下を急ぐ。

そしていつものように教室のドアを開けた。

窓辺には読書をしているタカヤがいる。

ドアが開くのに気付いた彼はマユミを見ると微笑んだ。


『先生、いた。』

マユミはホッとしてタカヤの傍に近寄ると謝罪する。

『そんな気にしなくても・・・大丈夫。何か用事をしていたんでしょ?ほら座って。』

『でも・・・。』

座るようにうながされて、マユミは恐縮しながら彼の前に座った。

『いい。マユミ君が来てくれただけで。』

タカヤの言葉にマユミは一瞬唇を噛む。

どうしてだか泣き出しそうになって俯いた。

『どうした?』

『いいえ・・・すいません。なんでかな・・・、ごめんなさい。』


マユミは顔を背けると両手で顔を覆う。

タカヤの優しい声が耳に響くたびに目頭が熱くなった。

なんだろう・・・これ。

『マユミ君?』

タカヤはマユミの目の前に来ると、ひざまずいて様子を伺っている。

『・・・先生・・・。』

マユミの胸の中でザワザワした思いがこみ上げてくる。

さっきまで年老いた教師の手伝いのために荷物を運んでいた時、教師のペースに合わせて運んでいたからずっと気になっていた。


タカヤが教室にいなかったらどうしよう、もし待ちくたびれて帰ってしまっていたら、もし怒ってしまっていたら。

そんな思いがずっと頭をめぐっていた。

何よりも・・・嫌われたらどうしよう・・・そればかりが胸にこみ上げて仕方なかった。


『マユミ君、大丈夫?俺は気にしてないから・・・大丈夫だよ。』

『はい。』

ぐちゃぐちゃの顔を両手で拭いて何度か頷いた。

『すいません・・・ごめんなさい。』

マユミがやっと笑うと、タカヤはホッとしたように肩を降ろす。

『そっか・・・よかった。でもどうしてそんな?』

『・・・それは。』

『それは?』


タカヤはマユミの顔を見上げたまま微笑む。

窓から光が差し込んで彼の顔を照らしている。

マユミはそっと両手でタカヤの顔を包んだ。

『ん?マユミ君?どうし・・・。』

頬に触れた手を滑らせてタカヤを抱きしめる。

心臓が破裂しそうなほどに鳴っていた。


『・・・先生、僕は先生が好きです。』

口から出た告白にマユミは驚いた。

けれどその瞬間タカヤの顔がマユミに降ってきた。

唇が重なる。

息が出来ないほどのキスにマユミはただ目を閉じた。

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