やっと離れた唇に小さく息を吐いてタカヤを見る。
いつも以上に優しい顔をしている彼は、マユミの頬に触れた。
『俺も君が好きだよ。』
『ほんとに?』
タカヤは優しく頷くとマユミの手を握った。
けれど廊下の向こうから足音が聞こえて、立ち上がるとマユミに少し伏せるように呟く。
足音と共にがらりとドアが開く。
戸締りをしに来た用務員だ。
『あれ、先生ですか?どうしました?』
『いえ。少し生徒が気分が悪くなっていたので様子を見ていました。』
タカヤは体を伏せているマユミを少しだけ体を避けて見せた。
『ああ、大丈夫ですか?もしなんなら・・・。』
『いいえ。私が車で送りますので。鍵はこちらでしておきます。』
『そうですか。お大事に。』
『ご足労おかけしました。』
ドアが閉まり、用務員が来た道を帰っていく。
タカヤがふうと息を吐くとマユミの頭を撫でた。
『帰ろう。マユミ君。』
『はい。』
先ほどとは違ういつもの先生の顔をして、タカヤは戸締りをすると、マユミと教室を出て鍵をかけた。
『マユミ君、本当に送っていくから玄関のところで待っていてくれる?』
『はい。』
小さく頷くマユミの頭を撫でて、タカヤは廊下を歩いていく。
彼の背中が見えなくなるとマユミは両手で口を抑えた。
キス・・・初めてした。
思い出したらまたドキドキして心臓が早くなる。
唇と舌の感触がまだ残っている。
あんなの・・・。
マユミはハッとして急いでトイレに駆け込んだ。
少し薄暗い玄関にマユミがたどり着くとすでにタカヤは立っていた。
『あれ?何かあった?』
『いえ・・・少し用を足していて・・・お待たせしました。』
『そっか、行こう。』
職員用の出入り口から駐車場へ向かい、車に乗り込む。
ゆっくりと車が走り出すと、運転席のタカヤがマユミの手を握った。
『ごめんね、キスして。』
『・・・え?あ・・いいえ。そんなことは。』
『そんなこと、ないわけないでしょ?』
タカヤが笑うとマユミは見透かされた気がして俯いた。
『ああいうものですか?』
『そうかもね。マユミ君は若いし、初めてだったよね?』
『はい。』
『どうだった?』
どう・・・って。マユミは唸って俯くとタカヤの指がするりとマユミの指と絡む。
あの日と同じ恋人繋ぎ。
あの日と違うのはこの状況だろうか。
『き・・・。』
『き?』
マユミは自分の気持ちに正直に口にした。
『気持ちよかった・・・です。』
それを聞いてタカヤは、んっと唸ると唇を結ぶ。
その顔は外からのライトで照らされて赤かった。
『マユミ君。』
『・・・はい?』
『あんまり可愛いこと言わないで。』
『え?』
『本当に、マユミ君がドキドキするのと同じで俺もしてるから。』
マユミが笑うと、タカヤも苦笑した。