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第17話 新しい季節

桜が舞い散る中、雑誌の撮影なのかスタッフは忙しなく動き、少し季節とずれた服を着た青年はポーズをとる。

『マユ君、いいよ。』

カメラマンの合図で撮影は終了するとマユミはにこりと笑った。

『お疲れ様でした。』

『お疲れ様ー。』

挨拶を交わしてバスに戻るとマユミは服を脱ぐ。

それを手渡されたスタッフの女性コジマは笑う。


『マユ君、本当に背が伸びたよね、今180だっけ?』

『はい、成長期らしいです。』

『本当に大きくなった。二年前は私とそんなに変わらなかったのに。』

コジマはメイク落としをコットンに含ませると、マユミの顔に押し当てる。

『コジマさんよりは大きかったですよ。けど、母曰く父に似てるって言ってました。』

『へえ、マユ君は美男美女から生まれたのね~。遺伝子強いわ。』


テキパキと顔を拭かれてマユミは私服に着替えると、スケジュールの確認をする。

全て終了するとスタッフたちに挨拶をしてから帰路に着く。

マユミは現在大学生でモデルをしている。

二年前歩いているのをスカウトされて、気分転換にしてみようと思ったからだ。

高校生の時よりもぐんと背が伸びて180センチある。

モデルをするのだからと体を鍛えたり、お洒落に気を使ってみたりと楽しい日々を送っている。


ただ胸にぽっかり穴が開いているのは、あの日消えてしまったあの人のせいだ。

あれからマユミは普通に女の子とお付き合いをした。

最近別れてしまったけど、マユミにとっては素敵な恋だったと思う。

でもあの日みたいにドキドキするような感じではなかった。

バス停の前を通り過ぎた時、女子校生達の視線が絡み付いてマユミは鞄から眼鏡を取り出す。

前髪をくしゃくしゃと乱すと彼女たちに小さく会釈した。

『やっぱりマユだよね。かっこいい。』

読者モデルのマユは女子中高生に人気らしく、こうして声をかけられたりすることも多い。


この町は実家から少し離れていて都心になる。

学校に近いという理由でここに住んでいるが、ちょうどモデルをやるのにも適している。

一石二鳥というやつらしい。

バスを乗り継いで穏やかな住宅街に着くと、そこから一軒家が並ぶ道のりを行く。

殆どが立て替えられて綺麗な家がずらずら並んでいるが、その少し向こうに古いアパートが建っている。

そこが現在のマユミの家だ。

アパートは木造で七十の老婆が管理している。

今日も外を念入りに掃除していた。


『あら、おかえりなさい。マユミさん。』

『ただいま帰りました。スミさん。』

老婆スミはシワだらけの顔をにっこり微笑ませてから、マユミの手を握る。

『マユミさん、ご飯食べた?ちょっとおかず沢山作ったから持っていって。』

いつものスミの言葉にマユミは頷くと微笑んだ。

『ありがとうございます。いただきます。』

『じゃあいらしてね。』

スミは箒をもってゆっくりとアパートへ入っていく。

マユミもその後に続いた。

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