雑誌の表紙を飾ることになって、せっかくだからと本屋へと足を伸ばした。
街の大きなショッピングモールに入っている本屋の入り口の平台には、沢山雑誌が並べられている。
そのうちの一つにマユミは自分を見つけた。
そっと手にとって購入すると、モールのカフェに入った。
中を少し確認しておきたかったからで、ペラペラ捲っているとすぐ傍に女の足が見えて顔をあげた。
『あの・・・マユさんですか?』
女は両手でマユの表紙の雑誌を抱えている。
ああ、とマユミは頷くとにこりと笑った。
『サインをいただけますか?』
震える手で雑誌を差し出されてマユミは彼女の手からペンを貰い、場所を確認してからサインを書く。
『はい、どうぞ。』
『ありがとうございます。』
女は目を潤ませて頭を下げるとすぐに立ち去った。
そのあと数人がやってきてサインを書いていたが、カフェ側がマユミの席に近づかないように対応してくれていた。
マユミは手帳でスケジュールを確認してから席を立つ。
カフェのスタッフに礼を言って立ち去るとモールの出口へと向かう。
いつものように眼鏡をかけようと俯いた時、丁度前方からやってきた男とぶつかった。
『すいません。』
マユミが顔をあげて謝罪すると、男はマユミの顔を見て嬉しそうに笑った。
『あれ、マユ?マユだよね?』
『え?』
金髪にピアスという少し派手目の男は、マユミの腕を掴んで顔をじっと眺めている。
その目はどこかよくやってくるファンの女の子たちと似ていた。
『俺ファンなんだ。めっちゃ嬉しい。会えて嬉しい。』
『あの・・・すいません。』
ぐっと腕を握られてマユミは眉をしかめると、男はハッとして手を離した。
『ご、ごめんなさい。俺、興奮して。ごめん、ごめんなさい。』
『・・・いえ。』
少しだけ男の声が大きいのか、周りの目が集まりだす。
マユミは彼の手を引くと歩き出した。
『ちょっとこっち。』
人目のない場所までやってくるとマユミが彼の手を離す。それをどこか残念そうに男は見つめるとマユミに言った。
『ごめん、ごめんね、怒ったよね?』
『いえ、怒ってはないです。あまり人目につくのはよくないから。移動してごめんなさい。それとぶつかってごめんなさい。』
マユミは出来るだけ話を切るように言葉にすると、軽く会釈をした。
『じゃあ、これで。』
踵を返して去ろうとするマユミの腕を彼は掴むと、
『マユ、マユ。もし・・・マユに恋人がいないなら俺と付き合って。お願いします。』
『え?』
『だめ?俺こんなだから、だめ?』
戸惑いながらも彼の手を振りほどいて、マユミは距離を取る。
その時マユミの後ろから声がした。
『カナエ君、何してるの!』
聞き覚えのある声。
カナエと呼ばれた金髪の男は、マユミの後ろを見て微笑む。