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第19話 ファン

雑誌の表紙を飾ることになって、せっかくだからと本屋へと足を伸ばした。

街の大きなショッピングモールに入っている本屋の入り口の平台には、沢山雑誌が並べられている。

そのうちの一つにマユミは自分を見つけた。


そっと手にとって購入すると、モールのカフェに入った。

中を少し確認しておきたかったからで、ペラペラ捲っているとすぐ傍に女の足が見えて顔をあげた。

『あの・・・マユさんですか?』

女は両手でマユの表紙の雑誌を抱えている。

ああ、とマユミは頷くとにこりと笑った。

『サインをいただけますか?』

震える手で雑誌を差し出されてマユミは彼女の手からペンを貰い、場所を確認してからサインを書く。


『はい、どうぞ。』

『ありがとうございます。』

女は目を潤ませて頭を下げるとすぐに立ち去った。

そのあと数人がやってきてサインを書いていたが、カフェ側がマユミの席に近づかないように対応してくれていた。

マユミは手帳でスケジュールを確認してから席を立つ。

カフェのスタッフに礼を言って立ち去るとモールの出口へと向かう。

いつものように眼鏡をかけようと俯いた時、丁度前方からやってきた男とぶつかった。

『すいません。』


マユミが顔をあげて謝罪すると、男はマユミの顔を見て嬉しそうに笑った。

『あれ、マユ?マユだよね?』

『え?』

金髪にピアスという少し派手目の男は、マユミの腕を掴んで顔をじっと眺めている。

その目はどこかよくやってくるファンの女の子たちと似ていた。

『俺ファンなんだ。めっちゃ嬉しい。会えて嬉しい。』

『あの・・・すいません。』

ぐっと腕を握られてマユミは眉をしかめると、男はハッとして手を離した。


『ご、ごめんなさい。俺、興奮して。ごめん、ごめんなさい。』

『・・・いえ。』

少しだけ男の声が大きいのか、周りの目が集まりだす。

マユミは彼の手を引くと歩き出した。

『ちょっとこっち。』

人目のない場所までやってくるとマユミが彼の手を離す。それをどこか残念そうに男は見つめるとマユミに言った。

『ごめん、ごめんね、怒ったよね?』

『いえ、怒ってはないです。あまり人目につくのはよくないから。移動してごめんなさい。それとぶつかってごめんなさい。』


マユミは出来るだけ話を切るように言葉にすると、軽く会釈をした。

『じゃあ、これで。』

踵を返して去ろうとするマユミの腕を彼は掴むと、懇願こんがんするようにすがりついた。

『マユ、マユ。もし・・・マユに恋人がいないなら俺と付き合って。お願いします。』

『え?』

『だめ?俺こんなだから、だめ?』

戸惑いながらも彼の手を振りほどいて、マユミは距離を取る。

その時マユミの後ろから声がした。

『カナエ君、何してるの!』

聞き覚えのある声。

カナエと呼ばれた金髪の男は、マユミの後ろを見て微笑む。

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